第5話 お嬢様、インタビューされる

「イルワーク、私やってみたいことがあるの」

「承りましょう」



「ヒーローインタビューって憧れちゃうわよね」

「少年少女の憧れでございます」

「例に漏れずこの私も憧れているのよ、イルワーク」

「ということは、つまり――」

「そう、ヒーローになって。ヒーローインタビューをするのよ」

「ヒーローになって、のくだりいささか引っ掛かりますが、そういうことであれば、このイルワークにお任せください」

「相変わらず頼りになるわね、イルワーク」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます」



「というわけで、お着替え完了よ」

「安定の全身タイ……いえ、パワードスーツでございますね」

「ヒーローの正装ですもの、当然だわ」

「しかも今回はピンクではなく、レッドなんですね」

「ええ、リーダーですもの」

「しかしお嬢様、一点気になるのですが――」

「何かしら」

「なぜマスクを外すのです」

「あら、イルワーク、わからないのかしら。あなたともあろう者が」

「申し訳ございません、お嬢様。私ともあろう者が、姿を隠して戦っているはずのヒーローがなぜ顔出ししているのかという点について、納得のいく答えを導き出せておりません」

「わかってないわね、イルワーク。でもこの言葉を聞いたらどうかしら。……『最終回』」

「最終回……ハッ! 成る程、これは最終回にありがちな、敵を倒した後にマスクを外したりする、あるいは変身していない状態でなぜか変身後の名乗りをやったりするアレですね?!」

「その通りよイルワーク。最終回、あるいは最終回付近では、多少の素顔チラ見せは許されるものなの。ましてやこれはヒーローインタビュー。ラスボスを倒した後のインタビューですもの。顔でも何でも出すわよ」

「出来れば出すのは顔だけにとどめていただきたいところでございます」



「では、今回、『ガラクータ帝国』から地球を救った『光の使者シャイニーファイブ』を代表して『レッドシャイニー』さんに来ていただきました!」

「ご声援ありがとうございます」

「幾度となく窮地に立たされましたね」

「ええ、まさか追加戦士のゴールドシャイニーが帝国側のスパイだったとは驚きでした」

「こちら側の作戦はすべて筒抜けでしたからね」

「ですが、大幹部もろとも自爆するという形で、最後は我々の仲間として戦ってくれました」

「あのシーンは涙なしには見られませんでしたね」

「ええ、私も、もちろんメンバーも悲しかったです。敵側のスパイとはいえ、同じ釜の飯を食った仲間でしたから」

「しかし、そこで彼の心臓に埋め込まれたフェニックスシステムが作動して華麗なる復活を遂げましたね」

「そうです、富田林とんだばやし博士が発明したフェニックスシステムです。全く使われないまま終わるのかと思いましたが。あれが上手く作動して『プリズムシャイニー』として蘇った時は本当に嬉しかったです。その夜はメンバー全員でお祝いをしました」

「お祝いですか。やはりブルーシャイニーさんのお寿司屋さんで?」

「いえ、あそこは回らない寿司屋で高いので、デリバリーのピザにしました」

「そうでしたか。やはりマルゲリータを?」

「いや、シーフードミックスと、高菜明太ピザですね」

「成る程。いずれにしても海鮮、と。さて、『ガラクータ帝国』を倒したわけですけど、今後のご予定は?」

「そうですね、ブルーは実家の寿司屋を継ぐために修行の旅に出ると言ってましたし、グリーンは緑川財閥の御曹司ですからね、もう勝手に家を抜け出したりも出来ないでしょう。イエローは舞台俳優の夢が諦めきれないみたいですし、ピンクはこの1年結婚を延期してもらっていましたからね、来月挙式だそうで」

「ええ、ピンクシャイニーさんご結婚なさるんですか? 私はてっきりレッドシャイニーさんとお付き合いなさっているとばかり。ものすごく仲がよろしかったので」

「あれは、そうすることでピンクの恋人を守っていたのです。一般人の恋人がいると知られると、誘拐されて改造手術を施されたりしますからね」

「成る程。では、レッドシャイニーさんはこれからどうなさるのですか?」

「僕は今回の経験を活かして、アクションクラブのオーディションを受けてみようかと」

「それはさぞかし迫力あるシーンが撮れそうですね! 間違っても情熱の炎で相手役を焼き尽くさないでくださいよ?」

「もちろん、この力は封印しますよ。ハッハッハ」

「それではそろそろお時間でございます。レッドシャイニーさんありがとうございました。1年間、お疲れさまでした!」

「ありがとう! 来週からは僕らの後輩『煌騎きらめき戦隊スパークソルジャー』が始まります! ぜひ、応援よろしくお願いします!」

「『光の使者シャイニーファイブ』より、レッドシャイニーさんでした! ありがとうございました!」



「……いかがでしたか、お嬢様」

「完璧よイルワーク。よくもまぁありもしない設定やら裏話をぺらぺらと語ってくれたわね」

「案外嫌いじゃないのでございます」

「嫌いじゃないとかいうレベルじゃないわよ」

「申し訳ございません。大好きでございます。それにしてもお嬢様」

「何かしら」

「恰好の時点でおかしいなとは思っていたのですが――」

「何かしら」


「お嬢様がインタビューをする側だったのですね」

「当たり前でしょう。何のためにあなたにパワードスーツを着せたと思っているのよ」

「お戯れかと」

「パワードスーツは戯れで着られるようなものじゃないのよ。肝に銘じておくことね」

「かしこまりました」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アデレナお嬢様はまだやってみたい 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ