第3話・モンスターなんて存在しない。

『パラ。』と表紙をめくると、美しい装飾が施された長剣を持ち、白いドレスと腰まで届く薄紫色の髪を持つ、女神様のような女性の絵が載っていました。


「はぁ〜〜〜、なんて美しい女神様なんじゃぁ。村一番の美人のエミィが、雑草にしか思えん。」


 しばらくの間、エッサは彼女の姿絵に心を奪われていましたが、ブゥンブゥンと頭を振りかぶって思いを断ち切りました。


「こんな綺麗な女神様が実在する訳がねぇ〜。だどもぉ〜?為して、この本に載っているんだぁ〜?」


 この本がスパイの極秘資料ならば、女神様を載せる意味が分かりません。エッサは今まで一度も使ってなかった脳みそをフル回転させて考えますが、そもそも、今まで一度も考えるという行動をした事がありません。本当に今やっている行動が『考えている』なのかも分かりません。


「コントローラ?セーブ?レベル?意味の分からない説明が続くのぉ〜?為して、歩くのにコントローラを使わないといけないんだぁ〜?普通に歩いたらいいじゃろう。」


 歩き方から、ジャンプの仕方、武器の振り方と馬鹿馬鹿しい説明が続きます。エッサは口を塞いで笑うのを必死に堪えています。スパイに見つかったらお終いです。どんなに可笑しな事が書かれていても、声を出して笑う事は駄目でした。


「これは?魔法の使い方!いやいや、そげな事がある訳がねぇー!魔法なんて存在する訳がねぇー!やっぱり、この本は何処かの馬鹿が書いた妄想じゃぁ。」


 都の近くのダンジョンには、モンスターがウヨウヨと湧き出す、洞窟やら建物があるらしいけどぉ〜、モンスターなんて村人の誰一人として、一度も見た事も聞いた事もない空想上の生き物なんだぁ〜。


「そもそも、こんなに詳しいモンスターの情報が載っている本が存在する訳がなかぁ。現にオラが今いるこの『西の森』にも、本の通りならモンスターが5種類もいる事になる。なのに誰も会った事がない。この本はおかしい。インチキ本じゃぁ。」


 エッサは怒って本を地面に叩きつけて、足でグリグリと踏んづけました。でも、本の表紙は傷一つ、汚れ一つ付いていません。頑丈な本です。


「そっちがそのつもりなら、ビリビリに破いてやるぅ!ぐぅぬぬぬ〜〜〜!はぁはぁはぁ、破れない?本当に紙で出来ているのかぁ?」


 本に馬鹿にされていると、怒ったエッサは力一杯、ページの1枚だけを破ろうとしましたが、出来ませんでした。その辺に落ちている石を拾って叩きつけても凹みもしません。インチキ本かもしれませんが、不思議な力に守られた本でした。


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