第8話 嘘つき

「光子、いつまで遊んでるの。友子が泣いて帰ってきたんだよ!……早く手を洗いなさい!」

 

 友子は泣きつかれたのかお気に入りの毛布にくるまって寝ていた。


「お父さんが帰って来る前に話があるんだけど。……光子こっちに来て座って」


 お母さんが珍しく怒っている。

「さっき、サトちゃんが来たの。サトちゃんから聞いたんだけど、あんた友子の四つ葉のクローバーの葉っぱを一枚取って泣かせたんだってね。妹泣かしたらダメでしょ」


「……えっ。何でそうなってるの!」

「サトちゃんが友子にってお菓子を持ってきてくれたのよ。あの子は優しいわね」


 お菓子?――友子の手にはペロペロキャンディーが握られている。


「……あとね、あなた今まで悪いことたくさんしたんだってね。正直に言ってごらんなさい」


 悪いこと?私何もしていない。


「……道端に咲いているレンゲの蜜を吸ったでしょ。散歩中の犬のおしっこがかかってるかもしれないからダメよ。それと、公園の砂場で赤ちゃんの哺乳瓶取り上げて砂をいれたんですってね!なんて子なの!……絶対にダメよ!」


 やったのは事実だけど、全部サトちゃんの命令でした事だ。言い訳しようとした。


「……お母さん、あのね、私やったけど、サトちゃんに言われてやったの!サトちゃんが怖くて逆らえなかったから」


「……はぁ。サトちゃんの言った通りね。きっと光子がそういうかもしれないからって。もし私のせいにしたら光子の味方になってあげて下さいって言ってたのよ。サトちゃんのせいにして恥ずかしくないの!」


「何で信じてくれないの?……お母さん」


「まあ、いいわ、あんまり光子を叱らないであげて下さいってサトちゃんに頼まれたことだし。お説教はこのくらいにしてご飯食べようね」


「……いや、嫌だ。お母さんのバカ」


 私は自分を信じてくれないお母さんに腹が立った。と同時に嘘つきなサトちゃんが憎たらしくなった。


「……お姉ちゃん、これサトちゃんにもらったんだ。お姉ちゃんの分もあるよ」


 目を覚ました友子がキャンディを舐めている。もう一本を私に差し出してきた。


「こんなの……こんなのいらない!」


 友子の手をはたいて、キャンディを落とすと友子がビックリして泣き出した。


「光子、妹に八つ当たりすることないでしょ!」


 お母さんに叱られ、友子に泣かれ……サトちゃんに仕返ししなくては気がすまなくなっていた。


 自分の部屋に入って押し入れの中で泣いた。枕に顔を押し付けて大泣きした。


 友子の裏切りも許せない。サトちゃんはもっともっと、もっと許せない。


 ヨシばあからもらった巾着袋をビリビリに破りたい衝動にかられた。

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