アリスとラビー(2)

 アリスの両親は、知り合いに電話で連絡を取り、ウサギの飼い方を調べていた。

 ウサギを飼ったことがないアリスは、母親の本棚にある動物図鑑で調べている。どんな食べ物を食べるのか。何に注意しなければいけないのか。

 母親はお昼を食べた後、近所に聞き込みを開始。もしかしたら、飼い主がラビーを探しているかもしれないと。1時間くらいかけて、周辺を聞き込みするが、ウサギを飼っている所はなく。野兎は考えにくい。ここ最近、土地開発でこの辺りも変わっている。自然が少ない。これだけ探しても何もでてこない。となると、誰かがこの空き地に置き去りにした可能性が大きい。

 そこで、アリスは考えた。タイムマシンが出来たら、過去に戻って確かめればいいと。

 その事を父親に話すと。父親は、そのアイディアに驚いていた。その手があったと。

 タイムマシンを開発している父親は、何故、驚き、その手を思いつかなかったのか。

 父親はタイムマシン完成した後の事は、まったく考えていない。ただ、この大発明を成し遂げることだけを考えていた。科学者とはそういうものなか。

 改めて父親は、自分がとんでもないものを完成しょうとしていることに気づき。完成間近になって今更中止には出来ない。だったら、完成した後に考えることにした父親。楽観的なのか。科学者とはそういうものなのか。


 ラビーの面倒はアリスが見ることになり。母親は小型犬並みの大きさのケージを用意した。ちなみに、ラビーは女の子。

 アリスは、ラビーと一緒に住む為に、全員2階から1階へ移り住むことを提案すると。今後のことも考え、両親は賛成した。そうなると、思い立ったら吉日。明日、引っ越しをすることになった。


 翌朝。

 アリスは窓の外を見ると雪が降り積もっていた。しかし、ここは寒さなど関係ない。新しく開発したエアコンがある。


 1階の部屋数は3部屋。2階は4部屋。部屋数が1部屋足らないので、母親の読書室は2階に残した。2階から見る景色が好きな母親。なんとか、今日中に引っ越しはできそうな雰囲気。


 昼食後、アリスは暖炉の近くに置いていたケージの所に行き。元気を取り戻したラビーを見て名を呼ぶと、アリスをジッと見ている。どうやら声に反応している。

「ラビー、よく聞きなさい。私があなたを守ってあげる。あなたは今日から、私の妹になるの。わかった!?」

 すると、ラビーは一旦首をかしげ、うなずく。

「あなたをあそこに置き去りした人を必ず見つけだし、文句言いってやるからね」

 ラビーは首を横に振る。

「えっ!? 何で!? 悔しくないの!?」

 ラビーは首を横に振る。

「えっ!? どっちなの……? もう、いいってことなの?」

 すると、ラビーはうなずく。

「もー、なんで……? うーん。わかった。ラビーの言う通りにする。あっ、そうだ。私、アリス。今日からよろしくね、ラビー」

 ラビーはうなずいた。


 アリスはラビーを見て。何を思ったのか、キッチンの所に行き。

「お母さん、ウサギって、人間の言葉が理解できるの?」

「何で、そんなこと聞くの?」

 さっきのラビーとのやり取りを話すと。

「なるほどねー。普通ならありえないことだけど。この世の中には科学で説明できないこともあるって言うこと。そういうことじゃないの!?」

 母親は、ラビーを手のひらに乗せた時、「私、生きたい」、と聞こえた気がしていた。

 アリスは母親の答に、妙に納得していた。


 引っ越しが全て完了したのは、午後7時を過ぎていた。

 ラビーはケージの中でぐっすりと眠っている。アリスはラビーを起こし。遅い夕食になった。

 食事が終わると。いつもは皆、10時頃には寝ているが、今日は早く眠ることに。


 アリスは、部屋に置いてあるケージにラビーを入れず。毛布を床に敷きその上にラビーを寝かし。アリスはベッドに入ると、しばらくラビーを見ていた。


 翌日。

 アリスと父親は、研究所でタイムマシンの本体を支える、新しい土台の部品を作っていると。その様子をアリスの後ろでじっと見ている者がいる。

 アリスはラビーをケージに入れず。ラビーはアリスの言う事を聞き、アリスの作業をじっと見ているのは見ているのだが、アリスは道具の使い方をラビーに説明をしている。驚くことに、その言葉を理解していように見える。


 そんな中、だんだんと出来上がっていくタイムマシンと、だんだんと成長して行くラビー。まるで、アリスの助手はラビー。

 アリスはラビーに、タイムマシンの仕組みを教えたり。化学、物理の難しい本などを、まるで、妹に勉強を教えているように、読み聞かしている。そして、母親の読書室に入り、小説を読んで聞かせていた。たまに笑い声が聞こえる。

 この光景に、両親はどう対処していいのか。ただ、見守っていた。


 何故、アリスはこんな行動に出るのか。それはわからない。

 アリスは4年前。科学者になると決めた日。自分の部屋に置いていた小説は、全て母親の読書部屋の本棚に自ら並べた。それ以来、1度も読書部屋には入っていない。ラビーが来てから、大きく変わっているようなアリスだが。アリスの部屋にある、『不思議の国のアリス』とその続編の本は閉じたままだった。

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