アリスと新しい生活(3)

 ウォルターの父親もまた科学者だった。

 ウォルターは子供の頃、父親の研究室に入りびたりで、研究する姿を見ていると、とても楽しそうな父親。そんな父親の働く姿を見ていたら、いつの間にか、父親と同じ道を歩いていた。亡き父親の研究を引き継き。そして、父親の果たせなかった夢を叶えた。

 苦労もあったが、この仕事に誇りを感じ、夢を持つ素晴らしさを知り。この仕事が楽しく、充実な日々をおくり。研究が好きだからこそ、続けてこられた。


 この想いを我が子にも伝えたい。

 だからといって、我が子に自分と同じ道を歩んで欲しいと強制するつもりはない。本人が進む道は、自分で決めて欲しい。あの本に出会うまではそう思っていた。


 アリスが生まれる2ヶ月前の事だった。

 家を建て2ヶ月がすぎた頃。ウォルターは、次にどんな研究をしたらいいのか悩んでいた。そのヒントを探す為に、本屋が何処にあるのか隣人に聞き。1件の本屋を紹介してもらった。


 その本屋は、自宅から1キロ離れた場所にあり。外見は少し古びた感じ。出入口の近くに小さな立て看板。そこには、本の買い取りOKと書いてある。

 中に入ると沢山の本が本棚に並び。新刊もあり、古い書物、中古の本。いろんなジャンルの本が分類されていた。

 ウォルターは、次の研究課題のヒントを探していると。ふと目に留まった1冊の本。手に取ると鳥肌が立ち、ページをめくり。

「これだ……。次の夢はこれだ!」、思わず声を大にした。

 その本のタイトルは、『時間旅行』

 今まで考えもしなかった。話には聞いた。誰も成し遂げられない夢。不可能だと言われていた、タイムマシン。生涯をこの研究に捧げることに決めた瞬間だった。


 ウォルターは、この時35歳。不可能を可能にできるのか。長い、長い、研究なるはず。ゼロからの研究。私の代で完成せずに終わってしまう。そんな想いにかられ、この研究を引き継いでくれるのは我が子しかいない、そう思うようになった。しかし、生まれてきた子は、女の子。だが、研究は続けると決意した。

 ところが、ウォルターが42歳になり、先の見えない研究に、この研究を続けるのに意味があるのか。やはり、後継者が。そう思っていた矢先に、アリスがここに来た。


 その話を聞いたアリス。突然立ち上がり。

「お父さん……。それ、おかしいよ!? なんで女の子が科学者になったらいけないの?」


 父親はハッとした。女の科学者。今まで考えたことがなかった。科学者は男と決まっている。女の科学者、聞いたことがない。まてよ、何も決めつけることはないのか。女の科学者がいてもいいのか。ふとそう思った時、父親は思ってもみないことを聞く。


 アリスは真剣な表情で父親を見た。

「私、決めた。科学者になる」 

 突然の申し出に嬉しいはずだが、困惑する父親。

「ちょっと待って、アリス……。小説家になるんじゃなかったのか!?」

「……もういいの」

「もういって、どういうことだ!? 説明しなさい!」

 厳しい表情を見せる父親。

 アリスは父親に褒められたことはなく。遊んでもらった記憶もない。私のことは興味がないと思っていた。しかし、見ていてくれた。アリスは先程、2階での出来事を話した。


 小説家を諦めた理由が分かった父親は、そんな中途半端な気持ちで科学者が務まるはずがない。研究は根気が最も必要とされ。そして、諦めない心が最も重要。今のアリスには科学者は務まらない。そのことを父親はアリスに告げた。


 アリスはいまにも泣き出しそうに。

「だったら、私はどうしたらいいの……!?」


 すると、父親は科学者になりたいのなら条件があると言い出した。

 その条件とは、明日から12歳になる迄、研究所で科学者としての勉強をすること。そして、12歳になった時、科学者になりたい気持ちが変わってなければ、科学者になることを許す。但し、私の助手として働くこと。それともう1つ、小説を書く事を禁じる。


 アリスは、この条件を吞むのか。

 アリスはこの条件をすんなりと受け入れた。


 父親もまた、父親と同じようにアリスを試すことに。

 本音を言えば、アリスに私の後継者になって貰いたい。しかし、小説を書いている時のアリスはとても楽しそう。私も研究している時は楽しい。アリスはただ逃げているだけで、私とは違う。すぐに根を上げ、また大好きな小説を書きたいと言い出すに違いない。その時は、アリスの好きなようにさせよう。そして、私はこの研究を続けよう。アリスに父親の生き様を見せる時、諦めない心。


 一方、そんなことになっているとは知らない母親。まだ、2階にいる。ノートに書かれている小説を夢中になって読んでいる。

 しばらくして、読み終えたのか。ノートをパラパラとめくり、なにやらぶつぶつ独り言。

「凄すぎる……。これが、7歳の考えた小説なの……!? 父親譲りの発想の天才。私には、こんなのは書けない。本にすれば売れる」、鳥肌ものだと。目を輝かせ喜んでいる。


 一方、そんなことになっているとは知らないアリスと父親。


 母親は、アリスの机の上にある時計を見ると、お昼前。未完成の小説だけど、この小説なら沢山の人が読むはず。このことを早くアリスに知らせたい気持ちでいっぱいの母親。

「そうだ、おとうさんにこのことを報告しないと」

 日頃、母親は父親に小説のことをあまりふれずにいた。あまりの嬉しさにそのことも忘れ母親は、ノートを持ち、研究所へ行くと、驚いた。アリスがいる。


 それに気づいた、アリス。

「あっ、お母さん、どうしたの?」

 母親は面喰っている。

「どうしたのじゃないでしょう……!? 何で、アリスがここにいるの!?」


 真剣な表情をみせるアリス。

「私、お父さんと約束したの。科学者になって、お父さんの夢を一緒に叶えるの。小説はもう書かない。約束したの」

 慌てる母親。

「えっ!? ちょっと待って、どういう事? 何で急にそんなことになる訳!? 小説は書かないって、どういう事? こんな素晴らしい小説を書けるのに、何でやめるの!?」

 母親の手にはノート。

 アリス気がつき。

「あっ、そのノート。もしかして、読んだの!?」

「ごめんなさい。勝手に読んだのは、悪かったと思ってる」

「なんで勝手に読むのよ!」、怒っている。


 母親はアリスのそばに行き。腰を落とし。真剣な表情で、アリスの目を見た。

「アリス、よく聞きなさい……。アリスは素晴らしい小説が書けるの……。お母さん、感動しちゃった。こんな面白い小説が書けるとは思ってなかった」


 その言葉に戸惑うアリス。この光景を見ている父親は、やはり、こうなる運命なのかと、呟やき。

 母親はアリスにノートを差し出した。

「私、もうこれ以上書けない……。あんな思いをするのはもう嫌!」

 アリスは泣きながら研究所を飛び出して行った。その場に残されたノート。母親は呼び止めたが。走り去っていくアリスを見ているだけ。


 すると、父親はアリスのノートに書かれた小説を読んでいる。 真剣に小説を読んでいる、立ったまま。しばらくすると、近くにあった椅子に座り。母親も椅子に座り、何も言わない。お昼も食べず、午後1時が過ぎていた。


 父親は一通り読み。

「こんな面白い、小説は初めて読んだ」

 父親は、アリスが小説を書く才能を持っていることを知り。母親に、ここで何が起こったのか説明をした。

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