風紀委員は乱れない

小暮悠斗

困って、困らせ、また困る

 最近、やたらとワタシに絡んでくる男子がいる。

 真道正善しんどうまさよし――クラスメイトで風紀委員の堅物。真面目を体現したような男だ。


 同級生のくせに風紀委員だからとワタシの服装にいちいち文句をつけてくる。


 ほんとにめんどくさい。


「制服のボタンは全て閉めてください。それにスカートの丈も短い」


「えー。厳しすぎない? 別に誰に迷惑かけてる訳じゃないし、大丈夫じゃない?」


「ダメなものはダメです」


「真面目すぎ」


「君が不真面目なんだ」


「言い過ぎじゃない?」


「事実だから仕方ない」


 むぅ~~~~~~


「マサヨシってさ、なんかワタシに当たりきつくない? もしかして、ワタシに気があるとか? あっ、そうだ! ワタシと付き合ってみる?」


「結構です」


「即答! 間髪入れずに即答!?」


 なに? ワタシってそんなに魅力ないの?


「男女交際は校則違反です」


 真面目すぎ!


「そんなことより、制服の着崩しを直してください」


「そんなことってなんだよ!!」


 わりと頑張って言ったんだから。人の気もしらないで……


「聞いてますか?」


「聞いてますよーだ」


「だったら制服を直して――」


「だが、断る!! 絶対に直してあげない」


「困りましたね……」


 困ってる困ってる。

 いつも口うるさくする罰だ。

 もっと困らせちゃえ♪


「だったら、マサヨシが直してよ」


「?? なぜ僕が??」


「えー、だってめんどくさいしぃ。ボタン留めるのダルいんだもん」


 胸を強調。寄せて上げる。

 特別サービスなんだから!

 これに懲りたら、口うるさく言わないことね。


「分かりました。仕方ありませんね」


「えっ!?」


 マジでやるの!? 冗談だったのに。


 本気の圧力に屈し、ワタシは椅子に腰掛けていた。


 なんだかさっきから胸に視線を……感じる。


「ん??」


「ど、どうかした?」


「下着は何色ですか?」


「し、下着ィ!?」


 まさか、刺激が強すぎてマサヨシの男な部分を目覚めさせてしまったのか!?

 露出だけでは物足りないと!? 

 変態に覚醒してしまったのか……


「校則で白かベージュと決まっていますので」


「あ、あぁ、校則ね」


 驚かさないでよね。ん? 待てよ。

 さっきからワタシばかり驚かされてない? いじってるのはワタシのはずなのに。

 なんか癪だな。

 いや、これはチャンスかもしれない。


「確認してみる?」


 さすがにここまですればこの堅物もテンパるでしょ。


「……そうですね。良案です」


 熟考した上でのまさかの良案判定!?

 マジですか……ってほんとに見るの!?


「いや、さすがに……」


「提案したのは乱子さんですよ」


「それは、そーなんだけど……」


「すみません。僕にも予定がありまして……早くしていただけると助かるのですが」


「なんでワタシが見せたがってるみたいになってんの!?」


「???」


 ?マーク浮かべ過ぎだろ!


「ぬ、脱いで見せればいいんだろ? 余裕だし」


 ここで引いたら負けな気がする。

 マサヨシの赤面を拝んでやる。

 これは乙女の意地だ。ワタシにだってプライドがある。

 ブラの1つや2つ見られるくらい……


 バグバグバグバグ


 あぁ、もう!!

 心臓うるさい!!


「どうだぁッ!!」


 ガバッと胸を出す。

 ここだけ聞けばワタシ痴女じゃね?


 無茶苦茶、恥ずかしい。


「黒ですか」


「冷静っ!!?」


「校則で白かベージュとなっているでしょう――」


「――現役JK の生下着を見た反応じゃないよねッ!? 仙人なの? ワタシの知らないうちに男子高校生卒業したの? 青春の1ページを無駄にしてるからね! 絶対に後悔するんだから!!」


「明日からは白かベージュでお願いしますね」


「話聞いてないの!?」


 …………

 ……

 …


「……結局、ボタンは留めるのね」


「直すと言いましたから。約束は守ります」


「てかさ……なんでワタシに構うの? 普通、人のボタンを留めたりしないよ?」


「僕だって、誰でも彼でも同じことはしませんよ」


「えっ」


 それってつまり……ワタシは特別な存在ってこと?


「乱子さんみたいな問題生徒を導くのも風紀委員の仕事です」


「あ……そういうことね」


 別に期待なんかしてませんよーだ。

 マサヨシがそういう人だってことは分かってたし……でも、ちょっとくらい脈あるかなとか思っちゃっても仕方ないじゃん?

 だって、言い回しが紛らわしいんだもん。


 ……にしても順調にボタンを留めていくな。

 こっちは胸に手が当たっちゃったりしないかなってヒヤヒヤしてるっていうのに。

 マサヨシは全く表情が崩れない。


「あ、乱子さん。気づいてないみたいですけど、あまり露出が多い着崩しはやめた方がいいですよ。乱子さんは魅力的な女性ですから、今の格好はあまりに無防備で心配になります」


「そ、そんなお世辞言っても無駄だぞ」


「僕はお世辞なんて言いませんよ!!」


 グイッと迫る正善に思わず仰け反ってしまう。


 近い近い近い!!?

 顔熱い……っ!!


 …………

 ……

 …


「思いのほか手間取ってしまいました」


「あ、あぁ、そうだな……」


 もう少し手間取っても良かったかも……なんて口が裂けても言えない。


「では、次はスカートですね」


「そっちもやるの!?」


「勿論です」


 なんかメジャー取り出してるんですけど。

 さすがにスカートは……パンツは恥ずかしい。見せられない……っ!!


「自分で直します」


「最初からそうしてください」



 こうしてワタシと彼との闘いは幕を下ろした。

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