第30話 ヒダリンの動揺

 再び、ヒダリンのの自室に戻る。

 龍虎リュウコとヒダリンがラベンダーティーを飲み終えたころ、誰かがノックをする音が聞こえた。


「入れ」

 ヒダリンの声に保安室の戦闘員である男が入って来て言った。

「ヒダリン様、シュレッダー様からのメッセージです。

 ターゲットの男との交信が成功し、今より1時間以内に大井コンテナ埠頭に停泊している真田丸にターゲットがやって来る。我々は戦闘員20名と共に、立花教授を人質として連れて真田丸に乗り込む。

 すぐに保安室へ立花教授を連れて来て欲しい。

 以上です、ヒダリン様」

「そうか、分かった。すぐにそちらへ行く。それで、ターゲットの名前は聞いているか? 」

「はい。吉本…… 茂蔵シゲゾウです」

 保安室の男の言葉にヒダリンは、ハッとして聞き返した。

「もう一度言ってくれ」

「はい。ターゲットの名は、吉本 茂蔵ヨシモトシゲゾウです」

(ヨシモト シゲゾウ…… まさか、吉本先生なの? そんな! 我々の捜していた産業スパイが先生なのか? だとしたら、何という因縁なんだ! )

 ヒダリンは遠い昔を思い出しながら、動揺していた。

「では、メッセージを確かにお伝えしました。失礼いたします! 」

 男はそう言って退出した。ヒダリンと向かい合ったソファーに座っていた龍虎は、茂蔵が自分を助けに来ると知り、身を固くしていた。

(ああ、ボクのためにシゲゾーさんが危険にさらされる。どうしよう…… )

 龍虎は、それだけしか頭にないのでヒダリンの動揺など、まったく気づかなかった。


 第30話 終わり





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