第29話 老朽船・真田丸

 街頭テレビで先生が誘拐されたことを知った俺は、矢も盾もたまらずショルダーバッグから手帳を取り出し、先生の名刺にあった電話番号に電話した。

 ツーツーツーツー

 話中だ。俺は、続けさまにリダイヤルしたが、話中を意味する無情な機械音しか聞くことができなかった。


 ピッ! 電話対応を任されていた保安室の室長補佐が、龍虎リュウコの iPhone にかかって来た電話に出た。

「お前は誰だ? 立花教授とは、どういう関係だ? 」と日本人の彼はドスの効いた声で聞いた。

「ひっ、ぼ、ぼくは、立花先生の大ファンです」

「教授のファンが何の用だ! 」

 と室長補佐は、かなり苛立った声で聞いた。

「あ、あなたは、日本伝統文化推進委員会の人ですか? 」

「そうだ! 」

「じゃあ、立花先生をす、すみやかに解放してください」

 と震える声で言ってるのが分かると、

「お前に用はない! 二度とかけてくるな! 」

 と言って、室長補佐は力を込めて通話を切った。


「シンジ、ムダーニ時間をかけるな。プロフェッサー・タチバーナが登録してる電話にだけデーロ。

 特にファーストネームのヤツだ、け、に、な」

 とイラついてるナンバー2にシュレッダーはアドバイスした。

「イエッサー!」


 俺は我慢して10分も街頭テレビのある電気屋の前で、ニュースのやりとりを観ていたが、今度こそと思って、改めて先生の番号にかけてみた。

 トゥルルルルー

(おっ!やったぞ)

「お前は誰だ? 立花教授とは、どういう関係だ? 」

「俺は…… 吉本 茂蔵だ。先生とは…… 」

「先生とは、何だ? 」

「先生とは… (俺は先生にとって何なんだろう?

 ええい、何でもいいや。この際)

 俺は龍虎先生の恋人だ! すぐに先生を解放するんだ! さもないと、そっちに乗り込んでやるぞ。お前らの要求通り、そっちに行ってやる! 」

 iPhone のスピーカーから聞こえる俺の返事にシンジとシュレッダーはほくそ笑んだ。


「よし、分かった! では、今から1時間以内に東京港の大井コンテナ埠頭に来い。第8番係留所に古い貨物船の真田丸が停泊している。

 そこで、俺たちは待っている。立花教授も一緒だ!

 ただし、お前一人で来い。警察関係にも一切、この事を言うなよ。警察が動いた時点で教授の命は無いものと思え。

 近くに来たのを確認したら、こちらから電話する。

 以上だ」

「ああ、分かった。必ず、俺一人で行くから、先生には、危害を加えるなよ。じゃあな」


 俺は、そう言って電話を切ったあと、皆狂ミナクル博士にこの事を連絡しようかと一瞬思ったが、電話番号もまだ知らなかったから、そのままタクシーを拾って東京港に向かった。


 第29話 終わり


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