三時のお茶のおとも

平中なごん

Ⅰ 招待

「さてとぉ、今日は誰を呼ぼうかしら……」


 スマホで某SNSの友だちリストを眺めながら、わたしは今日のお茶会にお呼びするお客さまを選んでいた。


 毎週日曜の午後三時、わたしは家でお茶会を開いている。


 晴れた日には自慢の薔薇やワイルドフラワーの咲くイングリッシュ・ガーデンで……雨の日なら、やはり英国アンティーク家具を置いたビクトリア朝風のリビングで……お天気にかかわらず、毎週必ず開催するのがわたしの中でのルールだ。


 他にもわたしなりのルールがあり、「毎回、招待するお客さまは一人のみ」であるということも守らなければならない決まりである。


 もちろん、いつも同じお客さまというわけにはいかないので、ゆえに招待客候補は多人数ストックしておかねばならず、だからこうしてSNSで広く交友を持ち、お友だちをたくさん作るようにしている。


 そして、もう一つ……「お茶うけのお菓子は、その日のお客さまに合わせたものを選ぶ」というのも絶対の約束だ。


「そうね……よし! 今日はこの方にいたしましょう。〝大山っち〟さん……お名前通りに恰幅のよろしい方だし、普段からおいしいものもたくさん食べていそうだわ」


 わたしはそのメタボ体質なアイコン写真に目を留めると、気まぐれな感性の赴くままに今日のお客さまは彼に即決する。


 脂ぎった顔にメガネをかけた太めの男性で、プロフィールやSNSにおけるこれまでのやりとりからすると、どうやら30代後半の中堅商社に勤める会社員であり、やはり趣味は見かけそのままに「食べること」のようである……。


 ともかくも、そうと決まれば、さっそくお茶会へのお誘いメッセージを〝大山っち〟さんへスマホから送る。


 すると、日曜の休日ということもあってか、すぐに返信が返ってきた。


「もちろん、喜んでお呼ばれさせていただきます」という色好い返事だ。


 もとより「日曜三時のお茶会に招待してもよい」という者だけを友だち登録しているので、よほど都合が悪かったりしない限り断られることはない。


「これでよしと……さて、彼に合う・・・・とすれば……やっぱりデザート・テリーヌかしらね? 急いで作る準備をしなくっちゃ」


 お客さまからの返事を確認するとスマホをキッチンの脇に置き、愛用の濃い臙脂色をしたエプロンを身に着けたわたしは彼と楽しむお茶菓子のことを夢想した――。

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