生きてるなんてとても言えない

御厨みくり

出会い

 理由なんてない。ほんとに。

 気がついたら左手が真っ赤だっただけで。

 

「どうするといいのかしら……」


 手首を切ったのは初めてだった。別に、自分に気持ち悪さは感じていない。切りたくなったから切ったことに、どんな感情も感じられない自分が居た。自分の中に別の誰かが居て、その子が何かすることに対して、あたしは干渉しない。別に、なんでもいい。不思議と、そんなに痛みは感じなかった。とりあえずは消毒して白い包帯を巻いてみたけれど、左手だけがなんとなく病的に見えた。


 干渉しないとは言ったものの、できることなら、季節くらいは考えて欲しかった。今は真夏なんだから、長袖で手首を隠すようなことなんてできない。「どうしたの」とよく知りもしない周りに聞かれるのはうざったい。なんとかして隠さないといけない。それだけが本当にめんどくさくて、あたしはとりあえずバスに乗って街まで出てきた。バスに揺られながら考えた―ああ、リストバンドを買おう。それなら別に気にならない。あたしは運動だって少しはするんだし、最近はお洒落なものも多い。左手だけだとあれだから、右手にもつければいい。


 あたしは良く行くショッピングモールの三階にある、雑貨屋さんに足を踏み入れた。いつも通り、何を買いに来たのか忘れて、エクステやアクセに目を奪われる。そういやこういうの欲しいな、なんて思いながら一角にリストバンド売り場を見つけた。あたしの手首が本来の目的を教える。


 売り場の近くにもう一人、少女が立っていて、その子も熱心にリストバンドを見ていた。髪はストレートで長くて真っ黒で、服は少しだけパンク系に見えた。あたしは髪が短いけど、なんだか少し似てるかもしれないなんて思う。あたしはもうちょっと男っぽくて、彼女よりも洒落っ気がなさそうだけど。


「あ」

 つい、声が漏れた。彼女が怪訝そうな顔で振り向く。理由は簡単。見えたから。彼女の手首。あたしのように包帯はしていない。蚯蚓腫れのように真っ赤になったその場所が露呈している。

 彼女はあたしの爪先から頭のてっぺんまでじっと見て、それから視線をあたしの手首に移した。

「あ」

 思うことは一緒だった。

 


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