第二節:魔剣と対価


 見るに堪えないケダモノ共の饗宴を、黒刃の一閃で引き裂いていく。

 既に何匹もの小鬼どもの血肉に塗れた刀身を、大きく振って払い落とした。

 唐突に飛び込んできた狼藉者に対し、小鬼達は浮足立つ。

 その奥――積んだ瓦礫に座って呆けていた小鬼剣士を見据えながら、黒い少女は外套を脱ぎ捨てる。

 露わになるのは、細く小柄な少女の姿。

 年の頃は恐らくまだ十代半ば程度だろうが、若い冒険者というのも決して珍しくはない。

 それだけならば、小鬼達はまた上質な玩具が飛び込んできたと歓喜に沸き立つだけだったかもしれない。

 しかしまだ混乱の中にあった小鬼達は、少女の姿を見た結果、一瞬だけ静まり返った。

 何故、そんな結果になったのか。

 答えは単純に、その少女が余りにも美しかったからだ。

 腰に届かないぐらいに伸ばした髪は、手にした剣と同じ夜の色を宿し。

 金色の瞳は、天に飾られた満月の光に似ていて。

 その顔もまた、種族の差など関係なしに、見る者にただ「美しい」と感じさせる至極の造形で。

 頭に生えた左右非対称の短い二本の角も、尾てい骨の辺りから生えた細く長い黒い尾も。

 本来は人ならざる異形に映るそれらの特徴も、逆に少女の非人間的な美しさを際立たせていた。

 

 「ピギャッ!?」

 

 少女の姿を間近で見ていた小鬼の数匹が、そんな夢見心地のままに絶命する。

 鎧らしい鎧を身に着けていない彼女の動きは、酷く軽やかだ。

 さながらゆらりと円舞に興じるように緩やかに、小鬼の群れへと切り込んでいく。

 

 「邪魔よ」

 

 死神がそう囁けば、黒い刃は何の抵抗もなく小鬼の首を切断する。

 流石に此処に至れば、混乱していた小鬼側も応戦の構えを取る。

 手には錆びた剣や粗雑な作りの棍棒、或いは適当に拾った石などを持ち、少女に向かって殺到した。

 咆哮。獲物であるはずの雌に好き勝手に振る舞われた事を、彼らは怒る。

 そしてコイツを大人しくさせた時、どんな風に嬲って弄ぼうかと妄想し、小鬼共は歓喜に叫ぶ。

 

 「…………」

 

 それなりの数を殺したとはいえ、それでもその数は十数匹。

 まだ慌てふためいているばかりの者も合わせれば、更に倍近く数は増えるだろう。

 如何に小鬼が弱いとはいえ、それだけの数と正面から戦うのは脅威だ。

 普通の冒険者であれば、最初の奇襲で群れを分断する事から始めたはずだ。

 けれど黒剣の少女は怯まない。

 そんなものは何も恐れる事ではないと言うように、静かに剣を構える。

 

 「……《宵闇の王ナイトロード》」

 

 そして謡うように、手にした黒剣の銘を唱えた。

 瞬間、掻き消える少女の姿に、果たして小鬼らは何を思っただろうか。

 驚愕か、困惑か。何も思考していない小鬼も珍しくはないだろう。

 なんであれ瞬きにも満たぬ間に、黒い刃に小鬼どもは切り伏せられるのみ。

 風が渦巻く。小鬼達には理解できない。

 黒い少女の姿が瞬く度に、床に転がる屍の数が増えるだけ。

 

 「ギギャッ!?」

 「逃がすわけがないでしょう?」

 

 恐怖が敵意に勝ったか、武器を放り捨てて何匹かの小鬼が背を向けた。

 だが言葉の通り、死神たる少女は一匹たりとて見逃す気はない。

 その金の瞳が怪しげに輝けば、逃げようとした小鬼達の動きが突然停止した。

 《金縛りホールド》の呪い。

 この世界に幾つか存在する神秘の系統樹、その一つたる呪術。

 それは視線や仕草、或いは声によって他者に害を与える。

 

 「ギャアッ!?」

 

 呪いに五体を束縛されたまま、小鬼は無慈悲に斬り殺される。

 小鬼の数はまだ多くある。だが未だ戦意を保っている者は、もう数える程。

 ならば次は――そう思考しかけたところで、少女の背筋に冷たいものが走った。

 死の感触。反射的に、少女は黒剣を自身の背後へと振り抜く。

 半ば当てずっぽうの一刀だが、同時に無数の小鬼を斬殺せしめた刃でもある。

 ――しかし。

 

 「ギッ! ギャギャッ!」

 

 耳障りな笑い声と、硬く響く激突音。

 いつの間にか背後に迫っていたのは、醜悪なりし小鬼剣士。

 血肉に塗れて妖しく輝く赤い剣が、少女の黒い刃を真っ向から受け止めていた。

 ギリッ、と。獣の牙が噛み合うが如く鍔競り合う。

 

 「……《魔剣持ち》。小鬼程度が振り回すには、過ぎた玩具でしょうに」

 「ギィギャギャ!」

 

 小鬼の語る言葉に、意味はない。

 しかし振るう刃に込められた殺意は、どんな言葉よりも雄弁だ。

 暗く濁った瞳から感じる視線は、何処までも身勝手な欲望に煮え滾っている。

 下卑た笑みで何を考えているのか、少女は余りの不快感に肌が粟立つのを感じた。

 

 「ッ!?」

 

 不意に、赤い切っ先が閃いた。

 少女よりも尚小柄な小鬼剣士の体躯から、鋭い斬撃が迸る。

 斜め下から掬い上げるような、的確に死角を狙った赤刃。

 武器など棒を振り回すぐらいしか心得がないはずの小鬼には、余りに似つかわしくない。

 さながら剣の達人が垣間見せるような、極めて巧妙な剣技だった。

 

 「この……ッ!」

 

 意表を突かれて息を呑むも、何とか剣を合わせて防ぐ少女。

 しかし小鬼剣士の刃は素早く、何度か切っ先がその柔肌を掠めていく。

 幸い入りが浅かったのか、その肌に傷を刻む事はなかったが、少女の反応が間に合わなかったのは事実。

 その事実を認識し、小鬼剣士は嘲るように表情を歪ませた。

 

 「ギヒッ!!」

 

 小鬼の口元から、自然と嘲笑がこぼれる。

 あぁやはり、誰も自分には敵わない。

 剣を弄ぶだけの小鬼如きに、無様に敗北する。

 そんな屈辱を、これまで幾人もの剣士相手に刻み付けてきた。

 嗚呼なんと愉快な事であろうか。小鬼剣士は笑う。笑うように吼えた。

 握る歪な刃が赤黒い輝きを示せば、飢餓に似た衝動が魂の奥底から沸き上がってくる。

 その衝動に抗うことなく、小鬼剣士は無造作に刃を振るった。

 

 「ガッ!?」

 

 それは少女と剣戟を交わす最中。

 たまたま近くで腰を抜かしていた同胞小鬼の喉元を、小石でも蹴る気軽さで切り裂いた。

 真っ赤な血が飛沫となる。それを真っ先に浴びたのは、当然小鬼剣士が振るう赤刃。

 べったりと浴びた血を、剣はすぐさま飲み干していく。

 ごくり、ごくりと、嚥下する音でも聞こえそうなほどだ。

 

 「ギッ、ギャァ!」

 

 最早どちらが主で、どちらが従なのか。

 剣が血を欲すれば、小鬼剣士もまた血に飢える。

 赤く煌く刃は更に鋭さを増し、黒い剣の少女を圧倒し続ける。

 欲しい、欲しい。この美しい女の血が欲しい。

 その柔らかな肌を思う様に切り刻んで、組み敷いて犯し抜けばどれ程の快楽を得られるだろう。

 興奮し、狂喜し、小鬼剣士の粗末な頭脳は沸騰する。

 赤と黒の剣が閃く度、広間にいた小鬼の肉が爆ぜたが、それはまったく些細な問題だった。

 役に立たず、「餌」ぐらいにしか使えぬ同胞など、何匹死のうが構わない。

 

 「…………」

 

 剣を振るう。剣を振るう。剣を振るう。

 揺れる篝火の光に照らされながら、少女と小鬼の剣舞は続く。

 攻め立て続けているのは、変わらず小鬼剣士の方だ。

 無数の猟犬が狩りをするが如く、あらゆる角度から打ち込まれる鋭い斬撃。

 少女はただ、構えた黒い剣でそれを防ぐ事で精一杯だった。

 それも全てを完全に防いでいるわけではない。

 何度も、小鬼剣士の赤刃は少女の肌に触れていた。

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。

 その数が合わせて二十を超えようというところで、ようやく小鬼剣士は異常な事態に気付いた。

 

 「ギ、ィ……!?」

 「……どうしたの?」

 

 熱病にも似た興奮が、小鬼剣士の眼を昏くしていた。

 そう何度も、何度も赤い剣は少女の身体を切り裂いた――いや、切り裂かねばおかしいはずなのに。

 その肌には、切り傷一つ刻まれてはいなかった。その肌の白さに、血の紅は僅かにも浮いていない。

 分からない。小鬼剣士の愚鈍な脳では、目の前の現実を少しも理解できない。

 狼狽え、後ずさりさえする小鬼に対して、少女は冷徹だった。

 

 「……その魔剣」

 

 細い指先で示すのは、小鬼剣士が握る赤い刃。

 先ほどまでは妖しげに輝かせていた赤黒い光も、今は蝋燭の灯火ほどに弱まっている。

 

 「他人の血を対価に、剣の技術を強化……いえ、自動攻撃? まぁ、備わった魔力はそんなところでしょう?」

 

 笑う。これまで僅かにも表情を変えなかった少女が、笑っていた。

 愚鈍な小鬼剣士にも、その笑みの意味は理解できる。

 嘲笑だ。最早恐れることなど何もない、愚かで矮小な獲物の存在を死神は嘲笑う。

 

 「未知の魔剣が相手だもの。最後まで何が飛び出すか分からないし、警戒していたけど……」

 

 もう、その必要もなくなった。

 冷たい――けれど、凍てつく程に美しい笑みを浮かべながら、少女は剣を担ぐ。

 そして踏み出す。小鬼剣士が後ずされば、更に一歩。

 其処にはもう、戦いという形は存在しなかった。

 強者と弱者。狩る者と狩られる者。

 両者の立場は、もう覆しようもないぐらいに確定してしまっていた。

 

 「ギ、ギャァ!!」

 

 それを分かっていない……いや、分かっているが、理解を拒否した小鬼剣士。

 迫る少女の薄い胸元に、無茶苦茶な構えで剣を繰り出した。

 ほんの少し前まで見せていた、達人もかくやという精密な剣技は何処にもない。

 払おうと思えば幾らでも払い落とせるその一撃を、しかし少女は一切反応を見せなかった。

 赤い刃が突き立てられる。少女の柔肌を切り裂き、その幼い肉に刀身を埋めていく――はずなのだ、普通なら。

 

 「ギ、ァ……」

 

 既に何度も、繰り返した事であるはずなのに。

 愚かな小鬼剣士は、また同じ事を繰り返しただけだった。

 刃が徹らない。少女の肌に触れる前に、見えない「何か」に阻まれているのだ。

 ……いや、見えないわけではない。

 よくよく目を凝らせば、少女の身体を薄い膜のようなモノが覆っている。

 遺跡の中、燃える篝火以外に光源がない状況であった為、透明な膜は殊更に見え辛かったが。

 膜――「帳」と名付けたソレを薄絹のヴェールのように纏って、少女は剣を構えた。

 黒い剣。彼女の魔剣、《宵闇の王》を。

 

 「対価を他者から略奪するタイプの魔剣は、力を使うのも容易だけれど注意しなくては」

 

 大剣の刀身は、さながら光を吸い込む闇そのもの。

 今や輝きを失いつつある小鬼剣士の剣とは対照的に、その闇は黒々と輝いていた。

 

 「奪える対価が尽きてしまっては、それはもう、ただの剣でしかない」

 「ギィアァ……!」

 

 小鬼剣士は吼える。

 そう、対価だ。魔剣に注ぐ対価を奪わなければ。

 魔剣。最も偉大なる「神」、その力の精髄たる「剣」の断片。

 それを生まれ持って宿す者、或いは後天的に目覚めるか、既にある物を手にする事で選ばれた者。

 それこそが《魔剣持ち》、或いは《魔剣使い》。

 本来なら取るに足らぬ小鬼の一匹が、群れを恐怖で支配し、経験を積んだ冒険者を返り討ちにする。

 そんな不可能を可能たらしめる異能。それこそが魔剣。大いなる力の一端。

 ……だが何事にも対価がいる。かつて誰かがそう語った。

 これは魔剣に関しても、決して例外ではなかった。

 

 「無駄よ」

 

 黒剣の切っ先が、小鬼剣士の喉元に突き付けられた。

 小鬼剣士の魔剣は、相変わらず輝きを失ったまま。

 剣の対価は、何処にもない。

 

 「その剣に必要な対価は、新たな血は、もう得られない」

 「ギ、ギギ……ッ」

 「もう、この場で生きている小鬼は、あなただけ」

 

 少女の声と、小鬼の呻き。篝火が爆ぜる音。

 遺跡の大広間に流れているのは、もうこれだけ。

 息絶えた小鬼の骸は、もう意味のない言葉すら語る事はない。

 この場で生きた小鬼は、ただの一匹だけだった。

 

 「ギッ……ギイイイイイ!!」

 

 ガシャリと、硬い音が石の床を叩いた。

 それは小鬼剣士が、自らの魔剣を放り捨てた音だった。

 そうして今度は、跪いて地に伏した。

 聞くに堪えない声で泣き叫ぶ小鬼剣士――いや小鬼が一体何をしているのか。

 考えるまでもない。それは実に無様な命乞いだ。

 

 「…………」

 

 少女はチラリと、床に転がった小鬼の魔剣を一瞥する。

 無数の生き血を啜った刃も、使い手が放棄しては何の力も発揮できない。

 それがもう、単なる棒切れと同じになった事を確認すると、少女は改めて小鬼を見下ろした。

 床を爪で引っ掻き、時には額を打ち付けながら、小鬼はただ泣き喚く。

 その言葉に、聞き取るべき意味などない事を、少女はよく知っていた。

 

 「……小鬼の貴方に、の言葉が通じているかは分からないけど」

 

 そもそも死の気配に半ば錯乱している小鬼に、その声自体が届いているかも分からない。

 分からないが、少女は淡々と言葉を続ける。

 

 「私の魔剣の対価を、教えてあげる」

 

 酷く無造作に、抵抗なく。

 黒い剣の切っ先が、地に伏した小鬼の背に突き刺さる。

 肉を裂き、骨を断って、刃は心臓までも貫く。

 これ以上はない致命傷だ。死は速やかに小鬼の魂を絡め取る。

 そう、死だ。小鬼が恐れ、何とか逃れようともがいたモノ。

 言葉の意味は理解できずとも、少女が語る事の「意味」が此処に刻まれる。

 

 「この剣の対価は――この刃で殺した者の、魂よ」

 

 迫る。死が迫る。

 肉体は既に刃で死に果て、故に小鬼の魂に死が迫る。

 その死は、四肢を砕かれ五体を裂かれた、哀れな青年の姿をしていた。

 

 ――魂を千々に砕かれた小鬼の断末魔も、魔剣の刃に啜られて。

 それを聞く者は、其処には誰もいなかった。

 

 

 

     *   *   *

 

 

 

 ……全てが終わった後、死に等しい沈黙だけが残された。

 夥しい量の流血と、無数の小鬼の屍。

 それらを見下ろしながら、ただ一人黒い少女だけが佇む。

 もう、この場には何もない。

 どれほどの時間、そうしていただろうか。

 一つ、二つ。少女は数えるように、大きく呼吸を続ける。

 黒い魔剣にこびりついた血を払って、それを背にした鞘へと戻す。

 

 「…………」

 

 そうして剣の柄から手を離そうとするが、離れない。

 細い指は固く強張り、唯一の拠り所を決して手放すまいとしがみつく。

 ……呼吸を数える。一つ、二つ。

 戦いの直後で昂った心を、死に溺れた直後の震える魂を、少しでも鎮めようと。

 それからゆっくりと、空いた方の手で柄に絡まった指を解いていく。

 ゆっくりと、少しずつ。

 

 「……情けない話ね、我ながら」

 

 どれほど死神のように振る舞ってはみても。

 どれほど恐れを知らぬ戦士の如くに装ってはみても。

 独りで戦い続ける事は、酷く重圧だ。

 手にした魔剣一振りだけを支えに、細い身体で立ち続ける。

 仲間はいない。仲間と呼べる者は、今まで誰も。

 少女の決して長くはない人生、その放浪の中で近付いてきた者はいた。

 けれど多くの場合、その出会いは良い結末を迎えない。

 魔剣を恐れて立ち去る者は、まだいい。

 中には彼女の奇異な容姿に目を付け、口にするのも憚られる事を企む者までいた。

 全ての者が例外なくそうであった、というわけではない。

 そうでなかった者もいる。

 けれどそういった者もまた、今は少女の記憶に留まる影でしかない。

 

 「……ダメよ、弱気になるな」

 

 呟く。孤独に慣れると、どうしても独り言が多くなる。

 聞かせる事のない言葉を口にしながら、少女の視線は石床へと向けられる。

 血の海に沈むように転がった、小鬼の持っていた赤い魔剣。

 少女は慎重にソレに近づく。持ち手を失った剣は無力であるが、警戒は常に必要だ。

 何事もなく剣の傍らに辿り着くと、少女は無造作にその刀身を踏みつける。

 大した力を入れているようには見えない。

 しかしパキンッ、と、呆気なく赤い刃が二つに折れた。

 すると不可思議な事に、赤い魔剣は音もなく白い砂となって崩れ去った。

 

 「……よし」

 

 魔剣―――大いなる「神」の力の欠片は、本来物理的に壊れる事はない。

 しかし破壊不能のその刃を、破壊できる例外は幾つかある。

 これがその一つだ。使い手を失った魔剣であれば、魔剣の使い手は容易く折る事が出来る。

 折った魔剣の数だけ、その使い手が持つ魔剣は力を増していく。

 故に争い、誰もが奪い合う。

 神々の時代より、これは今も続く《魔剣持ち》の宿業に他ならなかった。

 

 「…………」

 

 背に負った魔剣の力がまた一つ強まっている事を確認し、少女は踵を返す。

 もう此処には何もない。あるのは血と屍と、彼らを包む沈黙だけ。

 何もない場所から、誰もいない孤独な道へとまた歩き出す。

 何もない。自分には何もない。少女はまた、数えるように呼吸する。

 この黒い魔剣を握って、戦い続ける事。

 自分には、それ以外には何もない。

 

 「……奪われたものを、奪い返すまで」

 

 呟く言葉は、自分に対して言い聞かせるもので。

 少女の細い影は、大広間から遺跡の通路へと消えていく。

 ……やがて篝火は消えて、遺跡の大広間は暗い闇に閉ざされる。

 後にはもう、何も残されてはいなかった。

 

 

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