第5話 パーティー解散

昼過ぎに起きた休日は、二日酔いを醒ますために街はずれにある広い温泉に行くことに決めているキャミルは、そのまま鍛錬場に行くのもサボり、今後の方針もどうせアズナが上手く決めてくれるでしょ、とマッサージのサービスをフルで頼み、長らくのゆとりの時間をたしなんだ。


帰りがけに街でいちばんオシャレで流行りのダイニングカフェに立ち寄り、異国の野菜や果物をふんだんに使い、見た目も色鮮やかで豪奢に仕上げられた創作料理を、いつもの安酒とは違う高級ワインと共に、何やらメモを取りながらゆっくりと食べ終え、宿に戻ったのはすっかり夜になってからだった。


しかし悪びれることもなく男子部屋の扉を開き、


「どぉー?

今後の予定決まったぁ?

……って、あれ……アズナは?」


いつもいるはずの机の前にアズナがいないことに気付き部屋を見回すが、


「あぁ、クビにした」


「……は……?

……何言ってんの?」


バトスの返答に目を丸くして固まった。


そのまましばらく唖然としていたキャミルだったが、はっと我に返ると大股でバトスの前に詰め寄り、


「ちょっと!?

なんでよ!?

なんであんたたちがあたしの意見も聞かずに勝手にそんなことすんのよ!!

リーダーはあたしでしょ!?」


「なんつーかな……一緒に三年もやってきて今さらだが……、あいつはダメだ、賢すぎて俺らのスタイルに合わねぇ」


「はぁ!?何言ってんの!?

意味わかんないわよ!!

いいからさっさと連れ戻しなさいよ!!

命令よ!!

ほら!!早く!!」


キャミルが扉を指差すが、


「そいつは無理だな、アズナならとっくにどこか別の大陸に渡っちまってるだろ。

さっき新しい超遠距離移動魔法を覚えたっつってたし、もうどこにいるのか俺らにもわかんねぇよ」


「ふ……ざけんじゃないわよ!!

行くなら行くで挨拶ぐらいしてから行けっての、あの恩知らず!!」


残念そうに首を振るバトスとジューグから怒りの矛先がアズナに向かい、乱暴にアズナの椅子を蹴り飛ばすキャミルに、


「あぁ、そう言われるだろうからこそ、顔合わせづらかったんじゃねぇのか?

代わりに手紙預かってるぜ」


ジューグが一通の封筒を差し出した。


「……アズナ……」


複雑な表情で封筒を開くと一枚の手紙が現れ、そこには世話になった感謝と、キャミルの身を案じる丁寧で優しい文章が連なっていたが、行き先や連絡手段などは一切書かれていなかった。


「なんでよ……なんでこんな突然……なんなのよ……アズナ……」


混乱し打ちひしがれ頭を抱えるキャミルだったが、


「あとな、俺らもクビでいいか?

これも今さらだが、俺ら酒弱ぇんだよ。

このままあんたに付き合ってたら寿命縮んじまいそうだからな」


追い打ちをかけるようにジューグが言いながらわざとらしく荷物をまとめ始めた。


「は?ちょっと……何言ってんのよ……!?

そんなの認めるわけないでしょ!?」


「最近のお前の素行をギルドに言えば、お前の方を解雇することもできるんだぜ?

でもそれじゃ勇者としての今後のキャリアにも響くだろうから、あくまで円満解散ってことにするっつってんだ」


「まぁ酒をやめて職務に真摯に打ち込み、スキルを上げて再び相まみえることがあれば、その時はぜひまた共に道を歩ませて頂きたい。

お前の勇者としての素質そのものは、我々も認めているところなのだからな」


「そんな……勝手なこと……!」


一方的な言い分を連ねられさらに困惑するキャミルだったが、


「まぁよぉ……このまま勇者続けるにしろ、どっかのタイミングで辞めるにしろ、あんまり飲んだくれたりしてねぇ方が先々考えればお前自身のためにもいいと思うぜ。

嫁の貰い手も見付かるだろうしな」


ジューグが半笑いで言った台詞が決定的だった。


「……っざけんじゃないわよ!!

余計なお世話だっつーの!!

わかったわ!!

あんたたちもクビよ!!

今すぐこっから出て行きなさい!!

もう二度と関わることなんか無いわ!!

どっか遥か遠くの荒野でも山奥でも行って好きなだけバトルしてくればいいわ!!

バトル馬鹿!!筋肉馬鹿!!

えぇと……馬鹿!!馬鹿!!」


キャミルは彼らに背を向けると、大きな足音を立てながら荒々しく扉を叩きつけて室外へと消えた。


静まった部屋の中で、残った二人はしばしの沈黙の後に顔を見合わせ、ふぅ、と大きく息をついた。


「キャミルのためにも、これで良かったんだよな」


「あぁ。俺たちもそれぞれの人生、しっかりやっていこうぜ」


言いながら荷物をまとめ終えると宿を出た二人は、


「では、いつかお互いさらに腕を上げ一流の戦士となって再会しようぞ!!」


「必ずや!!」


剣を抜き天に掲げてから強く合わせて大きな金属音を響かせると、顔を見合わせて小さく笑い剣を収め、同時に背を向け反対の方角へと歩み去って行った。


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