第4話 大蔵のプロポーズ

恋子は高校3年生になり、

進学は第一志望を東京の大学に、

第二志望を地元の短期大学にしていた。


恋子が東京の大学を第一志望にしたのは、

紛れもなく 秀一の近くへ行きたかったからである。


とはいえ、新しいキャンパスライフを歩んでいる秀一にとって…

恋子の存在は今更どうなんだろう?

という 恋子の不安もあった。



結局、東京の大学には不合格となり、恋子の夢は破れた。

仕方無く地元の短期大学の音楽科に進み、ピアノと声楽を たしなんだ。



短期大学は家政科や音楽科が有名で、卒業後は地元の会社や大型店舗などに就職していくのが常だった。


恋子は音楽科に通って学びながら、

ピアノの個人レッスンをする実力を付けていった。



ある日、恋子が通う短期大学の音楽科を志望する美枝子という高3女子の

個人レッスンの為に、その女の子の自宅へ訪問した際に、その兄に あたる 22歳の中堅地場産業の跡取り息子と知り合った。


出逢いは、一方的な その息子の片想いで、恋子は望まれて、その跡取り息子から求愛される形になっていった。


恋子は《秀一》を忘れる事ができずに、

その息子からの求愛を先伸ばしにし、はぐらかせてきたのだった。


ある日、妹のピアノの個人レッスンの為に訪れた恋子に、兄の《大蔵(たいぞう)》は こう言った。


「俺は、地元じゃあ優良企業の跡取り息子だ。 まあ、付き合ってて損は無いと思うけどな・・・ 」である。


片想いなら「好きだ。」とか「付き合ってくれ。」とか、言い方がある筈だが・・


恋子は、その時には「イエス」とも「ノー」とも言わなかった。



《秀一》を想う気持ちが強くて・・

《大蔵》を とても恋愛対象には考えられなかったのだ。



しかし《大蔵》は 諦めなかった。

表現は下手だが、こうと決めると やり抜く見上げた精神力があったのだろう。


仕事に対する情熱はどうだったか分からないが、恋子に対する《想い》と実行力は特筆するべきものが あった。



恋子が短期大学を卒業してピアノ教室を開くと、大蔵は 早速 お祝いの花輪を届けさせた。


恋子は「パチンコ屋の開店じゃないんだけどな・・・」と思いながらも、祝いの挨拶に来た大蔵に礼を言った。



そうして、恋子が24歳になった時に、大蔵は プロポーズをしたのだった。

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