生徒会の在り方

 学園を出た葵と愛莉は夜道を歩いていく。

 向かう先は愛莉の自宅。ふたりで相談した結果なのだが、生徒会での仕事が終わるまでの間、愛莉は葵の家に泊まることになった。


 ふたり一緒に居たらお互いがお互いに監視することになりさぼりづらくすると同時に、葵は分からないことがあった場合すぐに愛莉に聞けるため都合がいい。二人が一緒に居るという意味では愛莉の家に葵が泊まるのでもよかったのだが、愛莉の両親に迷惑をかけるかもしれないことと、生徒会の仕事が夜遅くまでかかるかもしれないことを考慮して葵の家に決まった。


 今はしばらくの間愛莉が葵の家に泊まれるように、必要なものを愛莉の家に取りに行くところだった。

 遅い時間ということもあり、あまり人影もない。ここで話をしても、他の人に聞かれることはないだろう。

 そう思った葵は、ずっと愛莉に対し言いたかったことを口にする。


 「……愛莉、聞きたいことがあるんだ」


 葵はそう切り出すと、少し歩む速度を緩める。その葵の雰囲気から大事な話だと気づいた愛莉は、不思議そうにしつつも歩む速度を葵に合わせてくれた。


 「なぁに?」


 「愛莉は、生徒会をやめるつもりはないのか?」


 その言葉を聞いた愛莉は驚いたように目を見開いていた。如何やら、葵の口からそんな言葉が出てくるとは想像もしていなかったのだろう。ただ、葵からしたら当然の感想だった。

 今日たった一日だけだが、生徒会の仕事をして分かった。あれは一人でやる仕事ではないと。だからこそ愛莉は葵のことを頼ってきてくれたのかもしれないが、そもそもそれ自体がおかしいのだ。

 愛莉が葵に頼らなくてはいけないほどの状況が出来上がる前に、何故学園は何も対策を打たなかったのかと。


 そのことに葵は怒りにも似た感情を抱いていた。

 自分の知らないうちに、大切な幼馴染がこんな目に合っていたのだ。当然の感情だったかもしれない。

 最初は葵の言っていることが理解できないと言った雰囲気の愛莉だったが、しばらくして少し慌てたような声を出した。


 「あ!葵くんに言ってなかったね!私、生徒会辞めてるよ?」


 「は?」


 突然の愛莉の告白に葵は開いた口がふさがらなくなる。

 愛莉が言った言葉が理解できずに、呆けてしまう。


 「だから、私生徒会辞めてるよ?」


 「は、へ、あれ?俺は生徒会は入ってるよな?」


 「うん、葵くんは一時的に生徒会に入ってるね」


 「一時的?」


 「……ごめんね?時間がなかったから葵くんに説明するの忘れてた」


 愛莉の話を聞くに、どうやら葵は根本から勘違いをしていたらしい。

 生徒会は学園の中での重要性が高い。それもそうだろう、仕事の重要性が高いのだから。その上ちょっとした雑務などもあるため、仕事も多い。が、それだけだ。


 これは全てにおいて共通することだが、大前提として生徒がやる必要はそれほどない。生徒会の仕事は五人中四人が抜けてしまったことで人手が不足した。急ぎ不足した人員を補充しようとしたらしいが、人が増えることはなかった。その時点で一度、生徒会の在り方が見直された。


 そこから生徒会の仕事をどうするか会議がされて対策がなされるまで一週間かかったそうだが、一週間だそうだ。愛莉が生徒会を一人で回したのは。

 一週間の間は愛莉が全力で仕事をこなしたそうだが、その後は生徒会の仕事は、雑務などが他の委員会に振り分けられ、重要な仕事は学園が引き受けたそうだ。


 要するに愛莉は、お飾りの生徒会長だったというわけらしい。いないのは流石にまずいだろうということになったそうで、愛莉は名前を貸したそうだ。その代わりに仕事はしないが、生徒会室を自由に使う許可を得たそうだ。


 余談だが、生徒会メンバーの五人中四人が抜けた理由はいろいろとささやかれていた。誰も愛莉の実力についてこれなかったからだなど。本当は皆が皆愛莉に告白したものの、振られてギクシャクしたことが原因らしい。


 「じゃあ、なんで今生徒会の仕事してるんだ?」


 「…………話さなきゃダメ?」


 「できれば」


 「……私がお茶こぼして、大事な書類全部だめにしちゃったから」


 そんな呆れた理由に葵は苦笑いするしかなかった。


 「あ、でも理由はそれだけじゃないよ?実は葵くんを生徒会に入れるタイミングを計ってたんだよ。それでちょうどいいな~って思って無理言って引き受けたの」


 「へ?なんで俺を生徒会に入れたかったんだ?もう生徒会での仕事はないんだろ?」


 「そうなんだけどね。そうすれば……葵くんと学園でも一緒に居れるかな~って思って。ダメだった?」


 そう言って笑う愛莉の顔を直視することは難しく、葵は思わず顔をそらしてしまう。葵のその行動を拒絶と受け取ってしまい、落ち込む愛莉の誤解を解くのに時間を有したのは、また別の話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る