あの時の君と -オリジナル-

短編 あの時の君と -オリジナル版-

後編にはコメントをいただいてい事もあるので前・中・後をまとめました。

内容は以前のままです

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僕の名前は、有坂 忍 川野辺高校の3年生だ。

僕には2年半付き合った彼女が"居た"

クラスでも人気者だった彼女は僕にはもったいない位だったけど、僕が告白したら「私も好きだった」と答えてくれた。

そして、皆がうらやむ仲の良いカップルとして過ごし卒業後は同じ大学に行く約束もしていた。


そして、高校3年のクリスマス。

受験前の大切な時期だけど、彼女と思い出をつくるため声を掛けた。

ただ、高校最後という事で女友達と女子会をするとい理由で断られてしまった。

クラスでも人気者の彼女だから仕方がないかと諦め、当日は知り合いの店でバイトをして次のデート資金を稼ぐことにした。

が、バイト先のショーウインドー越しに僕は見てしまった。

親友の健也と僕の彼女である若菜が楽しそうに腕を組んで歩いているのを。

思わずお店を出た僕は前を歩く二人に声を掛けた。

嘘であってほしい見間違いであってほしいと・・・・

「若菜!」

人違いであって欲しいという思いは裏切られ健也と共に若菜は振り向いた。

手を繋いだまま僕を見て驚く二人。


「そういう事なのか?若菜、健也」

「・・・・すまん」

「・・・・ごめんなさい」

あっさり認められた。言い訳もしないんだな。


「何だか僕だけバカみたいだな・・・・いつからなんだよ・・・」

「・・・」

「若菜。もうお別れなんだね。健也と仲良くな。今まで楽しかった。

 健也。お前若菜を泣かせるような事だけはするなよ」

無言で僕を見つめる二人。

僕はそのままバイト先に戻りトイレに籠って独り泣いた。


家に帰るとスマホに若菜からメールや電話の着信が来ていたけど全て無視し着信も拒否にした。

メールは何通か見えたけど謝罪を書いたものだった。

今更謝罪なんて要らない。

もう君は僕の好きだった若菜じゃない。忘れたい。

信頼していた親友と最愛の彼女に裏切られた最悪のクリスマスだ。


ふさぎこむ僕を家族や友人は心配してくれたけど、やはり気持ちは晴れなかった。

冬休みが終われば、学校が始まる。嫌でも若菜や健也とも顔を合わせることになる。辛い。。。


大学試験を控えた3学期が始まった。

3年生は受験があるので出席が自由ということもあり、学校には最低限の出席しかしなかった。

若菜や健也に何度か声を掛けられたけど「ごめん」と二人には近づかなかった。

クラスでも若菜と健也の事はすぐに噂となり、僕への同情と若菜たちへの非難の声が出る様になった。

僕はそういった同情も欲しくなかったので1日の大半を図書館で過ごした。


受験。

若菜と同じ大学に通うため一生懸命勉強していたけど、僕は大学受験をやめ、好きだったプログラミングの道に進むため専門学校に進学した。

親も自分の好きなことをしなさいと許してくれた。


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専門学校卒業後、大手のゲーム会社に運よく就職できた。

好きだったゲームの開発にも関わりを持つことが出来た。

同年代からすると比較的給与も良かったと思う。


また就職に合わせて、会社近くのマンションで一人暮らしも始めた。

最初は慣れなかった料理や洗濯も段々楽しく思えるようになった。

そして、働き始めてから3年目。

高校の同窓会のお知らせが届いた。

高校を卒業してからだと5年の時が流れていた。


昔の友達に会いたい気もしたが、あいつらが来ることを考えると出席する気分にはなれなかった。


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Side 若菜

小学校、中学校と私はクラスでも地味で目立たない子だった。

休み時間になるといつも小説やマンガを読んで、クラスの輪にも中々入れず友達も少なかった。

だから、高校に入ったら変わろうと思った。

家から少し遠かったけど知り合いが来ないだろう高校を受験した。

親も進学校という事で許してくれた。

特に成績が良かったわけではないけど頑張って何とか入学。

髪型を変え明るめの色に染めた、眼鏡もコンタクトにして少し無理をしながらも積極的に友達を作った。

おかげで、クラスの中でも目立つ存在となり友達もたくさんできた。


そんな中、私が密かに思いを寄せていた有坂君から告白された。

彼は凄く目立つタイプではなかったけど、明るく自己主張があり誰にでも優しく人気があった。

正直信じられないという思いの中、告白を受け付き合うようになった。

有坂君は優しく、いつも私優先でデートも色々なところに連れて行ってくれた。

そして付き合い始めて1年目でお互いの初めても交換しあった。

今まで生きてきた中で一番幸せな時期だったかもしれない。


ただ、付き合いが長くなってくると彼のやさしさを当たり前のように感じるようになってしまっている自分も居た。

3年生になった時、たまたま一人で帰宅している途中で彼の親友の太田君と会った。

何となく一緒に帰る中、彼も小説やマンガが好きなことが分かった。

文芸部というのは聞いていたのでもしかしたらと思っていたけど、大好きな本の話が出来る人というのは嬉しくもあった。

有坂君と付き合い始めて、彼の友人グループとも一緒に遊ぶようにもなったけど、皆明るく社交的。小説やマンガの話しとかは無く素の自分を出したら彼に振られてしまうんじゃないかとも思っていた。

この点が唯一の不満で、私にとってのストレスでもあった。


そして、受験が近くなり勉強で忙しくなると彼と会える時間は少なくなった。

彼は成績優秀だったけど、私は人並みな成績だったので彼と同じ大学に入るため、一生懸命に勉強した。そういった鬱憤・ストレスからか逆に自分が無理せず話し愚痴も言える太田君と会う機会も増えていった。

そして、いつしか太田君と関係を持つようになってしまった。


あのクリスマスの日。

有坂君は今まで見たこと無いほど悲しい顔をしていた。

当然だ。私は優しくしてくれた彼を裏切ったんだ。

そして信じていた親友も奪ってしまったんだ。

あの日太田君と別れた後、どうしても謝りたくて電話やメールを送ったが拒否されてしまった。

その後、学校でも彼は私や太田君を避けクラスにも滅多に顔を出さなくなった。

私や太田君は彼の友人達から責められ、彼が居たことで出来ていた私の居場所も無くなった。


太田君は頼りにならなかった。

彼は元々内気で争い事を好まない人。

クラスメイトから責められ萎縮し、次第に私からも距離を取り始めた。

「私の事が好きなんじゃないの?」

とも詰め寄ったが無言で逃げられた。

今更ながらに自分の軽率な行動と彼への裏切りに心が痛んだ。


そして不安定な精神状態の中での受験も失敗した。

当然だ。

今までは成績優秀な彼と一緒の大学に行くという目標の中で勉強も頑張っていたのにその目標も無くなったのだ。

頑張っても空しいだけだ。


高校生活最後の3学期。私は彼と一言も話すことなく卒業した。


卒業後、予備校には通わず家の近所の大型書店に就職した。

結局華やかな世界は私には合わなかったんだと昔の地味なスタイルに戻ってだ。

仕事は、本の管理や店舗での販売。

忙しいのは時々行われる作家さんのサイン会とかのイベントや人気作品の発売日位。

それ程忙しいわけでもなく空いた時間は好きな本を読んでいられる。

自分にはぴったりの職場だと思えた。


働き始めて5年。現場リーダとなり仕事のやりがいも得られてきた頃、お客様に声を掛けられた。

「もしかして山下さんじゃない?」

高校で有坂君のグループに居た大室さんだった。

彼と別れた後は気まずくなり話とかしてなかったけど、グループ内では一番仲が良かった。

「随分、雰囲気変っちゃったんだね」

と仕事中だったけど少しだけ昔話の時間となった。

彼女はラノベのコーナーに居た。

当時はこういう本を読むタイプには見えなかったんだけど彼女の一言は私に衝撃を与えた。

「私、本とか読むタイプじゃなかったんだけど有坂に勧められて嵌っちゃってね」

有坂君に勧められて・・・

「あ 有坂君もラノベとか読むの?」

「え?知らなかった?あいつラノベとかマンガとか大好きだよ。

 太田君ともそれきっかけで知り合ったみたいだし」

「そ そうなんだ。。。」

「え?山下さん?」

私は何故か涙を流していた。

無理をしないで彼には素の自分で話をしてもよかったんだ。

それに悩みを相談していた太田君は彼の趣味を知っていたのに私に教えてくれてなかったんだ。

忘れようとしていたのに当時の自分を色々と思い出して涙が止まらなかった。

大室さんは困ったような顔をしながらも私に連絡先を渡して帰って行った。

「何だか色々あるみたいだから仕事終わったら連絡して」と 


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仕事の後、少しためらいながらも大室さんにメールした。

近くに住んでるから会ってくれるとの事だった。書店近くのファミレスで彼女と待ち合わせし、私は当時の気持ちと状況を話しした。

大室さんは黙って聞いてくれていた。そして、


「浮気した事実は山下さんが悪いし、有坂を傷付けたことに変わりはないと思う。

 だけど、、、本当ボタンの掛け違いというかお互い相手の前でカッコつけすぎ

 だったのかもしれないね」

分かってる。

太田君と浮気してしまった過去は他に何があったとしても今更消せない事実。

でも、頭ではわかっていても辛いよ。

私は再び泣いてしまった。


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『同窓会どうしようかなぁ~』

高校卒業後、若菜や健也とは会っていないし連絡も取りあっていない。

僕の方で若菜たちを避けていたという事もあるけど、正直今でも二人の事を引きずってるところはある。

就職してから何人かの女性とも付き合ったが、どの人とも長くは続かなかった。

美化されてるとこもあるんだろうけど、若菜と過ごした時間が楽しすぎたんだ。

『若菜は健也とまだ付き合ってるのかな』

今の自分にはどうでもいい事と思いつつも何となく久しぶりに若菜の笑顔を思い出した。

『吹っ切れたと思ってたんだけどな・・・』


数日後、帰宅途中にメールが届いた。

高校時代の友人"大室"からだ。

ちょっと相談ごとがあるから会えないかという内容だった。

卒業以来会ってないし、何で僕という思いもあったけど久々に会って見たい思いもあったので指定の待ち合わせ場所に行ってみた。


待ち合わせ場所は市内ターミナルの駅前にある喫茶店。

会社からは2駅隣だった。大室の職場がこの近くらしい。


「あ!こっちこっち」

大室が手を振っている。

少し大人びた感じはしたけど、学生当時の面影はある。

高校の時はバスケ部で活躍していたスポーツ少女。

かと思うと僕や太田の勧めで読み始めたラノベに嵌って独自に買いあさり腐女子に落ちたという中々の強者だ。


「久しぶりだな。なんだよ悩み事って」

「うん。同窓会の案内来たでしょ? 有坂君どうする?」

やっぱりその件か・・・

「正直悩んでる。僕卒業前ってあれだっただろ。

 あまりみんなと話とか出来なかったからね。

 仲が良かった栗田や鮎川さん達とも会いたい気もするんだけど・・・」

「・・・若菜ちゃんの名前を出さないのは意図的?

 やっぱりまだ引きずってるの?」

「痛いところつくね・・・

 自分では吹っ切れたつもりだったんだけど

 同窓会の案内みて、また思い出しちゃったんだよね」

「・・・やっぱり若菜ちゃんの事はまだ許せないの?」

「正直わからない。当時は確かに許せないって気持ちでいっぱいだったけど、

 3年になってから構ってあげる時間も少なくなってたし不安な思いもさせたかもしれない。

 それにあいつと付き合ってたとき凄く楽しかったんだよね。

 入学式の時、たまたま若菜を見かけて・・多分一目惚れだった」

「元彼女との話で惚気られてもってところではあるけど、まだ好きなの?」

「ごめん。本当にわからないんだよ。卒業してから連絡取ってないし」


「一昨日ね。偶然若菜ちゃんに会ったの」

「え!!」

「眼鏡に黒髪で、ずいぶん見た目は変わってたけど雰囲気でわかったわ。

 彼女も有坂君の事をまだ引きずってるみたい」

「でも、あいつには健也が・・・」

「そっか、有坂君3学期はあんまり学校に来てなかったもんね。

 若菜ちゃんと太田君はあの後すぐ別れたよ。

 私たちが二人に詰め寄ったからかもしれないけど"僕は悪くない"って

 若菜ちゃんに責任押し付けて逃げ出したわ」

「そうなんだ」

健也は確かにメンタル弱かったからな。

大室さんや栗田とかバスケ部のガタイが良い連中に詰め寄られたら・・・逃げ出すか。

にしても、僕から若菜を奪ったんならもう少し根性を見せてほしかったけどな。


「私さぁ、恋愛とかあんまり興味なかったんだけど、有坂君と若菜ちゃんの二人

 にはちょっと憧れてたんだよ」

「俺たちに?」

「うん。私の周りってカップルが何故か多いんだけどさ、

 バスケ部の先輩方はウザいくらいイチャイチャしてるし、

 栗田君と瑞樹は、イライラする位に中々付き合わないし

 って感じだったんだけど、二人は有坂君が告白して、

 若菜ちゃんがそれを受けて、変に気取らず付き合って

 何というか私の中ではベストカップルだったんよね」

「そ そうなんだ・・・ちょっと複雑だな」

「うん あんな別れ方だったからね。だからこそ!」

と、ここまで話をすると大室は"ちょっと付き合って"と店の外に俺を連れ出した。

『どこに連れてくんだ?』


喫茶店から数分歩き、僕は街道沿いの大型書店に連れてこられた。


「本屋に何か用があるのか?」

「う~ん。あると言えばあるのかな」

「なんだそれ」

「あ、ちょっとここで待ってて。後少しだから」

書店には入らず、駐車場わきの緑地帯で何故か待つように言われた。

わけも聞かされぬまま5分程度待った。

と、緑地帯脇にある書店の通用口が開き女性が出てきた。


「「あ!」」

目があった段階でお互いが誰だか把握した。

思わず二人とも大室を見た。


「というわけ。お二人さん後は任せるわ」

と言って大室さんは、歩いてきた駅の方へ戻っていった。

5年ぶりの再会。

黒髪に眼鏡と見た目は変わっているが、当時の面影はある。

ただ、付き合っていたころの笑顔は無く、少し影がある表情だった。


「髪、黒くしたんだな」

「・・・・うん。元々地毛は黒なんだよ。

 高校デビューっていうと恥ずかしいけど、少し自分を変えたくて」

「・・・・」

「あ あの・・・ごめんなさい!!

 自分がしたこと、有坂君を沢山傷つけたこと、裏切ったこと、

 謝っても許されるようなことじゃない事はわかってます。

 許してもらえなくてもいい。ただ、謝りたかったの」

と僕に頭を下げたまま謝罪の言葉をいい若菜は泣き出した。


「山下さん。顔を上げてよ。もう怒ってない」

と顔を上げる若菜。


「あの時は確かに死んでしまいたいくらいの気持ちだったし、二人を憎んだ。

 でも冷静になると、3年になってからは勉強ばかりで山下さんに寂しい

 思いもさせたと思うし、多分細かなところで不安にさせることもしてた

 んだろうなと思ったんだ。だから悪いのは山下さんだけじゃない」

「・・・名前では呼んでくれないんだね」

「・・・僕は名前呼びでもいいけど嫌だろ?」

「・・・・・」

少しの沈黙の後、若菜は意を決した顔で僕を見つめた。

そして、


「有坂君。私、やっぱりあなたの事が好きです。

 たくさん嫌な思いもさせちゃったけど、もう一度付き合ってください」


何だろう今まで心に閊えていたものが取れたようなすっきりした気持ちがした。

『そういうことだったのか』

僕は彼女の手を引き寄せ、そのまま抱き寄せた。


「よろこんで。 若菜!僕もやっぱり君が好きだ」

と彼女に5年ぶりのキスをした。


「し 忍君は急にこんなことする様な男の子じゃなかったのになぁ」

と顔を赤くしながらも僕に微笑みかける若菜。

久しぶりに見た笑顔。僕が一目ぼれしたのもこの笑顔だったのかもしれないな。


お互い見つめあう。

そして、もう一度あの時の君と恋の続きを始めるかの様に今度は長いキスをした。

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あの時の君と ひろきち @hiro_1974

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