「……はい、もしもし。ああ、ソウタか。携帯にかけろよ、携帯に」

「別にいいだろ? お前は家にかけても携帯にかけてもだいたい繋がるんだから」

「これから出かけるところだったんだよ。お前一足遅れたら繋がらなかったぞ」

「そうかい。今日は何の依頼なんだ?」

「いや、平田さんの経過を見るだけだよ」

「ああ、はいはい。一応オレにも報告くれよ、半分はオレの患者なんだから」

「わかってるよ。それじゃ、そろそろ行くわ」

「おう、カミさん大事にしろよ」


 あの手術から一ヶ月が経った。もう一度依頼主に話を聞いて、何も問題が無いようであれば、除霊は完了だ。


「そうだリョウくん、おんぶして!」

「さすがに昼間は目立つからダメだ」

「じゃあ手繋いで行こう! そのくらいならいいでしょ?」

「しょうがねえな、ちょっとだけだぞ」


 電車を降りて、キリコと手を繋ぎながら五分ほど歩くと、平田さんのアパートが見えてきた。部屋の番号は覚えているから、今回は平田さんも出迎えてはこない。


「……ん?」


 部屋の前までたどり着き、インターホンを鳴らそうとした時、扉の横の表札に目が行った。


「あれあれ〜? なんか名前が増えてるよ。このリンって人、もしかして芽ヶ沢さんじゃない?」

「入ればわかるだろ……すいません、平田さんはいらっしゃいますか?」

「はい、ただいま……ああ、東屋さん! その節はどうも……」

「いえいえ、どうですか、その後は?」

「はい。もうおかしなことは起こってません」

「それは良かった。ご結婚、なさったんですか?」

「そうなんですよ! あの後、急にこっちにやって来たんです。おーい、リン! 東屋さんが来てるぞ!」


 彼が部屋の中に声をかけると、少し間を置いて一人の女性が出てきた。間違いない。芽ヶ沢さんだ。キリコも嬉しそうな顔をして、平田さんの隣に回り込み、腕を肘でつついている。


「本当にありがとうございました。全部、東屋さんのおかげです」

「いえ、俺は何もしてませんから……」

「そんな、ご謙遜を……」

「本当です。ただ、頼れる奴らがいただけです」

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東屋夫妻の幽霊治療 鮎川剛 @yukinotama

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