サンタクロースの正体

佐武ろく

サンタクロースの正体

 子どもの頃。クリスマスっていうのは家族でいつもより豪華な夕飯を食べてケーキを食べて、サンタクロースっていうよく分からないおじいさんから一年間良い子でいたご褒美にプレゼントをもらう。そんな日だった。宗教的なことなんて知らないし、正直今でもよく分からない。

 小さい頃は家族と過ごしていたクリスマスも大人になるにつれ、友達と過ごしたり恋人と過ごすようになっていく。それとともにプレゼントもなくなり、サンタクロースも空想に消えていった。

 だけど実は高校生の時に一度、親に聞いたことがある。


「サンタって母さんと父さんなんでしょ?」


 答えは知っていたけど何となく直接答えが聞きたかった。

 だけど父親の答えは望んだものではなかった。


「何言ってるんだ。サンタクロースはいるぞ」


 高校生にもなる息子に何言ってんだか。そう思った俺はバカバカしくなって適当に流しそれ以来同じ質問をすることはなかった。

 ――そして今日十二月二十四日クリスマスイブ。

 俺は奥さんと子どもと一緒に食事をしていた。


「明日はクリスマスだね」

「サンタさん来てくれるかな?」

「瑠璃はいい子だったからきっと来てくれるよ」


 なんて会話をしながら。

 そして娘を寝かしつけて時間が経った真夜中。


「そろそろいいか」


 俺は用意したプレゼントを隠し場所から取り出し念の為サンタクロースの格好をした。


「瑠璃。喜んでくれるかな?」


 そう呟きなが明日の朝、娘がプレゼントを見つけた時の反応を想像してニヤける。クリスマスだからプレゼントをあげるというより大好きな娘に喜んでほしくてプレゼントをあげる。そういう気持ちだった。

 そして着替え終えた俺はちゃんと着れているかチェックしようと鏡の前に立った。鏡に映ったのは赤を基調とした衣装に身を包み白い髭を蓄え、大きくはないが白い袋を肩に担いだサンタクロース。まだ先ほどの妄想で髭越しにニヤけている。

 でもその姿を見た瞬間、俺は思った。


「サンタクロースはいたんだ」


 別に鏡の中の自分を見てサンタクロースと勘違いしているわけじゃない。

 そこに立っていたのは、大切な娘を喜ばすためプレゼントを用意してサンタクロースの格好をした自分。今までサンタクロースというのは親でもない第三者って考えていたし、そんな人が存在しないと分かったから「サンタクロースはいない」と思っていた。

 だけど本当はそうじゃなかった。サンタクロースっていうのは大切な誰かへ幸せを届けようとする人。こっそり自分だと気づかれないようにして。それは感謝も見返りも求めない一方的なプレゼント。二十五日の真夜中になるとただ大切な人に喜んでもらうため幸せな気持ちにするためサンタクロースに姿を変え気づかれないようにプレゼントを置く。

 それがサンタクロース。そう言う意味では『いる』というよりは『なる』ものなのかもしれない。だけど俺は直感的に『いる』と思った。

 そしてサンタクロースは大切な娘の枕元にプレゼントを置いた。

 これはおまけのような話だが二十六日の朝、妻の枕元にもプレゼントが置かれていた。


「え? なにこれ? あなたが置いてくれたの?」

「さぁ? サンタクロースが置き忘れに気が付いて慌てて置いたんじゃない?」

「なにそれ。前までサンタクロースなんていないって言ってたじゃん」

「いや、サンタクロースはいるよ」

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