第6話

そろそろ深夜かなと思った頃、昨日と同じように真ん中の扉のテラスに出ると、今日は先客はいなかった。たまにはひとりで星を眺めるのも良いかもしれない。でも藍架がいた方が僕は嬉しい。どのくらい経ったのか分からないけれど、もともと星を見る趣味なんてなかったし、ひとりで星を見上げていても、変わらない景色に飽きてしまった。今日は藍架は来ないようだ。LINE交換しておけばよかったなぁ。あれ、とスマホがないことに気づく。そういえばしばらく使っていない気がする。充電が切れてどこかで死んでいるんじゃないか、とも疑う。まぁ仕方がない、そのうち見つかるだろう。


それからホールにあった本を何冊か持って、もらったばかりの部屋に戻った。自分の部屋ってなんかいいな。まるで寮かシェアハウスみたいだ。

気が向いたら寝て、夜の気配がしたら外が見えるテラスへいく生活が定番になっていった。


「藍架」

「あ、聖大くん、また会えたね」

「うん」


「ここってさ、もしかしてスマホ禁止?」

「そうだよ。ここに来た途端スマホなくなってたでしょ?」

「それにさっき気がついて……」

「外界との接触を遮断してるからねぇ、カメラとオフラインゲームくらいなら使えてもいいのにって思ったけど」

「それあんまり面白くないな」

「まぁそうだよね〜」


「藍架はさ、ここで星を見る以外に、いつも何してるの?」

「んー、絵を描いて、料理して、ジグソーパズルしながら寝落ちしたり〜かな?」

趣味がかわいい。

「ジグソーパズルあるんだ」



「聖大くんは、部屋どこなの?」

「藍架は、どこ出身?」

「聖大くんは、どんな学校だったの?」

「藍架は、本とか読む?」

「聖大くんは、何人兄弟?」

「藍架は、どんな音楽を……」

「聖大くんはどんな料理が……」

「藍架は、好きな人とか……」


お互いを知る会話は止まらなくて、夜通し語り合う日が続いた。


「こうやって、星を見ながら話してるのって、幸せだなぁ」

「そうねぇ、幸せ」


単純すぎるけれど、僕は藍架に惹かれていた。ここに来て始めて会ったのが美少女の藍架だったというのも、フラグ回収とも言えてしまう。


初めのうちは会えないことも多かったけれど、だんだんと感覚が定着していって、そろそろかなと思う頃にテラスへ出れば、会えるようになった。藍架が料理をしては、僕の部屋に持ってきて一緒に食べることもあった。こうして新しい生活を楽しんでいる間も、僕のコピーや藍架のコピーは休まず働いてくれているんだなぁ。



とある日、僕が部屋で休んでいると、突然部屋のドアが開いた。驚いたが、藍架だった。藍架が泣いていた。過呼吸気味になりながら、すすり泣いている。

「藍架!どうした!大丈夫か!」

「……お部屋、入ってもいい?」

僕は迷う間も無く藍架の手をとって部屋に入れ、ソファに座らせた。僕も隣に座り、藍架をなだめようとした。

「どうした?」

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