第2話 理解と訪問者

 ひとまず今の状況を整理しよう。そう思って自分が寝ていたベッドの上に座る。部屋の中に椅子と机があったため、使おうとも思ったのだが心が落ち着かない気がして座るのをやめた。気持ち的には、初めて行く他人の家で居心地の悪さを感じるあの感覚に似ている。

 ここはどこなんだろうか。窓から見える限りの情報だと、ここは住宅が立ち並ぶ住宅街の一つだというのはわかる。逆のことを言えばそれ以外得られる情報がなく、見覚えもない。これは困った。家の外に出て探険できればいいのだが、先程第1話のことから出られないものだと思っている。ていうか外に出れば体が溶ける。なんてこともありそうである。

 ちょっと少しでも多くの情報を手に入れようと、部屋の内部をぐるりと見まわす。大きいクローゼット、本棚、本棚、本棚、机、今自分が座っているダブルサイズほどもある大きいベッド。総評をするとこの部屋にはどうやら本棚がおおいらしい。その本棚の中にも所狭しと本がたくさん入っている。

 これを読んでいれば少しは暇つぶしになろうか。そう思っておもむろに本棚に近づき、適当に1冊本を取り出してみる。取り出すときに、ほこりがむわっと舞う。どうやらあまり掃除されていないようだ。手に取った本に目線を移す。背表紙、表紙ともに白色をふんだんに使った・・・ってほぼ白いじゃん。そして表紙には、ちょっと荒れた達筆な字で、『ラノベ!』と書いてある。ぺらぺらとページを流し見する。すると前半には文字がびっちり書いてあるのに対し、後ろのほうには何も書いてない。まさにかのように。本をもとの位置に戻す。次に目についた大きい本を手に取ってみる。その表紙には『図鑑』と書いてある。こちらもぱらぱらとページをめくると、前半の数ページに何やら絵も交えた説明がついている。読んでみる。

『名前 ??? 性別、年齢 ??? 居住区 住宅街 生い立ち 目を覚ますとどこか知らぬ場所に来ていることから始まる。』

わからないことが多くこれも書き途中といった様子だ。

 『図鑑』を見ていてふと思う。もしこの図鑑に当てはまるように考えてみようかな?とまあ実際今することもないし、暇だからという理由で始めたというのが本音なのが・・・

 名前はなんであろうか。これは記憶をたどるしかない。とわかっていながらもどうしても部屋をなんとなく見まわしてしまう。だって知らないんだもん。

 性別はどうだろうか。そう思ってなんともなしに自分の手や足をまじまじと見てみる。骨ばった大きい手、サイズの大きい足。それだけで自分が男であることが簡単にわかる。

 簡単に整理してみた。名前、年齢、生い立ち、住所を覚えていない。わかることはせいぜい自分が男で、何らかの力かは知らないが、この部屋から出ることを避けたほうがいいということだろう。結構暇つぶしになったと自負しながらうんうんと頷いていると・・・


「ピンポーン」


不意に家のチャイムがなる。瞬時に身構え様子をうかがう。その後、なにも反応がないことを確認すると安堵感からか深いため息が出る。この動作をなんの違和感もなく出来る辺り、友達いなかったんだな~とか思いながら立ち上がる。


「カチャカチャ」


その安堵感も一瞬にして崩れ落ちる。なぜなら誰かがこの家に入ろうとしているからだ。

 

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この世界を生きるとき、きみは。 ちいろ @tiiro

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