召喚失敗勇者と捜索

「しかし、いったいどうやって捕まえるのですか? 」


「まずは騎士団に行って情報収集よ! 魔導騎士団が主導で動いているのなら、まずっちに話を聞きに行きましょう! この中で捕縛とか対人戦闘の経験がある人はいる? いたら手を上げて」


 私の質問に手を挙げたのは、アイリスちゃんだけだった。

 アイリスちゃんは騎士の家の為、小さいころから剣と魔法の訓練をしていて実際に盗人とかを捕まえたことがあるんだって。


「アイリスちゃんは確定ね。それじゃあ、他に最低限訓練している人は? ……あら? 全員なのね。それじゃあ、この中で誰が一番強いか分かる?」


「一番強いのでしたらヴィンが恐らく一番強いと思いますわ。アカリ様、共は何人までお連れになるのですか? 」


「それじゃあ、ヴィン君も連れて行くと。そうね、パーラー君は確定としてあと一人かな? 」


「あ、あの、アカリ様。何故自分なのでしょうか? 」


「え? だってパーラー君がこの件の責任者なんだし、家格も高いから行くのは当たり前じゃない? 」


 私の言葉に疑問を持っていたみたいだけど、ゴロツキ共を衛兵に引き渡して詰め所で尋問したり、人身売買グループの情報とかを集めたのはパーラー君なんだから、行くのは当たり前よね?

 それに、パーラー君とハンナは公爵家だから、何かあった時に後ろ盾がいるかもしれないけど、そこでハンナを連れて行くのは危ないからね。


 そのことを説明したらパーラー君は諦めたようで、一緒に付いてくことを了承してくれた。

 そして最後の一人だけどはビュー君を連れて行くことになった。

 理由は単純に、只の年齢順に選んだだけです。

 

 そして六人で馬車に乗り魔導騎士団に向かったんだけど、騎士団長と副騎士団長の二人とも外出しているとの事だったので、補佐官のベロニカさんって人が私達の話を聞いてくれることになった。


「昨日ぶりですねアカリ様。私は魔導騎士団団長補佐官のベロニカと言います」


 ベロニカさんと会うのは実は初めてでは無くて、魔導騎士団に来た時の副騎士団長のコジーラさんを取り押さえて、団長室でも暴走しない様にガードしていた一人。

 紺色っていうより勝色の様な黒に近い髪を肩の位置で切りそろえた、少し目つきの鋭いお姉さんだ。

 ローブを纏っているからあんまりわからないけど、膨らみ方からして結構大きい気がする……何でこの世界って皆胸が大きいのよ! 私よりつつましい人なんて……うん、今まであってない!


「え、ええっと……どうかされましたか?」


「いえ、特には。それで、ゲルメルトの行方は分かったんです? 」


 流石にじっと見過ぎたせいでベロニカさんは少し戸惑っているみたいだけど、視線を戻して真面目な感じでベロニカさんに質問してくと、色々な事が進展していることが分かった。


 まずゲルメルトの行方は未だ詳細は不明みたいだけど、彼が借りていた――正確には組織が借りていて、実質的にゲルメルトが使っていた屋敷――は、既にもぬけの殻で人はおろか金目の物全て無くなっていたらしい。

 ただ、その屋敷には地下通路が合ってそれの出口には、南の正門付近にある倉庫のような建物まで続いていて、そこから恐らく馬車で逃走したのだとか。

 衛兵の話では、今朝早く教会の印が施された馬車でゲルメルト乗っていて既に街から逃走しているとの事だ。


「そうなると、既に違う街に行っちゃってるわけね。となり街とかに知らせとかは出したの? 」


「はい、早馬を出してあります。夕刻には近隣の街に伝達されると思います」


「え? そんなに時間がかかるの? 」


「アカリ様。ここから近くの街までは徒歩で三、四日ほどかかる場所になります。いくら早馬を出したといってもそれ以上だと馬がつぶれてしまいます」

 

 想像以上に伝達速度って遅いんだ。スマホとかインターネットが無い世界なんだから当たり前なんだけど、もう少しどうにかした方が良い気もするんだけど。

 街と街の間には小さな集落が大体徒歩一日分くらいの距離にあって、普通であればそこの宿なり広場を借りて野営することが多いみたいなんだけど……逃走中の人だったらそんな所に行かないよね?


 それに、ベロニカさんは街道沿いに逃げると想定しているみたいだけど、もし街道を逸れて街にも立ち寄らなくても良いルートが合ったら完全に逃走されてしまいそうね。

 

 何とかならないかなーって考えていると、ふと頭の中に探査の魔法が浮かび上がった。

 

 この探査魔法は、通常では百メートル程の探知範囲だけど私が勇者としての力を使うと――なんと数十キロから数百キロまで探査が可能な事が分かった。

  数十キロなら何十回でも使えて、数百キロだと今の半分くらいの魔力を消費するみたい。

 

 これならと思い皆に話してみると驚かれたけど「流石はアカリ様です」という一言で終わってしまった。


 とりあえず行動方針としては、私が長距離の探査魔法を放ってゲルメルトがどこに逃げようとしているのかを把握して、確認した所から再度魔法を使って探査して追い詰めることになった。



「アカリ様ご協力感謝いたします。直ぐに部隊を整えて正門まで向かいますので、先にそちらでお待ちください」


「はーい。それまで一回使っておきますので直ぐ追いかけましょう!」


 ベロニカさんと別れて私達は急ぎ門まで向かった。

 移動中にパーラー君達は少し緊張した面持ちだったけど、私は特に緊張することは無くどちらかと言うと少しワクワクしていた。


「みんな緊張しているの?」


「ええ、まあ、そうですね。いくらアカリ様が居るとはいえ、自分達では盗賊程度しか相手に出来ないかと思いますので」


「パーラーは心配性だな。俺は戦えることが嬉しくて少し緊張しているが、ゲルメルトの取り巻きがどの程度かによるが盗賊程度なら余裕で退治出来るし、もし騎士クラスでも一対一なら負ける気はないな」


「ヴィン君は戦うのが好きなの? 」


「ええ、日頃から家の警備で雇っている退役した騎士や元冒険者と訓練していますので、その成果が発揮できるような場面がいままでありませんでしたから」


 なるほど、元々がかなり体育会系の考えをしていて今回の件はその成果が発揮できる場所として考えているのかな――ちょっと血なまぐさいけどね


 因みにビュー君は一対一なら騎士相手でも勝てるかもしれないけど、今の状況だとちょっと厳しいかもしれないとの事だ。

 今の状況とは……皆簡易的な装備として武器は持っているけど、防具関係は殆ど装備していない事ね……まあ、後で魔法をかけておけばいいかな?

 少し準備不足な感じがするけど、魔王を倒しに行くわけじゃないから特に問題ないよね。


 あと、アイリスちゃんは意外と肝が据わっているのか「盗賊相手ならお任せください」っだってさ。


 まあ、無茶だけはさせない様にしっかりと面倒を見ておこう。



 そんなこんなしている間に門まで到着しアイ君が入り口の衛兵さん達の所まで歩いていく。

 衛兵さん達と少し話をした後戻ってきたけど、少し微妙な顔をしていた。


「アカリ様。衛兵達が言うには教会の馬車五台がここを通ったのは確認できたのですが、誰もゲルメルトの姿を見た者はいなかったようです。ただ、誰か教会の法衣を着た者が馬車内に居たのは確認したそうです」


「もしかして、ゲルメルトはまだ街の中に居るって事? それにしても五台って多くない? 」


「多いですね、普段は馬車一台と護衛達の幌馬車が一台と言ったところでしょう」


「はい。そのため衛兵も少し気になっていたようですが、教会の馬車は基本的に検閲しませんのでそのまま通過させたとの事です。持ち場に居た衛兵から聞いた話では、門を出た後そのまま南の街道へ向かっていたとの事です」


 うーん、何か引っかかる気もするんだけど流石にわからないわね。

 逆にそれだけ大人数で移動したのだったらどこに居るか探知しやすいから追うのは楽そうね。


「とりあえずちゃっちゃと調べちゃいましょう!」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る