召喚失敗勇者と遠征

 王城へ戻った後、特にする事も無く暇だったので近衛兵たちの訓練所に向かった。

 

 まともに私の勇者としての力を確認したことが無かったから、クラウディアに体を動かしたいといったらここが良いわれ、許可も直ぐに取って来てくれた。


 近衛兵の訓練所は王城の一角にポツンと小屋が建っていて、その地下が訓練施設になっている。 

 大きさ的には学校のプール程の大きさがあり、高さも四メートルほどあって圧迫感は特に感じなかった。

 壁と天井の所々に光を出す結晶のような物が付いていて、たぶんあれはシャンデリアとかと同じものなのかな?

 少し気になってクラウディアたちに聞いてみたら、いろいろ詳しく教えてくれた。


 壁や天井に着いている物は魔石を加工した魔道具で、基礎魔法が使える者ならだれでも使用することが出来きるみたい。

 魔石と言う物は、魔物が体内で作り出す物だけど詳しくはわかっていないけど、加工すると様々な効果を出すことが出来るんだって。

 そしてすべての魔物が持っているわけではなく、ある程度の大物や上位種からしか取れない貴重品らしい。

 シャンデリアの方は光晶石で、これは鉱山などから発掘した晶石を加工したもので、こっちの方が安価で明るいんだけど、寿命があるから埋め込んだり常時使わない部屋とかではこっちを使うらしい。

 


「うーん、それじゃあ少し体動かしてくるね」


「入り口は見張っておきますので」


 そう言うと皆部屋から出て行ってしまった……別にみられて困る物でもないんだけど。


 そんなことを思いつつも、気を取り直して軽く柔軟をしてからまずは剣技を試してみる。


「どの位動けるのか確認は必要よね」


 そう独り言を言って、壁にかかっている模擬剣を一つ借りて剣を振り回す。

 勇者の力の元でもある、過去の勇者の経験をもとに一つ一つ確認するように剣を振るうが、イメージした通りに剣を好きなように振れるみたいね。


 次は、走りながら剣を振りぬくイメージで。

 足に力を込め勢いよく足を踏み込むと、グシャっと足の石畳を割りながら物凄い勢いで一気に加速して剣を振りぬく。剣空気を割き激しい音と衝撃を巻き起こした。


「あはは……思ってた以上に凄いわこの力。いやー流石勇者だね」


 振りぬいた剣先の向こう側、石でできた壁には一筋の跡が出来ていた。

 想像を絶する速度で振られた剣から発生した風圧が、反対側にある壁剣筋の後を残していた。


「うーん、これだけすごいと技なんて使ったらここが崩れ落ちちゃうかも。よし! 剣は何となくわかったら次は魔法を試そう! うんそうしよう! 」


 思いもよらぬ効果にアカリは少しビビってしまい、流石少し自重しようと考えた。


「えーと、流石に攻撃系の魔法をここで使ったらまずそうだから、補助系の魔法の確認にしよ」


 回復魔法、強化魔法、防御魔法など、様々な補助魔法や攻撃以外の魔法を納得するまで試した後、クラウディアたちの元へと戻った。


 割れた床や壁の傷は、土魔法でこっそり修復しておいた。


「アカリ様大きな音と振動がしましたが何かございましたか? 」


 訓練所を出てクラウディアと顔を合わせた瞬間、いきなりそんなことを言われてしまった。

 何でも、私が起こした振動と音は地上まで響いていたみたいで、近衛兵の人が何事かと確認に来てしまっていたみたい。

 乾いた笑いを上げながらクラウディアには事情を説明して、近衛の人達に説明しておいてもらおう。


 部屋に戻りつつ、流石にこういった場所では魔法の練習も出来ないから、どこか人目に付かずに訓練が出来そうな場所はないかとクラウディア達に確認した所、みんな揃って「「「僕の(私の)領地であれば練習できます(よ)」」」と息をそろえて言ってきて、ちょっと流石に引いてしまった。


 一番近いクラウディアの実家のある、コナマハの街でもここから二日ほど歩く距離にあって、一番通りアイリスちゃんの実家だとウグジマシカという隣国との境の当たりにあるらしく、十日ほどかかる距離らしいので流石に辞退した。


 この辺りはハンナやパーラー君達が戻って来てから考えたほうが良いかもしれないわね。


 そしてこの日はそのまま部屋に戻って、部屋で食事をしてお風呂にも入ってそのまま就寝した。



「アカリ様、それであれば遠征訓練はいかがでしょうか? 近隣にあるマヤシカと言う森に魔物討伐訓練をするという名目であれば、正式にきょかを頂けるかと思います」

「そうですわね。それに、元々アカリ様の騎士団での訓練が終わった際に出る課題のような物でしたので、昨日の様子から見た限りではこちらへシフトして問題ないかと思います」


 翌日、ハンナとパーラ君に昨日の件を相談したらタイミングが良い事に、元々私が遠征をする予定があったらしい。

 そうだよね、ここから他の国に行ったりもするんだし野営の練習くらいはしないともんだいがあるだろうし、一度も魔物を倒したことが無ければ急に出会った時に対処が出来ない可能性もありそうだしね。


 二人に遠征の手続きをしてもらって、そのマヤシカと言う森に魔獣討伐の遠征をしながら、現地で訓練出来るように手配してもらっておく。


「遠征の件は承りましたが、本日はどのようにしてお過ごしいたしますか? 」


「今日は昨日みたいに予定はないの? 」


「……はい。昨日アカリ様が騎士団での訓練が無意味と言う事が分かりました。それと、少々騎士団で問題が発生しておりまして……」


「問題って何かあったの? 」


 え、もしかして私何かやっちゃったかな? 昨日副騎士団長簡単に倒したのがまずかったかな? それとも、魔導騎士団でいろいろ言ったのが悪かったのかな。


「あーえっとですね、昨日アカリ様が捕まえたゴロツキ共のことを覚えていらっしゃいますでしょうか? 」 


 あの人攫い共の後ろにそれなりの人物がいたらしいけど、もしかしてそいつが逃がして騎士団で追っているとかなのかな?

 もし逃げたのであれば私が全力でさがして、今度こそ再起不能にしてあげなきゃね。


「覚えていますよ? まさか……逃げられた……とか? それなら私が」


「いえいえ、あの者達は問題なく収監されているのですが。その、バックに居たものが問題でして……」


 なんでも、昨日のゴロツキ共はパーラー君の脅しが効いたのかペラペラと内容を離したのだけど、その後ろに居たのは実は一人では無くて複数人の貴族や有力者だったらしく、今その摘発の為に騎士団員達が出払っているとの事だ。


 しかも、騎士団長のヴァレンシュタインも容疑者に入っていて、今は仮にヒューズ副騎士団長が仕切っているらしいんだけど、容疑者の中には逃走している者も居てなかなか捕まえるのに難儀しているみたい。

 特に捕まえるのが難しくなっているのが、ウサト大聖堂の司祭だったゲルメヌトで、彼は聖職者であるにもかかわらず裏で人身売買していたらしくかなりの重要人物だったんだけど、騎士団が教会に向かった時には既に姿はなく、現在は証拠集めと足取り捜査の為に司祭やシスターたちに協力を要請しているとの事だ。


 ただ、司祭は魔法使いとしてもかなりの腕前なので、捕縛には通常の騎士団だけではなく魔導騎士団の魔導士にも協力が必要で、抵抗が考えられるため副騎士団長や上位の魔導士が捜査協力しているみたい。


「……なんか、凄く大ごとになってない? 」


「なってます。ゴロツキ共の隠れ家で見つけた帳簿により、この国の貴族の数名が既に捕縛されているのですが、それよりもゲルメヌトが一番の問題ですね。彼は高位の司祭と言う事もあってかなりも魔法が使えますし、人脈も下手な貴族よりもはるかに広いです。しかも、教会の馬車は基本的に検閲をされないので、それを隠れ蓑に人身売買をしていたようです。この組織全体ではわかりかねますが、ゲルメヌトがこの国での重要なポストに付いていたのは間違いない様なので、何としても捕まえたいところですが未だ足取りが分かっていないみたいです」


 話を聞く限りゲルメヌトがこの辺りの元締めで、違法奴隷の運搬などをしていたことは確実みたいね。うーんどうしたら……そうだ!


「ねぇパーラ君、今日の予定決めたわ! 」


「アカリ様、まさか……」


「うん! ゲルメヌトを捕まえるわ! 」


 満面の笑みで答える私の顔をみて、側仕え一同の顔が暗くなったのが見えた。

 えーいいじゃん、悪者退治って物語の勇者としては一般的だし、忘れてたけどタケミカヅチ様からそういう奴ら捕まえてくれって言われてたから、ちょうどいい機会だからサクサク捕縛してしちゃいましょう!

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