ビヨン ザ グラス(最終話・Outer the grass~What is "FATE"?)

想人~Thought~

最終話 Outer the grass~What is "FATE"?

最終話 Outer the grass~What is "FATE"?


「……」

「……」

「……一体ダックが、何をしたって言うんだ?ダックの仲間達が、一体何をしたって言うんだ?一体、何をしたって言うんだよ…………」

「……」

「今のこの怒りを、悲しみを、人間達にぶつけてやりたい。でも、でも僕には、そんな事を出来る力が、……うっ、畜生!!!」

「あなた……」

 バリーにリズが寄り添った。彼等はそのまま、無言のまま、深い悲愴へと沈み込んでいったのだった。

「どうして、どうしてダック達は連れて行かれたんだ、唯だ自然の中で生きている彼等を、僕達を、人間達は相も変わらず捕まえて、一体何が目的なんだ、何が面白くてそんな事を……」

「キャアッ!!!」

「!!?リズ?リズ!!!」

 突然、リズが背後から虫取網で捕らえられたのだった。彼女は何の前触れもなく網で捕まえられると、緑色の蓋をした飼育ケース型の小さい虫籠に乱暴気味に入れられたのだった。リズを捕まえたのは、小学生と思しき少年だった。

「わーい、大きなバッタ一匹ゲット!」

 ニコニコと嬉しそうに籠を持ち上げた。狭い籠にいきなり閉じ込められたリズの気持ちなんてお構い無しに、少年は楽しそうにジロジロとリズを眺める。

「リズ!!」

「あなた!!」

「リズ、今助けるからな!」

「あ、もう一匹、こっちに飛んできた!」

 リズを助けようと反射的に飛び込んだバリー。しかし自分よりも遥かに大きい人間を前にはなす術もなく、バリーもまた捕らえられてしまったのだった。

「ラッキー、大きいやつ二匹もつかまえちゃった!」

 少年は満面の笑みを浮かべ乍ら、草地を後にした。


 

「……すまない、リズ、僕がちゃんと人間の存在に気付いていれば、こんな事には。それに君を、助けられなくて……」

 狭い籠に閉じ込められているバリーとリズ。彼等は、彼等を捕まえた少年とその姉、母親、父親が乗る車に乗せられ何処かへと向かっていた。どうやらこの一家は、都会から遊びに来ているらしい。

「何を言ってるの、貴方は何も悪く無いじゃない。私だって人間に気付かなかったんですもの。それに、貴方は私を助ける為に、自分の事を犠牲にして、私の所へ飛び込んできてくれた……」

「リズ……」

「……ねえ、私、貴方と一緒なら、怖くないから」

「……」

 リズに寄り添ったバリー。怖くない、とは言ったものの、リズの体は震えていた。


 車は動き出してから数分が経っていた。車内はぼちぼちワイワイと賑わっているのだが、バリーとリズ以外に、もう一つ別の小さな虫籠の中に、一匹のクマゼミが捕らえられているのだった。彼はがっちり蓋が閉まった籠から脱出しようと、必死に羽をばたつかせている。

「虫か~、子供の頃を思い出すな~。父さんはな~、小学生の頃は夏休みの自由研究で毎年昆虫採集をしていたんだぞ~。いつも先生に凄いな~って誉められてたのを思い出したな~、ハハハ」

 と運転し乍ら言う父(昆虫採集は人間のエゴによる娯楽、つまり人間特有の残酷な嗜好感性であると私想人は考えている)。

「ねぇ、何で蝉なんか捕まえて来んの?大体蝉ってさぁ、見た目も気持ち悪いし、うるさいじゃん。ほんと、この世から居なくなっちゃえば良いって思うんだけど。てか虫自体がみんな、地球から消えちゃえば良いのに。何で虫なんかがこの世に存在してるわけ??ほんと嫌なんだけど!」

 と後部座席の弟の隣でアーモンドチョコレートを頬張り乍ら阿呆莫迦間抜け丸出しの発言をする姉(あれ、自然界の理については小学校の理科の授業で多少習いますよね?食物連鎖って言葉とか、確か学びますよね?)(因みに、言わずもなが虫がこの世から滅んだら、食物連鎖など地球の生態系つまり自然の理が粉々に崩壊してしまう。実際、この世には虫の存在を否定をしている人間が無数に存在しているが、……そんな奴等に、敢えて言おう。虫は絶対に滅んではならないが、お前等みたいな莫迦でどうせ周りに迷惑とか掛けているような連中は滅んだ所で何一つ変わりはしない、とな。寧ろ滅んでくれた方が、清々するんじゃたわけが)。頬張り乍ら、姉はまだチョコレートが二、三粒残っている箱を、窓からポイ捨てした。

「もうその蝉も車の外に捨てなさい、蝉なんか飼って家の中で鳴かれたらどうするの。うるさくて迷惑だわ。ついでだからバッタ二匹も一緒に捨てなさい。虫が家の中に居たら、気分が悪いわ」

 と、助手席の母。皆それぞれ、自分勝手な言葉を吐き連ねている。

「えー、嫌だよママ、折角捕まえたのに捨てるなんてー、やだ持って帰りたい、持って帰りたい!!」

「我が儘を言うんじゃない!!」

「!!……っ、……ぅうっ……」

 半ベソをかきながら、少年は怒りの表情を浮かべた。そして蝉の入っている籠の蓋を開け、ガバッと左手を突っ込んだ。

「……」

 死に物狂いで羽をばたつかせている蝉をガシッと掴み、ジッと彼を見詰めたのだった。

「……」

 少年の右手が、蝉の左の羽を摘まんだ。その手は、その羽を、……もぎ千切り出したのだった。母親に怒鳴られた憂さ晴らしを、蝉に当てやがったのだった。

「うあああぁぁぁぁぁああああアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

 断末魔の阿鼻叫喚が、バリーとリズの心身に突き刺さった。そんな叫びなどこの人間達に届く筈も無く、少年は歯を見せながら莞爾している。腹いせで蝉の体をもぎ千切り始めた少年のその憂さ晴らしの為の感情は、苦悶している蝉を見る事で直ぐに怒りを忘れ、単なる楽しみの感情と化していたのだった。

「……………………」

 言葉を失う、バリーとリズ。目の前の凄惨な地獄に、激しい身震いが止まらない。蝉の体を、羽、脚、胴と次々にバラバラにもぎちぎって遊ぶ少年。命を命と思わず、唯だ虫を殺す事が面白い遊びと感じている、短絡的で残酷過ぎる感情に支配せられた糞餓鬼。「人間」という名の妖怪。


 蝉は見る影もなく無惨な姿にさせられ、そして車の外にポイっと投げ捨てられたのだった。

「何やってんのよもぉー、気持ち悪い」

 姉が少し辟易そうなリアクションを気だるそうに見せたものの、そう言ったきり、家族は誰一人注意などする事もなく、次に弟が照準を定めたのはリズ達の籠だった。

「……」

 じーっ……と籠を見詰め乍ら、蓋を開け、そして徐に、左手を中に入れる。

「キャアッッッ!!!」

「!!!なっ、リズに何をする気だ!!や、やめろ、やめろぉぉぉーーー!!!」

「あなた、あなたぁぁぁ!!!」

「リズゥゥゥゥーーーーー!!!!」

 胴を鷲掴みにされたリズが、掴まれ乍ら籠の外に出されてしまった。

「……」

 手の中で恐怖に悶えるリズを、じーっ…と見詰める少年。


 ──リズを掴んでいる、左手。右手が、リズの頭部を徐に摘まんだのだった。

「なっ、…………やめろ、…………やめろ、…………頼む、やめてくれ、お願いだから、リズを、リズを、離して…………」

「長い頭をしてる、バッタだなぁ。……この頭、引っこ抜いちゃお!」

「い、いや、…………キャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」




  ………………………………………………………………




「……………………あ、……………………あ、……………………リ…………リ………………リズ、………………リズ、…………………………」

 


 先程の蝉と同様、変わり果てたリズは、車の外に投げ捨てられてしまったのだった。


「………………………………………………………………………」


 今にも、気絶しそうだった。頭の中が、真っ白になった。残酷過ぎる恐怖、深すぎる悲しみ……いっそこのまま、気絶したいと思った。リズのもとへ、行きたいと思った。頭の悪過ぎる目の前の魑魅魍魎は、相も変わらず、莞爾している。姉も相変わらず、辟易し乍ら気持ち悪がっている。そんな子供達の行動とは関係無しに、助手席と運転席の夫婦はこんな会話を交わしている。 

「あなた、明後日からもう仕事なのよね」

「ああ。ちょっと考えただけで疲れてくるよ。なんせ、保健所での勤務だからね~、毎日毎日大量の犬とか猫とかの相手しなきゃいけないんだから、もう気が滅入っちゃうよ。ああー、ストレスストレス。殺処分の作業も、ホント大変なんだぞぉ~。あと最近さ、民家とかに野生の熊やら何やらが食べ物目当てにやって来てるって事案があってさ、そいつらを射殺するって仕事にも携わってるんだよ。あ、僕が撃ってる訳じゃないんだけどね勿論。でも銃なんてあんな重たい物を持ち歩いてるマタギの人達を見てると、何だか僕の方が肩凝ってくるんだ。ホント疲れるよ。しかもさ、『人間が彼等動物達の住処、食料等……つまり自然を奪ったから、破壊したから、彼等は人間達の世界に足を踏み入れてるんじゃないか。それなのに、勝手すぎる自分達の都合で、そして被害者ぶって彼等を殺すなんて、正気の沙汰じゃないじゃないか。彼等は生きる為、死なない為に、唯だ必死なだけなのに、人間みたいに「悪意」を抱いている訳ではないのに……』ってクレームほざいてくる活動家紛いと言うかそういうのを気取ってる輩達もいるんだけど……知るかンナもん!!……ああー、ストレスストレス……」

「今日と明日の内に、しっかりと体を休めておかないとね」

「そうだね。まあでも愛する家族の為、父さん、これからも頑張るぞ!ハハハハハ!!」


「……」

 少年は、バリーに照準をあわせていた。

「…………」

 放心状態の、バリー。

「…………もう、いいよ。好きに、してくれ。もう、殺してくれよ、寧ろいっそのこと。もう、…生きていたって、…………」

 徐に、左手が接近してくる。

「…………ああ、リズ、僕も今から、殺されるみたいだ。人間という魑魅魍魎によって苦痛の中で死ぬ僕は、同じく苦痛と苦悶の中で、…新しい命達と共に、命を奪われた、君の魂のもとへ、向かうからね……。そして、永遠の世界の中で、今度こそは、君を離さず、守り続けて……」

「!!!!!!」

「!!!???」



 ドォぉォガアァァァアあアアアァァァーーーーンンン!!!!!!!!!!!!!



 飲酒運転で居眠りをこいていた中卒中年野郎ドライバーの十トントラックが、猛スピードで真っ正面から突っ込んで来たのだった。下等の魑魅魍魎共は全員頭部や胴体を愚者愚者の状態、及びモー○ルコンバットのフェイ○リティやグ○ーンインフェルノの食人シーンの如き、手や腕や足や脚や指や骨や内臓が薔薇薔薇散乱グロテスクの糞気色悪い状態で、呆気なく頓死しやがった(因みにトラックの運転手も、割れたフロントガラスの破片が肺・気管支・食道諸々に入り、救急隊が駆け付けた際に死亡が確認された)。

 

 偶然、後部座席の窓が開いたままだった。事故の衝撃で、バリーの入った籠はそこから飛び出され、バリーは車外に脱出したのだった。

「………………」

 空っぽになった心を携え乍ら、呆然と立ち尽くすバリー。バリーが投げ出されたその場所は、自分が住んでいた所とは別の田園地帯だった。彼の故郷に比べると大分小じんまりとした所で、草地は草を全て刈り取られた禿げ地となっている状態で、生き物は存在していなかった。芝刈りによって生き物達は住み処を失われ、そして恐らく餓死したのだろう。

 …絶望の中で、疲弊しきっているバリー。その心身を、一先ずその場で休める事にしたのだった。そして、ゆっくりと、眠りに就いていったのである。


 ──翌日。バリーは、眠りから覚める事はなかった。眠っている間に散布せられていた農薬で、彼は命を落としたのである




 ──生きる、って、何?何故僕等は、産まれてきたんだ?僕等の運命とは、一体何だったんだ……?いざ、こうして辛苦苦痛を味わわされながら殺されてみると、…………。唯だ人間達の嗜虐~娯楽~の為の道具として産まれてきただけだったのか僕達は?……初めは、一度きりの自分達の「運命」に、心から喜び、感謝していた。それが、悪しき存在達の所為で、何一つ抵抗も出来ず、苦痛の声すらも届かず、あっさりと頓挫するかの如く、滅ぼされてしまったのだった……。


 ──リズ、ごめん。君のもとへは、行けない。行けなく、なってしまった。

 ………ねえ、リズ、今君は、何処で、どんな風に、過ごしているのですか?辛苦、苦痛、苦悶の中で惨殺された君、……君は、今、何処で、どんな風に、…………


 ……うん、そう。僕はね、今、一つ、確固たる目標を、手に入れました。手に、入れたんだ。…うん、そう、其れはね、────


 


 生まれ変わって   復讐を




 二十六年後。一人の青年が、テロ活動を行い、警察機動隊との揉み合いの際に特殊部隊の狙撃手により射殺された。日本全国の火力発電所に爆破予告(予告と言っても、実際に爆破してしまうと地球環境及び自然界を生きるヴァンダル~人間~以外の生物達に甚大な被害を及ぼしてしまうので、要するにこれは脅しである)のファックスやメールを送信した後、十二月二十四日、渋谷駅ハチ公前にあるロッカー内に爆弾を仕掛け爆発させた後、ドローンを使って何処からか入手した生物兵器を空中散布し、無数の人々を殺戮したのである。「上級国民の被害者」により殺された青年の亡骸からは遺書が見付かっており、それにはこう記されていた。



 ──生きるという事その物に、辟易、…いや、完全に絶望してしまっている──

 "人間"──特に平和ボケしてしまっている"我々"は、自分達の今居る恵まれ過ぎた環境が当たり前と感じ過ぎているあまり、感謝の気持ちや痛みを完全に忘れ、尚且つ自分達の事を万物の王と思い込み平気で自然環境や生物達を殺戮する、最も恐ろしい存在だ。

 そうやって、後先を考えもせずに好き勝手放題やらかしてきたから、その「今迄のツケ」が、現在の地球~母~の温暖化、汚染破壊を招いているのだ。…そう、"我々"は、とても頭が悪い存在なのである。頭が悪い上に、極めて悪しき存在なのである。「進化と言う名の退化」である。「前世の復讐」の為に此の世に生を授かった小生だが、いざ「人間」として産まれてきて、"我々"が如何に多種数多の罪悪を積み重ねてきたのか、其れをひしひしと目の当たりにさせられてきた。憎悪は、日に日に増していく一方だった。小生が前世住んでいた田園は現在、外来種の駆除に躍起になっているらしい。外来種はそもそも、人間が自分達の勝手な都合で持ち込んだものじゃないか。彼等だって生きる為に、死なない為に、飢餓を避けているだけなのに、其れを生態系の破壊だの何だのと言い乍ら「害」と定義付けて彼等を身勝手に殺戮し捲っているのだ。自分達人間は被害者ぶってな。…身勝手、などと言う言葉では済まされない、残酷過ぎるエゴイズム。"我々"によって長い間ずっとずっと傷を負わされ続けてきた「母」に対して、「母の子達」に対して、今更罪滅ぼしなんてものは出来ないかも知れない。だから小生は、小生の出来る範囲内でしてあげられる事をやろうと決めた。それが、此の世における、小生の「仕事」だから。「母」の為、「母」の中で生きる自然界の子供達~生物達~の為、……俺の前世である「彼」の為、「彼」の「仲間」、「仲間達」、そして、「番」である、彼女の為…………。


 ──失わないと、気付く事が出来やしない、──




被疑者名:柳・グレタ・野操(リュウ・グレタ・ヤソウ)(二十六歳、スウェーデンと在日台湾人のハーフ、気功セラピスト、空道及びクラヴ・マガ及び詠春拳の師範代)


狙撃者名(上級国民の被害者):下 兵平(シモ ヘイヘイ)警部補


死亡者:便利、贅沢、恩恵が当たり前過ぎて平和ボケに徹してしまった、"Mottainai"と諸外国から批判されつつ化石賞を受賞した先進国の民の方々(下警部補を除く、上級国民の被害者達及び奴隷達も含む)。及び、被疑者の柳・グレタ・野操


以上。




「──いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「一人です。予約をしていた、想人~Thought~と申します」

「想人様、お待ちしておりました。お煙草は吸われますか?」

「いえ、吸いません」

「かしこまりました。では、席の方へご案内致します」

 とある老舗の洋食店。スタッフの方の案内でカウンターの禁煙席へと着席すると、私はカバのボトル一本と料理を一品注文した。


 暫くして、カバに舌鼓を打っている私の元に、注文していた料理が届く。

「……お待たせ致しました。此方、テナガエビのクリームコロッケで御座います」

「…ああ、有り難う御座います。……凄く、美味しそうですね。色とりどりのサラダも添えられていて、とても良い香りだ」

「有り難う御座います。本日の限定メニューとなっております」

「そうなんですね…」

「…では、どうぞごゆっくりと。……」

 一礼をし去ってゆくスタッフに会釈をした私は、目を閉じ、手を合わせた。

「……頂きます。…………ああ、凄く、美味しい……」

 何と表現すれば良いのだろう。あまりにも美味し過ぎて、言葉が浮かばない。コロッケ、サラダ、カバ……と、ローテーションに手と口が止まらない。

「……美味しい。実に、美味しい。……しかし、何なんだ、あの場違いの連中は?」

 私の席から少し離れたテーブル席に、二組の大学生のカップルがワイワイガヤガヤと楽しそうにハンバーグを食べていた。そのハンバーグのディッシュには四、五センチに切られたパセリが一つ添えられており、その四人の内一人の若造が、パセリをつまみ上げて、こう言った。

「…てかさ、パセリなんて飾り以外の何ものでもないし、食う必要なくね?てか野菜自体不味いし、そんなもん食べたら余計体に悪いっての。なぁ。…て言う事で、今から罰ゲームをしよう!ジャンケンして負けた奴が、パセリを食べるってやつ!」

 はぁあ!?何それ!?などと返しながらも、四人はジャンケンを始めた。そうして負けたのは、言い出しっぺの若造だった。

「……チッ、負けちまった。俺かよ。……仕方ねぇ、負けは負けだ。男らしく、潔く、いくぜっ!…………うぅっっ、まずっ、まず…………ウゥェエエエエ!!!」

 パセリを吐き出した若造。それを見て「うわぁーー!きったねぇえーーー!!!」などとほざき乍らゲラゲラと厚顔無恥にはしゃぐ他の三名。

「…………」

 私は、彼等に呪いの念を送ったのだった(此処は現実世界では無いからこうして作中の私は特殊能力が使えたりもするのだ。此れは所謂、『表現の自由』というものである)。


(……料理の作り手様と、そして我等人間共の為に人間の手によって犠牲にさせられた全ての食材~美しき自然の中で育まれてきた尊貴なる命達~の恩恵に対する感謝の気持ちが無い者達に、生きる資格など無い。消えるが良い。栄養失調になるが良い。寧ろ、食~命~の概念を蔑ろにする愚者は、いっその事その概念さえを拒み餓死するが良い。金を払いさえすれば、金さえありゃ、何をしても許されると思っている、『お客様は神様です』などとぬかしている糞莫迦腐れ外道共は、……フッ、死ね。…………そして、…………ダック、…………すまない。僕のエゴイズムの所為で、君は殺されたんだ。『欲』に支配された僕によって、…。…でも、君を産んでくれた君の家族と、あの自然界に、心から、感謝させて欲しい。…せめて。いくら感謝した所で、手を合わせた所で、君が生き返る訳では無いし、君が恐怖の中で命を落とした事実が消される訳でも無いのだけれども、どうか涅槃で安らかに眠って欲しいと、そう切に願っている。こういうのが勝手であるのは分かっているのだけれども、僕にはこうする事しか出来ないんだ。……御免なさい。でも実際に、僕の命に君の命が吹き込まれた事に、この上ない幸福を今感じているんだ。本当に、有り難う。ダック。そして、ダック以外の、全ての命達──。────唯だ、もし、君が、君達が、僕の事を恨んでいるのなら、決して消える事が出来ないぐらいの強い恨みを、この『強くなれない僕』に抱いているのなら、────)


"……こんな私なんかの為に、有り難う御座います。あなた方の体は、微塵も残さず、完食完飲させて頂きました。御馳走様でした。…………御免なさい"

 今一度、私は手を合わせ黙祷した。


 私が呪いの念を送ったお陰で、バカップルの四匹は店を出た数分後に交通事故で命を落としてくれたのだった(現実世界で不可能な分、こうしてフィクション世界でヴァンダル達をブリングダウンし捲っている私。って蛭○能収か俺は!)。




 ~後書き~

 

 ──いくら、過去ち(あやまち)を反省した所で、悔やみ倒して自傷行為に逃げた所で、「罪滅ぼし」なんてものは、決して成立などしません──


 この小説を読む存在と、そしてこの小説を描いた存在。其れは、言う迄もありません。……私達人間です。碌に読書をした事が無く文章もそんなに上手いとは思っていない小生ですが(と言うより寧ろ読書した事ない云々を考える概念自体がそもそも下らないのかも知れませんが)、そんな小生が描いたこの作品、お読みになってあなた様はどう思い感じましたでしょうか?

 此の世の中には、数多の哲学書~則ちメッセージ作品が昔から現在まで産み出され続け息づいています。しかし、悲しくも残念な事に、「ヒトだけが持っている物」則ち「エゴイズム」は、完全に滅んではいません。それどころか下手すれば、気付かぬ内に跋扈を強めているかも知れません。……何故なのでしょう?善悪の概念の均衡を保つ為、とでも…?エゴイズムという奴を一掃出来る術を知らない・能力を持っていない故、こうして文章を綴る事しか出来ない脆弱な存在の小生。…遺憾だ。…しかし、弱いからと言って、何もしないのは単なる愚の骨頂でしかありません。弱いなら弱いなりに、無能なら無能なりに、己で出来る事をやっていかなければなりません。さすれば、自分にしか出来ない事~則ち此の世での小生の「役割」「目的」が、発生して来るかも知れませんから。…と、小生はその様に思っています。何処かにあるかも知れない、小生が小生としてこの時この場所で生きている、理由……。

 

 今は、混沌の中で思考し倦ね乍ら、自分のその希望を信じて、…………。

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