第2話

 屋上には何人か散歩をしに来ていたらしい。でも同世代の子は見かけなかった。

 ここの病院は根本的な治療法が見つからない病気の患者さんたちが全国から集まってる。

 同じ病気を闘病している子で秋田県の山奥から入院したって聞いたときはびっくりしてしまった。

 青空と白い雲がずっと変わらない風景を、少しだけ毎日変えてくれる。

 そのとき、ちょうどスマホに連絡が来た。

 一応、連絡用としてスマホを持っているけど、入院してからはあんまり使わなくなったから……正直びっくりしてしまった。

『そっち、志望校は決めた?』

 悠也からのLINEだったけど、その話題には答えられない。

 入学していた高校へ休学の届けを出していたけど、両親の提案で通信制の高校に編入をした。いまは勉強するのは体調が良いときにやっているため、悠也との授業ペースは一年ほどの差があると思う。

 でも、体調が良い悠也の授業ペースに追いつけるときもあるの。

『まだ決めてない、悠也は美大に内部進学するの?』

 と、送信した。

 ずっと前に高校生活は送れなくなった。

 そのときから、病院で闘病生活を送っていた。

 ここ最近は体調もだんだんと悪くなってきていて、治療はできる限りのことをしてくれているため、少しずつだけど病気の進行が遅くなっていた。

 この病気はまだ症例が少なく、未成年に多く症例が出るという。

 母さんたちの世代が同い年の頃は全くなかった病気で、ここ十年で最初の症例が出てきたという。

 自覚症状はほとんどなくて発見したときには、もう体全体が病に侵されていることがほとんどなんだ。

 わたしはまだ早期で発見できたから、幸運なことだというらしい。

「いつまで生きられるかな?」

 自分なりに病気のことを調べたことがあった。知っておいた方がいいってことで、こっそり調べていた。

 生きられる確率は年齢を重ねるごとに低くなるんだ。十代で発症した場合、十八歳……成人できるかは五分五分だという。

 面会が入っていた。

 いつもは母さんとかが来ることが多いけど……今日は来る人が違った。



結希ゆきちゃん! 元気そうで何より」

陽菜乃ひなのおばさん。お久しぶりです」

 陽菜乃おばさんは悠也の母さんで、人気バンド Sky Blue and Summer のボーカリストでもあるの。

 悠也には父さんがいない。

 生まれる直前に病気で亡くなっていて、彼を女手ひとつで育てている陽菜乃おばさんはとてもすごい。

「陽菜乃おばさん。今日はすみません」

「いいの、ハル姉がここに勤めてるのよ。さっきあいさつをしてきた」

 陽菜乃おばさんがハル姉と呼ぶのは、悠也の父さんのお姉さん……父方の伯母さんにあたる人で、ここの病院の小児科医として働いているんだ。

 小児科医だったけど、専門外のこっち来ることがあったの。

 わたしは陽菜乃おばさんに伝えたいことがあった。

「悠也には……入院していること、話してくれませんか? もしかしたら、言うタイミングがないかもしれないので」

 それを聞いた彼女はびっくりした表情だった。いままで彼に話すことは全くなかったからだった。

「え……いいの? 悠也に伝えても」

「病気の治療で、一時退院もたいぶ先になると思うので」

 まだ病気の症状が本格的に出ているわけではなくて、いつか出るかもしれないっていう恐怖があるんだ。

 悠也に会いたかったけど、それはちょっと先にしようと思った。

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