第1話

 起きると、わたしは天井に手を向けた。

 嫌な気分と心臓がバクバクと激しく波打っていくのを感じていた。

「夢……じゃなかった。もう……嫌だ」

 耳元からは心電図のアラームの音、看護師の声がカーテン越しに聞こえてくるのがわかった。

 もう……入院して、二年目になるんだ。

 そんな気持ちでベッドからゆっくりと起き上がっていく。

 高校生になったすぐの健康診断で、採血をしたときに大きめの病院で検査をするようにと言われた。

 両親も最初は再検査はすぐに終わるって言ったけど、それは絶望へと変わってしまった。

 医師が冷静な声で告げたのは、わたしは病魔におかされていたこと。それもいま現在では画期的な治療薬や方法もない難病ということだった。

 ほんとに言われたとには信じられないって、両親が医師に話していたことを聞いていた。

 正直な話、声も言葉も出てこなかった。そしてわたしの高校生活は一転した。

 ほぼ同時に休学と入院をしていたから、ほとんど高校の友だちはいなかった。

 せっかく憧れの高校に入学して、とても楽しい高校生活を送ることができるかもしれないって思ったのにって、思った。

 中学時代の友だちとは連絡を取っていたけど、入院していることを教えたのは誰もいなかった。

「大野さん、おはようございます」

「あ……武田さん」

 看護師の武田さんは一番年の近い人で、とても明るい声で話してくれるんだ。

 たまに話したりもするんだ。




 わたしが入院しているのはこの辺でも大きな大学病院。地元とは近所だったから、入院したときは寂しくはなかった。

 入院先が遠く離れた場所ではなくて、ここへ来たときはホッとした。

 いつ退院するかはまだ未定だ。

「あ、この曲」

 スマホのイヤホンから聞こえてきたのは、人気バンドSky Blue and Summerのデビュー曲『希望の道標』だった。

 ボーカリストの橋元はしもと陽菜乃ひなのさんの歌声が、とても素敵でよく何回も聞いている。

 実はボーカリストの彼女は悠也の母さん。高校時代にバンドを結成して、デビューに至ると世間のファンのみんなは知っている。

 でもほんとは五人のバンドで、現在は一人減って四人で活動中だ。

 いまはメンバーはボーカル兼ギタリストの陽菜乃おばさん、ギタリストの笹原ささはら咲空さらさん、キーボードの竹中たけなか真湖まこさん、ドラマーの相馬そうま冬樹ふゆきさんの四人。

 高校時代からデビューして数ヶ月までは、メンバーがもう一人いたんだ。

 それがベーシストの橋元悠真ゆうまさん――幼なじみの悠也ゆうやの父さんだった。

 悠也は父さんのことをテレビやCDでしか見たことがない。生まれる直前に病死して、陽菜乃おばさんがシングルマザーで育てている。

 でも悠也はそのことを、他の同級生には話していない、本人はめんどくさいらしいって言ってたな。

「俺はどっちかというと、父さん似らしいしんだよ。芸術系は特に遺伝が強いっぽい」

 悠也は音楽に関しては好きみたい、でも昔から、絵を描くのも好きだった。

 そして中学に入部したのは、合唱部ではなくて美術部だった。

 その描く絵もレベルが違う。

 昔から風景画を好んでいたのに、中学からは写実的な絵画も描くことが多くなっていて、一瞬写真を見たような感じだった。

 わたしは中学から合唱部に入部していたけど、入院してからは自主トレーニングをしたりもしている。

 わたしは少しだけ、屋上に行ってみることにした。

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