第16話 偽装計画《始動》


 そしてエルフ達に役割としてそれぞれに職種を与えて必要な道具を用意した彰吾は、自室に戻ってゆっくりしていると昨日の偽装に関して詳しく指示を出し終わっていない事を思い出した。


「あぁ~どうするか、一応あの場所で死んだ人間達の原因は偽装したけど…発見されないと意味ないの忘れてたな」


 正確に言うと彰吾の忘れていたのはバレた時のための偽装ではあったが、発見してもらえないと意味が無いと言う事だった。いくら偽装しても結局見つけてもらえなければエルフ達は捕まらずに逃走を許してしまったと判断される可能性が高く、あの襲撃犯たちが組織立って動いていた場合に他の者達が探索に来てしまうかもしれない。

 そうすれば偽装した痕跡を見つけるかもしれないが、風や他の動物に痕跡が荒らされてしまえば最悪消えてしまうのだ。


 さすがにそうなると相手の組織の規模も分からないので魔王城まで発見される可能性がごくわずかな可能性として存在する。

 もし見つかったところで彰吾の力は絶大だし魔王城の防衛機構をフル活用すれば撃退は可能だ。しかし一度撃退してもその次はより大規模で責められる危険が高く、できるなら早期に発見してもらうのが一番望んでいた結果だった。


「最悪でも見つからなくてもいいから、なんか全滅したって判断してもらわないとだし…めんどくさいけどやるしかないかな…はぁ」


 本当にやりたくなさそうに彰吾は重々しく溜息を吐くと立ち上がって準備に動き出した。とは言っても、ある程度は元々用意してあった偽装作戦が使えるので追加で少し手を加えるだけで済むので時間はかからなかった。


「…このくらいでいいか。後は実行すればお~わり~♪寝よう…」


 そして準備を完了した彰吾は疲れからか少しハイテンションになりかけたが、すぐに脱力して最後の支持をどこかに送ると寝室に向かって寝間着になると一瞬で眠りについた。


 そんな安眠をしている彰吾に指示を出されたは施された細工を煌めかせ大空を舞っていた。視界には夜の闇に包まれ頭上には満天の星と地球の月とは圧倒的に違う大きな月が一つあった。

 ただ幻想的にも思える光景にもは見る事なく遠くを見つめ、ただ指示を実行するために大地に見える小さな光を目指して飛行する。


 もっとも距離が離れていたことに加えて指示でも『明け方』と言われていた事もあり、しばらくは見えない場所で待機して日が昇ると同時に光って居た場所…人の住む街へと向かった。


――――――――――――――――――――――――――


 その街は人の収める国の端に近い辺境と言われるような場所にある街だった。

 しかし近くには魔物も多くいる森にが有って木材・薬草・魔物の素材と上品質な素材を大量に手に入ると言う事で栄えていた。

 なので夜になっても帰って来た冒険者や商人に職人達で街は賑わっていた。


 なによりも魔物も多いだけに防衛には力が入っていて防壁の上には魔道具のバリスタや魔法使い達が常に万全の防衛が敷かれていた。

 しかし鉄壁に見えた防壁も安心しきっていた人類の信頼も、すべて今日この時に脆くも崩れ去る事になる。


「今日は魔物の襲撃はなさそうだな」


「あぁ、だが油断するなよ?この前に森からなにか爆発音がしたらしい」


「でも、音の発生源はかなり遠くだから気にする必要はないって話じゃなかったか?」


「それでも念のために警戒を厳にするように指示が出てただろ。もしサボったら言及確実だぞ…」


 そして警備にあたっていた魔法使い達は今日も変わらず安全と信じて、監視の仕事に当たりながらも雑談に興じていた。この時話されていた爆発は彰吾の偽装作戦の1つとして発見してもらうために起こしたのだが、場所が町から離れたところだったのが原因でいまだに調査すらされていなかった。

 ゆえに爆発が原因で起こる魔物の襲撃にばかり強く警戒をしていた。


 だからこそ魔法使いたちは街の誰よりも早く気が付く事ができた。


「おい、あれ…なんだ?」


「どれだよ?」


「さっき言っていた森の上だよ!」


「⁉」


 同僚の言葉に反応した魔法使いもようやく何かを発見したようで慌ててþ防壁から身を乗り出してまで確認した。

 それは先ほどまで話していた森の方向から大きな影が町目掛けて真っ直ぐに飛んでくる光景だった。


「お前は急いで他の奴らにも伝えてくれ!俺は寝ている奴らを叩き起こしに行く!」


「わかった‼こっちも急いで迎撃の用意をするが、そっちも出来る限り急いでくれ」


「わかってる」


 お互いに決死の表情を浮かべてそれぞれにやる事を全うするために分かれて走り出した。

 その光景を森の上空を飛んでいた者も気が付いていたが、あえて人間達の準備が整うようにゆっくりと時間を掛けて移動していた。


『………』


 なぜなら今回の目的は『森には何かいると思わせ、偽装してある襲撃場所を発見してもらう』そのためだけに行う襲撃なのだ。

 偽装場所には人間の形をした消し炭の他にもエルフに見える物もいくつか用意してあるので、発見してもらえれば何があったか勘違いしてもらえるだろうと言う考えだった。


 しかし何時まで経っても人が来ないからこその強引な手段にでたのだ。

 そのため多くの人に脅威があると認識してもらい討伐でも調査隊でもいいから人が来るしかない状況を作り出すため、人が集まるのを空に浮かぶ今回の襲撃における主役『特製ドラゴン人形』は待っていた。


 ゆっくりと向かっていると忙しなく動く人影の中に偉そうに指示を出す者も現れ、主である彰吾の指示の人間の集まったタイミングだと判断して速度を上げた。


「来たぞ‼」


「バリスタ急げ!」


「姿確認!推定『竜種』しかも成竜!」


「なに!?だったら急いで毒とドラゴンスレイヤーの武具を備蓄分取ってこい‼」


「はっ!」


 姿がはっきりと見えるようになると人間達は迅速に正体を分析し、いままでにも数年ごとではあったが竜が攻めてきたことがあったのか慌ただしくも的確に動いていた。それを上空に浮かぶドラゴン人形は無感情に見ていた。


 そしてついに攻撃可能な距離まで近づいたことで人間達からの攻撃が開始された。

 今回の目的は偽装を発見してもらうための襲撃ではあったが彰吾にはもう一つの目的として『現在の人類の戦闘力の確認』もあって、最初はドラゴン人形には最初は様子見をするように指示が出されていた。


 なので自分に向けられる魔道具のバリスタによる攻撃に対しても反撃はせず、無防備に受けた。


 ドゴォォォォォ‼


 魔道具のバリスタは通常の物よりも勢いや射程はもちろんだったが、放つ物自体もが魔法の付与を施された物だった。その効果によりドラゴン人形に放たれた杭が当たった瞬間に空を覆う程の爆発を起こした。

 普通に見たならこれで倒せたと思いそうなものだが人間達は油断することなく二射目の準備をしていた。


「決して油断するな‼竜種はこの程度の攻撃では死なないぞ!」


 先ほどから指示出している指揮官らしき人間は過去の経験から忠告を周囲へ伝える。それを聞いた者は誰一人として無視するような者はおらず全員が真剣な表情を浮かべて上空を見つめていた。

 そして広がっていた煙からは無傷のドラゴン人形が姿を現した。


「一斉攻撃開始‼」


 同時に指揮官の指示に従って準備していた魔法使いたちは自身の最大級の攻撃魔法を使用して、それ以外の者達もバリスタなどで攻撃を開始した。

 あまりの攻撃にまたしてもドラゴン人形の姿は煙によって見えなくなってしまったが、それでも爆発音がするで攻撃が当たっていると判断して人間達は攻撃を止めなかった。

 しばらくの間に渡って続いた猛攻が止む。


 指揮官はこれだけの猛攻をしてもまだ警戒していたが、周囲の者達からは完全に勝利したような空気が流れた。

 だが周囲の期待を裏切るように煙が晴れた時に出て来たのは、少し汚れが付いた以外傷1つないドラゴン人形の姿だった。


 もちろん人間達の攻撃も普通の竜種であれば殺せはしなくても重症を負わせることはできるだけの威力を誇っていた。

 しかし今目の前に居るのは世界で最初の魔王である彰吾が全力を出して創り出した人形の一体なのだ。その体は並大抵の攻撃では傷1つ負わず、少しの傷なら時間経過と共に修復する事ができた。


 ただ魔王の存在すらまだ知らない人間達は目の前のあまりの光景に動きを止めてしまい、その瞬間にドラゴン人形は『人間からの攻撃は終わった』と判断して無抵抗でいることを止め口元に魔力を集め始めた。


「っ⁉お前達!惚けていないで目の前を見ろ‼攻撃が来るぞっ」


 さすがと言うべきか最初から警戒を解いていなかった指揮官は瞬時にドラゴンの様子の変化を感じ取って防御の指示を出す。

 ただ一度混乱した人間が瞬時に都合良く冷静になれるはずもなく、なんとか実戦経験の豊富な者が正気に戻って周囲の者達を守るために結界を張るのが精一杯だった。


『……』


 お互いを守ろうとする人間達の姿にも人形であるドラゴン人形は無感情に、無慈悲に攻撃を放った。

 ドラゴンの代名詞とも言えるようなブレスによる攻撃だが、別に全滅させるつもりはないので威力としてはかなり弱めていた。だが弱めたと言っても直撃すれば防壁は吹き飛ばすほどの威力は込められていて、その上に居る人間達にとっては絶望そのもののように映っていた。


 なにせブレスの前では守るために張った結界は脆い木の板とたいした違いがない事を本能的に理解してしまったからだ。

 そしてブレスが防壁に衝突しようとした時、急に防壁に沿うようにして街全体を覆うように半透明な光の膜が降りて来た。


 光の膜に衝突したブレスは受け止められて防壁まで届かず、しばらく拮抗していたが光の膜によってブレスは完全に防がれてしまった。


「どうやら間に合ったようだな…」


「こ、これって守護結界ですか⁉」


「あぁ…本来は使う予定ではなかったが、念のために使用の許可を申請しておいた」


 指揮官は安心したようにどこか脱力した様子でそう言った。

 なぜなら今こうして自分達を守ってくれている結界が簡単に使えるようなものではない事をよく理解しているからだ。


 『守護結界』この言葉だけだと結界すべてが当てはまりそうだが、今回のように一つの都市を丸ごと覆って守る結界は強度が圧倒的に高くそのために『守護』と付けるのは都市1つ守れる物のみと言う暗黙のルールが出来ていた。

 ただ簡単な話として都市1つを丸ごと守るような結界を簡単に発動できるはずもなく、一度発動するのに必要な魔力は熟練した魔法使い30人は必要と言われていたが緊急時に魔法使いを30人も使えなくするのはリスクしかない。


 そのために使用されるのが魔物から採取される魔石、しかも10㎝以上の物が一度の発動に200以上を消費する必要があった。ちなみに簡単な目安として言うと魔石は普通に出回っている物が3~5㎝で10㎝以上の物は20個に1つと言う程度で200個もそろえるとなると一財産だった。

 だからこそ指揮官も使いたくはなかったようだが今回は緊急事態として仕方なく使用した。


「よし、今のうちに立て直すぞ‼」


 安全が確保できたと判断した指揮官は瞬時に他の者達へと指示を出して反撃に出ようとした。

 しかしドラゴン人形もすでに無抵抗を止める判断をしている以上、のんびりと相手の攻撃準備が整うのを待つような事はしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る