第41話

 その時突然閃いて、写真!と声が出た。


 出て行った秋穂は桃香の写真を消したのだろうか。どんな様子で写っているかわからない桃香の写真。もし写真を消さずに持ち続けて、いつかどこかに流されでもしたら・・・誰かの目に晒されることにでもなったら・・・。




 口の中でジャラジャラと残る嚙み砕いたパンの耳。小さく漏れる唸り。秋穂のいた空間から逸らすことのできない視線。




 何も守れていなかった。守れた気になっていただけで私は秋穂を招き入れたこの手で家庭と桃香の人生を荒らした。


 秋穂との別れを皮切りに荒野へ投げ出され、そこから続く業火に囲まれた破滅への道の始まりに私と桃香は立たされたのだ。道の先はきっと急な下り坂が続いているに違いない。今の私には、坂は急峻すぎて目の前にはまるで何も存在していないかのように見えている。


 だが、ある。


 逸れることも戻ることもできない地獄への一本道。


 消えたあの子がこれから辿る道と私たちの道、どちらが険しいのかしら・・・。


 私は屑が落ちることも気にせず残りのパンの耳を食いちぎった。

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灰色の空 千秋静 @chiaki-s

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