第36話

 いつか『その日』は来てしまうのだろうと思っていた。


 私が帰宅した夜に、秋穂と二人でテーブルを挟んで向かい合い、別れるにあたって部屋の中にある多くはない家財道具の分配やそれぞれの行先などを話し合う場面を私は何度も想像していた。


 秋穂も私ほど深刻ではないにしろ、少なからず『その日』を想像しているものだろうと考えていた。安直な出会いであったが、時を重ねていく程に家財の処理も互いの人生の行き先も無関心ではいられないはずだと勝手に私は思い込んでいた。


 だが私の意に反して『その日』は来なかった。


 先延ばしにして避けていたわけではない。話し合いの機会が訪れることなく秋穂は突然消えてしまったのだ。



 

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