第46話 晩御飯

俺が食堂に現れたのは、もうすでにみんなの食事が終わる頃。


「お師匠様ー。」


前の方でジュリが手を振っている。

俺はまだ少し眠い…。

ふらふらしながらも、ジュリの下に向かった。


「遅かったですねお師匠様。」


「うん、ごめん。

寝過ごした。

でもまだ眠いんだ……。」


「それならまだ休まれますか?」


「大丈夫、赤ぴょん食べる…。」


目をこすりながらジュリにそう言う。


「それは残念でしたね。

あれは売れ行きが良くて、既に食べ尽くされました。

でもまだまだ美味しいのが残っていますよ。」


そうか、他に美味しいものがあるのか…。

じゃっ!無い‼

赤ぴょん、俺は赤ぴょんが食べたかったんだ。

もちろん他の美味しいものも食べたいけど。

俺は自然と目が潤んできた。


「うっ、うっ、うぅ~~~。」


「お、お師匠様。

嘘です、ちゃんとお師匠様の分は取ってあります。

申し訳ありません。」


「えっ、取って置いてくれたの?」


「はい、無くなる前に特別な奴を確保しておきました。」


やっぱりジュリっていい奴だよな。

でも、俺に嘘ついたのは別問題だからな。


「他の美味しいものも欲しい。」


「はいはい、分かりました。」


そう言って席を立ったジュリは、すぐに両手いっぱいに食料を持って来てくれた。


「お師匠様には、特別に赤ぴょんの塩焼きです。

他の方は、シチューでした。」


そうか、悪いな俺ばっかり。

赤ぴょんは、こうやってワイルドにがっついた方がうまいんだ。

まぁ、俺の持論だけど。


ジュリはニコニコ笑いながら、俺が赤ぴょんにかぶりつく姿を見ている。


「……ジュリ、お前も食うか?」


俺は食べていた骨付き赤ぴょんを差し出す。


「えっ、そんな…間接キッ……いえ、いただきます。」


そんなに狼狽えて、おかしな奴だな。

無理やり食えとは言ってないぞ。

それでも俺から肉を受け取ったジュリは、

カプリと肉に食いつく。

何か小動物みたいで凄く可愛い。


「よしよし。」


俺は思わず、ジュリの頭をいい子いい子する。

すまん、子供扱いだったな。

でも、ジュリは満足そうに微笑んだ。

うん、可愛い。


でも、俺はそんなに甘く無いからな。

肉は一口しか分けてあげない。

だからすぐに返してもらった。

そして俺は再び肉に集中する。

そんな俺を、ジュリはまた微笑みながら見ていた。


さて、長い昼寝をしたし、お腹もいっぱいだ。

つまり、また眠く……。


「お師匠様、あなたが休んでいる間の報告やら何やら有りますからね。

しばらくは起きていれますよね。」


「分かったよ…。

でもジュリって、仕事尽くめでも大丈夫ってタフだよな。」


「大人ですからね。」


「悪かったな子供で。

でも、ジュリは大人なのか。

老人じゃないのか?」


「失礼な。

まだまだ寿命は尽きません。

せめてあなたの一生に付き合わせて下さい。」


つまり、俺が死ぬまで付き纏う気、満々なんだな。

まあ、いいか。


さて、仕事をしよう。


「ジュリがここに居るって事は、そちらの作業は一時中断か。」


「いえいえ、拠点となる場所は確保し、結界を張って来ました。

今はそこで技術者達が話し合いをしています。

私は一応専門外ですから少し抜け出してきたところです。」


「お前がこっちに来ているとそいつらが困るだろう。」


「転移が出来るのは私達だけじゃ有りませんからね。

私には重要な要件が有りましたので、その間に問題が起こりましたら

同行した魔術師が、何かしらのアクションを起こしますよ。」


「そっか、お前も急がしいよな、ごめん。

それで、その用事は済んだのか?」


結局は俺の祖国の為にジュリは働いてくれている。

申し訳ない。


「はい、先ほど済みました。

赤ぴょんは十分堪能させていただきましたよ。」


もしかしてお前の重要な要件て、

赤ぴょんをおかずにご飯を食べる事か?


「さっさと仕事しろよ!」


俺もさっきまでお昼寝してたけどさ、

赤ぴょんも堪能したけどさ。


ジュリは仕事場に帰ったから、俺も仕事をするか。


「ではヴィクトリア様、今までの決定事項のご報告を。」


「それを報告する場所は俺じゃないだろう?

もっと中枢に報告しろよ。」


それは既に済んでいて、了承済みだそうだ。

それなら俺を通さなくてもいいんじゃないか?


「いえ、ヴィクトリア様が最終的に了承していただければ、

それは間違い無いでしょうし。」


そんな事無いよ。

俺にだって間違える事は沢山あるよ。

ジュリにいつも怒られてるし。

そうだ、最終報告先はジュリの方に頼む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る