第3話 我儘な教祖様

「で、想像するに父親の行為が、

しだいにエスカレートして行ったのでは無いのですか?」


「当たり、

まぁ7年近く育ててもらった恩もあるし、

少しぐらいなら協力しようと思ったんだが、

そのうち金の無い人には、重病人でも話すら聞かない。

金持ちからは大した病状で無くても、高額な金を取って治療をする。

挙句の果てに、俺に死人を生き返らせろときたもんだ。」


「なんと。」


「絶対禁忌魔法だぞ、それを金はもう貰ったからやるしかないと言いやがる。」


「ちょ、ちょっと待って下さい‥‥。

もしかして、できるのですか?それ‥‥‥。」


「あー、知らなかったっけ?」


「知りませんよ!私は聞いてません。

そんな事ができるのですか?

すごい!すごいです!!」


言わなきゃ良かった。


「お師匠様!!」


「だめだ!」


「え?」


「だめだ、お前が言いたい事は分かっている。

だが、こればかりは譲れない。」


「でも、お師匠様は使えるのでしょう?

でしたら私に教えてくれても‥‥。」


「俺が覚えたのは偶然だ。

偶然その場に出くわしてしまったからだよ。」


「‥‥‥。」


「お前、今うらやましいと思っただろう。」


「いえいえそんな。」


お前のその笑顔、嘘っぽいぞ。


「とにかくだめだ、

この魔法はかなりのデメリットが双方にかかってくるんだ。」


「デメリットですか?」


「ああ、かけられた側は、かなりの確率で、アンデットになる。

成功するほうが稀なんだ。

考えてみろ、

そんなめちゃくちゃな魔法が有る事すらおかしいと思わないか。」


「そ、それはそうですが、

しかし、もし背に腹は代えられない状態であった時であれば‥‥。」


「何を言ってるんだお前は、こんな魔法、倫理に反するだろう。

それに、魔法の跳ね返りで、かけた側も同じ確率でアンデットになってしまう。

そんなものを、お前に教えるはずないだろう。」


「お‥‥、お師匠様。

お師匠様はそれほどまでに私のことを‥‥。」


な、なんだ、そのウルウル、キラキラした瞳は、そんな目で俺を見るな。

そんな目をしても、絶対に何が有っても、お前にそれを教える気はないぞ。


「とにかくだ、親父はそんな魔法が実際あると知らなかった筈だ、

それなのに生き返らせる事を簡単に引き受け、俺に強いるなどもう面倒みきれん。金は十分稼がせてやったはずだから、とっとと家を出てきた。」


「そうですよ、

そこまでお師匠様が面倒見る必要はありません。」


「だがな、今家族がどういう境遇になっているかを考えるとなぁ。

なんせ、その注文を出してきたのは、王家の誰かだった筈なんだ。」


「お師匠様、いい加減になさいませ。

お師匠様が情に厚いのは存じております。

でも、そんなだから人に付け込まれるのですよ。

今までどれほど利用されてきたのか、

私の憶えているだけでも、両手の指だけでは収まらないのですよ。」


そう、ジュリは幾度となく俺が人に利用されるのを見てきた、

そして成長するに従がって、俺にアドバイスするようになり、

そのうち、俺はジュリに何度も助けられるようになった。

あの頃は、まるでジュリの方が俺の保護者の様だったな。


「あの糞親父はどうでもいいんだ。ただ、いつも俺を庇ってくれた母や

可愛がってくれた兄上の事が気になってな。」


「しかたありませんよ。

もし、どうしてもと言うのであれば私が動きましょう。」


「いや、お前の手を煩わせるもない、

だが近いうちに、一度様子を見に行ってこようと思っている。」


「しかしまたその糞、いえ、お父上に見つかりでもしたら。」


「まあ大丈夫だろう、こちらも一応手を打ってある。」


そう言って俺はニッコリ笑った。


「親父にはリアリティハート(心で思った考えが、口から出てしまう魔法)をかけてきた。

つまり王の前だろうが何だろうが、親父はしょうもない言葉を吐き続ける筈だ。

最悪だろう?

そんな奴が、無事でいる筈がない。

今頃は、誰かれ構わず罵詈雑言を吐きまくり、

牢にでもいるんじゃないか?」


下手すりゃ処刑されているかも‥‥。

やりすぎたかな。

しかし、そうやっていまだに俺を気遣ってくれるなんて

本当にジュリは変わっていない。

いや、別れた時以上に大人になった。


「そういえば大分時間が経ってしまったな。

お前は帰らなくて大丈夫なのか?」


「は?」


「は?って教会へ帰らなくてもいいのか?

お前は教祖様なんだろう?」


「何と冷たい、私にとってお師匠様が優先順位第一位。

それに比べて教祖などチャンチャラおかしい。

風の前の塵に等しいです。」


教祖とは思えない言葉をジュリは言い捨てた。


「ひどい言い方だな。民が泣くぞ。」


「私にとって、何百何千何万の民よりお師匠様です!

何よりこんなに私を退屈させない方はいません!」


俺は暇つぶしの道具じゃないぞー。


「とにかく帰れ。

皆心配している筈だ。」


「いやです!そんな事言って

お師匠様はさっさと何処かに行ってしまう気なんでしょ。」


はーっとため息をひとつ吐きジュリに言う。


「分かった、俺も付いて行くから。

とにかく皆に迷惑をかけるな。」


「本当ですか?お師匠様。

では行きましょう。すぐ行きましょう。」


そう言うとジュリは俺の手を握り転移魔法を唱えた。

おいジュリ、前言撤回。

お前幾つになっても聞き分けのない子供みたいだぞ。

そう思いながら、また一つため息を吐いた。

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