04

「じゃあ兎さん、一緒に行きましょう。」

「はあ?なんでですか。」

「え。」

誘ってみたら本気で不思議そうにされてしまった。何よりも不快そうだ。

それを狐が後ろで笑う。

「カナコちゃん、兎は危ないぜ。」

「えぇ?」

多少トゲはあるものの、神様の使いなのだし、危ないという事もないだろう。

しかし対する兎さんの返答は意外な物だった。

「失礼な事言わないで下さい。流石の僕でもこんな未成熟な雑種興味ないですよ。」

「えええ?」

反応に困る私を余所に、兎さんはきっぱりと言い放つ。

「そんな事より、僕は行きません。他の者を連れて行って下さい。」

「どうしてですか?」

「態々僕自ら、何故クソガラスの元へ…。あぁ、考えただけで苛々してきた。」

他の方に頼もうかと考え始めた処で、姫さまがにっこりと兎さんに微笑みかけた。

「でも兎?怪しんでるのは貴方でしょう?確認、お願いね。」

「・・・。解りました。行ってきますよ。」

流石に主の命には逆らわないようで、不承不承肯いた。

「きひひ、イイザマだぜ兎ドノ。」

「煩い。さっさと終わらせますよ、カナコ早く。」

笑う狐さんを一蹴して、すたすたと行ってしまう。

私も慌ててその後ろを追い掛けた。


「あの、そういえば、ご神体がなくなった時、近くに誰も居なかったんですか?」

鴉さんの巣へ向かう道すがら、気になった事を兎さんに聞いてみた。

「そのようですね。比売さまと僕は出かけていたので気付きませんでした。

 本当、使えない奴らだ。」

「お出かけ、するんですね。」

そう問うと兎さんはどこか苦い顔をした。

「湖に氷が張る時期は比売さまの神力が高まりますので。

 高天原へ出張する事があるんです。僕も同行します。」

なるほど。タカマガハラというのが何か解らないけど、とにかく目撃者は居なかったという事らしい。

「他の皆はお留守番なんですね。」

「一緒にしないで下さい。僕はあれらと違って正式な神使ですからね。」

心底不快そうに言う。

「そうなんですか。皆さんお社の関係者だって言ってましたけど…。」

「やつらは比売さまの影響で力を得たただのモノノ怪です。

 自然と怪になるほど長生きしたわけでもない。

 そういう関係で比売さまに従っているだけですよ。」


話をしている間に目的地に到着したようだ。

兎さんは足を止め、一本の大樹を見上げた。

「ここです。僕は木に登るなんて出来ませんから、貴方が行くんですよ。」

「はい。大丈夫です。得意なんですよ。」

冬物コートでかなり動き辛いけど、なんとか登れる。

樹上には烏のものと思しき巣があった。

ビー玉やハンガーなどのガラクタが敷き詰めてある。

「あれ、鴉さんは居ないんですね。」

「鴉はモノノ怪じゃありませんからね。」

「そうなんですね。」

どうやらこの常夜の森に存在できるのは妖の類のみらしい。

「で、どうです?ありますか。」

ガラス瓶の破片なんかはあるが、鏡らしきものは見当たらない。

「いえ、ないみたい…ですけど…」

言いながら、気になる物を見つけた。布片だ。

ヒカリモノでもないし、こんなものも巣材として使うんだと感心する。

「本当ですか?見落としはない?」

「えぇと、はい。」

「じゃあ降りて来て下さい。」


「・・・」

木から降りると、兎さんは嫌そうな表情を浮かべていた。

「血の匂いがしますね。」

「血ですか?…怪我はないと思うんですけど。」

両手を確認すると、確かに少し濡れている。

月明りではよく解らないが、これが血だろうか。

その手を突き出すと、兎さんはあからさまに顔をしかめる。

「近付けないで下さい。一度戻って清めましょう。

 そのままでは比売さまに近付けるワケにいかない。」

首を傾げると、真面目な顔で言い足した。

「血は穢れです。僕にも比売さまにも決して触れないようにお願いしますよ。」

「ごめんなさい…。」

慌てて手を引っ込める。

「鴉さん、怪我してるんでしょうか。」

「知りませんよ。食べ残しかもしれない。」

「あ、なるほど。」

それでも、私は何か引っかかっていた。

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