第31話 キミにキスを、あなたに花束を。

 シャンパンファイトが終わり、そして勝利者インタビューが始まる。


「おっ! なんだなんだぁ~っ、葵が勝っちまいやがったのか? さすが私の娘だな!」


 洋子も会場にいたのだ。


「何よ洋子、今頃来て。来るならもっと早く来なさいよ……ってその隣にいる女の子は誰なの?」


 洋子の隣には智也くらいの年頃の女の子がいた。そして碧に丁寧に会釈をしてくる。


「あぁ~、ちと仕事で遅れてな。それと……コイツは私のだ(笑)」

「はぁ~!!!! 『娘』って何よ! ほんとなの、それっ!?!?」


「いや……嘘だがな(笑)」と洋子はあっさり否定すると、碧は足を踏み鳴らし憤慨ふんがいしながら、「もうどっちなのよ洋子っ!!」と問いただすが、洋子は何食わぬ顔で「さーな♪」とあやふやに答えていた。


 そんな二人を尻目に葵は勝利者インタビューを受けていた。


「デビュー戦でしかもポール・トゥ・ウインのパーフェクト勝利でしたね! おめでとうございます、葵選手。しかも女性なのに凄いですね!」

「ありがとうございます。でもボク本当は……男の娘おとこのこなんですよ♪」

「なんだってー!?」


 その場に集まっていたギャラリーの多くが驚きの表情を見せるが、


「まぁ……嘘なんですけどね。てへりっ♪」


 と茶目っ気で舌を少しだけ出し、冗談交じりに言う。


「え~っとあの、葵選手は『女の子』…………でいいんですよね?」


 冗談とも本気とも取れる葵の答えにインタビュワーは戸惑いながらそう質問した。


「はい! こんなにカワイイ美少女が男の娘おとこのこなわけがないですよ!!」


 自分でカワイイ美少女と自身満々に言う葵だが、実際問題葵はかわいいし、しかも飛びっきりの美少女だ。あと数年もすれば碧さんに負けないくらいの美人さんになるだろう。


「で、では今の気持ちを誰に伝えたいですか?」


 そうインタビュワーの人に聞かれ葵はこう答えた。


「そうですね……いつもボクの傍で支えてくれた恋人に伝えたいですね。実は今日ここに来てるんですけどね♪」


「どいつが恋人だ!」っとどよめき立った。

 そして葵はこちらの方を向きご丁寧に「あの人がボクの恋人なんです♪」と智也が居る場所を指差した。


 葵の指先と周りの視線をロックオンされ、苦笑いするしかない智也。いや顔がかなり引きつっている。だが、葵はお構いなしに「お~い智也ぁ~♪ 愛してる~♪」っとぶんぶん手を振りながらココロも体もピョンピョンしている。さらに一段と周りの空気が冷たくなるのを智也は肌で感じた。


「あの~それで……」


 続きを促すように質問を続けようとする。


「あ、そうでしたね。今の気持ち……ですよね。実はですねその恋人が『願いを言え、優勝したら1つだけ願いを聞いてやる!』っとどこかのドラゴンみたいなこと言ってくれたんですよ。だから是非ボクの願いを叶えてもらいたいと思います♪」


「ほうほうそんな約束が」っと相槌あいづちを打つインタビュワー。「オレそんなこと言った覚えないぞ!?」と智也が思っていると、葵はすーっと息を吸い込み、叫ぶように、


「智也ぁ~っ!! ボクと……ボクと結婚して下さい! これがボクの願いで~す♪」


 葵、一世一代のプロポーズ。しかも大勢の観衆の目の前で。辺りはしーんとする。だが洋子だけは「さすが私の娘だな!がはははっ」っと、どこかの王様の如く笑いながらご満悦のご様子。隣にいた碧はぽかーんと口を開け、状況が上手く理解できない。いやしたくなかった。


(あ、あ、あ、葵のやつ、なんてことをこんな場所で言いやがるんだよ!?)


 智也は混乱していた。

 智也からの返事がなく、葵は先ほど受け取っていた花束を智也目掛け振り投げた。弧を描いた花束はブーケの如く、ぽすっと智也がキャッチした。


「それが今のボクの気持ちで~す♪ 幸せにしてあげるから結婚しようよ! ねぇ~、いいでしょぉ~♪」

「(葵、それは完全に立場逆だろうがっ!!)」


 っと突っ込む間もなく、葵が後ろに下がり助走をつけ、こちら目掛けて飛んできた。


「(ぶっ!ま、マジかよ葵の奴!? いくら表彰台が低いとはいえ、5mくらいはあるポディウムの壇上からこっちに飛びこんでくるなんて!?)」


 いきなりの行動だったので、さすがの智也でも衝撃を吸収できずに、葵と重なるように倒れてしまう。どうにかキャッチできただけでも奇跡と言えよう。


「ちゅ♪」

「なぁっ!? お前っ!?」


 っと葵が智也を押し倒す形で強引にキスをした。


「智也、これでボクたち夫婦だね♪」


 葵は満面の笑み智也の胸に顔を埋めすりすり、だが智也は思考が追いつかない様子。


「ねぇ~今度は智也からしてよぉ~♪ ……してくれないのぉ?」


 などと甘えるようにキスを催促され、「ああ……」と智也からキスをする。

 そして葵はさっきの衝撃で落ちた花束を拾い、智也に差し出しながら、


「ボクと結婚してくれますか?」

 

 再度葵からプロポーズをする。


「俺でよければ。よろしくお願いします」


 今度は智也もちゃんとと葵からのプロポーズを承諾した。辺りから殺意混じりの嫉妬……もとい二人を祝福するかのように拍手がいつまでも鳴り止まなかった。たぶん周りのギャラリー達も自棄になったのだろう。


「智也、これからも、ずっと、ず~っと、ボクの隣で恋人としてまた夫婦として支えてよね♪」



 第1章 『キミにキスを、あなたに花束を。』fin.

 第2章『売れない人気ライトノベル作家と、その担当さんとの恋愛事情と、その結果。』へとつづく

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