第15話 10年ぶりの再会……そして

「あ、いや……大丈夫、大丈夫だ」

「良かったぁ~♪ お兄ちゃんが無事で♪」


 聞きたいことはたくさんある。今の光景、いきなりお兄ちゃんと呼んだ事、昨日の事、そして何かを呟いた瞬間、スイッチを切り替えるよう葵の雰囲気が変わった事、だがそれらをどう聞いていいかわからず、ただただ葵を見つめていた。


「そ、そんなに見つめられると照れるよお兄ちゃん(照)」


 少し頬を赤らめもじもじと照れる葵。


「えっと……そ、その『お兄ちゃん』てのはなんだ?」

「えっ? お兄ちゃんボクのこと忘れちゃったの?」


 やはりどこかで会ったことがあるようだ。でもどこだったか思い出せない。


「まぁ、お兄ちゃんと一緒にいれたのは1ヶ月くらいだもんね。覚えてなくても仕方ないよね」


 少しだけしょんぼり落ち込む葵。なんだかこっちが悪いことをした気分に陥る。そもそも智也には家族はいない。だからお兄ちゃんと呼ぶような弟などいるわけがないのだ。


(だが待てよ……家族?)


 智也の心に少しだけ思い当たることがあった。


「もしかして、朝霧児童養護施設にいた……」

「思い出してくれたんだね! お兄ちゃん♪」


 言い終える前に葵は智也に抱きつく。軽い柔らかい衝撃と、その後からくるふわりとした甘い香りが葵から香る。同じ男でもこうも違うものなのか。


 葵の後ろに手が回るが、それをどうしていいかわからずそのままくうをきる。そんな智也をお構いなく葵はぎゅっと抱きつき背に手を回し、匂いを確かめるようにすりすりしながら智也の胸に顔を埋める。


「う~ん♪ 10年ぶりのお兄ちゃんの匂い。くんくん♪」

「えっ? おい! 匂いなんか嗅ぐんじゃねぇよ!」

「え~っ、なんで? なんで ?だって久しぶりなんだよ♪」


 10年ぶり(?)の再開で興奮する葵。言動が理にかなってない。だがこんな状況でやっぱり覚えていないなどとは、口が裂けても言えない。


「(にしても施設にこんな奴いたか? 確かにオレくらいの年齢の子供ばかりだったが、こんな風にお兄ちゃんと呼ぶほど親しくなった奴はいなかったような……)」

「お兄ちゃん?」


 そんな智也の考えが顔に出てたのか、葵は智也から名残惜しそうに手を離し、そして今までの経緯を説明する。


「今からちょうど10年くらい前かな、ボクの両親が交通事故で二人とも亡くなって、身寄りのないボクは『朝霧児童養護施設』に預けられたんだ。ボクは当時、両親が亡くなったショックで誰とも口を聞けなくなったんだ。でもそんなとき、同室だった智也お兄ちゃんが優しく声をかけてくれたんだ。『お前は一人じゃない。今日から俺が両親の代わりの家族に、兄にお兄ちゃんなってやる! だから前を向き、笑顔を取り戻して生きろ! 今のお前の姿じゃ両親も悲しむからな』ってね。あのときお兄ちゃんがそう言ってくれたから、ボクはこうして元気に笑えるようになったんだよ♪ けど、それからすぐにボクに里親が見つかって……。お兄ちゃんとはたった1ヶ月だけ一緒に生活しただけだったけど、それがボクとっては何物にも代えがたい大切な、大切な思い出になったんだよ。もしあのとき、お兄ちゃんがいなかったらボクは……」


 朧気おぼろげだか、確かに1ヶ月くらい一緒に生活して、すぐに里親の所に行った弟みたいな奴を覚えている。それがこの葵だったのだろう。


「今の両親のとこに行ってからも、お兄ちゃんのことが忘れられず、ずっとお兄ちゃんのことを探し出してて、やっと最近フィリス学園ここにいる分かって、それからね、それからね……」


 少し興奮気味の葵を『大丈夫だから』そう安心させるように頭を撫でた。

 頭を撫でられて、少しくすぐったいやら嬉しいやらする葵。


「で、それでここに転入したわけか?」

「うん!」


 葵は元気よく頷いた。智也としてはそんなに思い出はないが、葵にとってはそれがとても大切のようだ。そこで智也は先ほど思った疑問を葵にぶつける事にした。


「じゃあ……昨日のアレはなんなんだよ?」

「あぁ……アレ、ね。最初会ったときは、お兄ちゃんだとわからなかったんだけど、カフェで話してる内に智也お兄ちゃんだと気付いて……。でもでもお兄ちゃんはまったくボクのこと気づいてないから意地悪しちゃったんだ。ごめんねお兄ちゃん……てへっ♪」


 っと少し舌を出し冗談交じりにそう答えた。だからあのときちょっと怒り気味で、しかもオレの苗字も知ってたわけか。続けて智也は葵に質問する。

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