第14話 スイッチ

「おい! いきなり割り込んで来たクセに、俺達を無視してんじゃねぇよ朝霧ぃ~っ!!」


 っと不良の声で我に返る智也。どうやら一瞬意識を失っていたらしい。


「ほんと。なんでこんなことになったんだか……。あんたらより、オレの方が聞きたいくらいだよ」


 誰か知っていたら教えて欲しい……って、一昨日の自分のせいか。


「やはり、朝霧君とは何かとえにしがあるみたいですね~♪」


 そんな縁なくてもいいよ。智也は疑問に思ったことを目の前の大津に聞く。


「大津……先輩。生徒会長であるあなたが、なんでこの人達……見るからに不良と一緒にいるんですか?」

「……まぁ普通そう疑問に思うよね。色々とこちらにも事情というモノがあるのですよ。朝霧君もあまり知りすぎると…………ね?」


 不気味に笑いながら大津がそう語る。


 その事情とやらが気になるが、今はこの場をどう切り抜けるかが先決だ。いくら智也でも上級生含む5、6人に囲まれてるこの状況では負けないまでも、無傷ではいられないだろう。しかも後ろに守るべき葵がいるからなおさらだ。


「ほんと、どうしたらいいんだよ」


 周りを逃げないよう囲まれじりじりと滲み寄られ、すぐさま殴り合いが始まってもおかしくない状況。ふと後ろで、今まで服を掴まれてたその感覚がなくなった。


「…………(スイッチ)」


 そうボソリッ、と後ろにいた葵がそう呟いた。途端、智也の後ろにいた葵が目にも追えないほどの速さで横を通り抜け、不良達に向かって走って行った。


「おまっ、バカよせっ!?」


 そんな無謀な葵の突進に智也は止めようと声を張り出すが、そこで見たモノは想像を絶する光景が広がっていた。


 いきなりの葵の突進に対して不良達は対応できず、戸惑いながらも応戦しようと拳を振り上げ葵に向かって振り下ろそうとした瞬間、葵はスライディングするように左足をわざと滑らせ、近くにいた不良の鳩尾みぞおちに左ショートアッパーを叩き込む。


「ぐごはっ!?」


 一瞬何が起こったか解からずに胃にあるモノを吐き、その場にうずくまる不良の一人。


「なろうっ!」


 その隣にいたリーダー格の不良が仲間をやられたのを見て、すぐさま葵に襲い掛かる。だが、そのリーダー格の不良も同じてつを踏む。

 葵は襲い掛かるリーダー格の不良の右の拳を華麗に左にひらりと避け、首を右に振って結ってある長い黒髪をそのリーダー格の不良の目に当てる。


「ぐわっ!?」


 もちろんそれだけでは当然ダメージは与えられないが、一時的に不良の視界を遮るには十分だった。両手で目を庇っている不良のリーダーに対し、相手の右膝裏を左足の甲で蹴った。たったそれだけのことでガクンっと、前かがみに倒れこんでしまう。葵はそのリーダー格の不良の、がら空きの右わき腹に肝臓打ちリバーブローを容赦なく叩き込んだ。


「~~~~っ!?」


 痛さで声も出ない。息ができず右わき腹をを両手で押さえ、悶絶するリーダー格の不良。


「おいおいマジかよ……」


 その圧倒的な強さに智也は葵の猛攻もうこう唖然あぜんとしてしまう。それは大津を含む、他の不良達も同じだったようだ。


「こ、これは少々マズイ状況ですね。……こ、ここは退くべきですね」


 利に聡い大津は他の不良に逃げるよう指示すると、倒れた不良2人を引きりながら逃げて行った。


「……ふぅ~っ」


 葵は高ぶった感情を冷ますように大きく息を吸い込み、呼吸を整えた。その瞬間、葵の周りにあったピリピリとした空気が変わった。……いや元に戻ったというべきか。なんというか、どこかぽんわりとした雰囲気であった。そして葵は智也の方に向き直りこう智也に声をかけた。


「あっお兄ちゃん・・・・・大丈夫だった? 怪我はない?」

「あ、ああ…………はっ?」


 葵の問いに曖昧に受け答えをしたが、お兄ちゃんと何ら脈絡なくいきなり呼ばれ、また先ほどの出来事で思考が追いつかなかった。


「お兄ちゃん?」


 葵は首を傾げとてもカワイイ感じに聞いてきた。それはまるで自分が弟か妹のように……。

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