友達 ともだち

雨世界

1 大好きだよ。僕(私)は君(あなた)のことが、大好き。

 友達 ともだち


 プロローグ


 君と手をつなぎながら。


 本編


 大好きだよ。僕(私)は君(あなた)のことが、大好き。


「大丈夫?」と君は言った。

「大丈夫」と君の手を取りながら、僕は言った。

 僕が困っているときに、僕に手を差し伸べてくれるのは、いつだって君だった。

 

 僕の元からそんな君がいなくなったのは突然のことだった。


 僕たちは友達だった。

 一番の親友同士だった。


 だから、君と別れることは悲しかった。まるで自分の半分をどこかに持って行かれてしまうような気がして、すごく辛かった。

 でも、それは仕方のないことだった。

 君だって、好きで僕と別れるわけではないのだ。

 君の悲しそうな、それでも、笑顔で僕とさよならをしようとしているような、そんな顔を見れば、それはすぐにでも、わかることだった。


 だから僕は、「さよなら。またね」と言って、君にさよならを言った。

 君は僕に、「うん。さよなら。また。いつか会おうね」と言って、僕の前からいなくなった。


 それは小学校六年生のときの出来事だった。

 小学校を卒業して、僕たちは同じ中学校に進学するはずだったのだけど、君はいなくなってしまった。

 君のいない中学校はなぜかすごく、空虚な、からっぽな感じがした。


 その空虚な、からっぽな感じは、中学、高校と、ずっと僕の心の中に存在していた。


 君は今、なにをしているだろう?

 どんな土地で、どんな友達と出会い、どんな人と恋をして、今、どんな暮らしをしているんだろう?

 そんなことを、僕は青色の空を見上げながら、よく考えていた。


 僕は、君の友達にふさわしい人間になれただろうか?

 君は、今の僕を見て、昔のように僕を友達と思ってくれるだろうか?


 そんな(つまらない)ことを考えたりもした。


 不安になるときもあった。

 僕はとくに頭がいいわけでもないし、運動ができるわけでもない。ゲームが上手いわけでもないし、そこにいてみんなを楽しい気持ちにさせるような力があるわけでもなかった。

 僕にはなにもない。

 ただ、小学校のころに、君と親友同士だったというだけの関係だった。

 それがすごく不安に思うときがあった。


「なに言っているの。私たち、友達でしょ? そんなこと関係ないよ」僕の中にいる君が言った。

「そうだね。本当にそうだ」僕は言った。

 君はそんなつまらない、小さなことを気にするような人間じゃなかった。


 僕はいつも君の笑顔を思い出した。

 僕の眼の前で君はいつも、楽しそうな笑顔で笑っていた。

 きっと、君の中にいる僕も、ずっと楽しそうな笑顔で笑っていると思う。


 だって僕は、君のいる前では、いつも楽しくて、ずっと笑っていたのだから。(君はそんな、僕の笑顔を覚えていてくれるはずだから)


 それは夏の晴れた青空のような笑顔だった。

 それは、夏の蒸し暑い風のような、真夏の太陽のような、熱い、熱い思い出だった。


 僕はそんなことを、ひとりぼっちの高校の屋上で、(青色の空を見ながら)思い出した。


 君は今、なにをしているんだろう?


 すごく、無性に、久しぶりに、君と会いたくなった。


 大学生になると、僕はずっと住んでいた故郷の町を出た。

 そして、東京で一人暮らしをして、東京にある大学に通い始めた。電車に乗って、大学まで通学して、アルバイトをして、勉強をして、夜になると眠って、朝になると起きて、と言う生活を繰り返した。


 その暮らしは、あまり楽しいものじゃなかった。


 僕の心はそんな単調な生活の中でだんだんと曇っていった。

 いろんなものが、醜く見えていたし、いろんなものが、羨ましくも思えていた。僕はあるいは、このとき、最低の人間になりかけていたのかもしれない。(あるいは、本当にそうなっていたのかもしれない)

 ……もしかしたら、僕はこのとき、君に再会をしていなかったら、この世界から、消えていなくなっていたかもしれない。

 そんなことを僕は思った。


 僕が君と再会をしたのは、本当に偶然のことだった。

(でもそれはきっと、必然のことだったんだ。神様の用意してくれた、奇跡のような出来事だったんだと思う)


「あの、人違いだったら、すみません。もしかして、あなたは……」

 そう言って、君は東京の駅のホームで、電車を待っていた僕にそう声をかけてくれた。

 僕が後ろを振り向くと、そこには確かに君がいた。

 本当に久しぶりの出会いだったけど、一目で僕には、それが君だとわかった。(君も一目で、僕が僕だとわかったみたいだった)


「本当に久しぶり。今、なにをしているの?」

 お互いの存在を確かめたあとで、君は僕にそう言った。

 

 僕が今、なにをしているのか?


 それはとても難しい質問だった。いや、あるいはすごく簡単な質問だったのかもしれない。

 僕はずっと、君を探していたのだ。


 君を。(今、僕の目の前にいる君のことを)


 ……ずっと、大好きな君のことを。


 少しの会話のあとで、

「ずっと、君に会いたかった」

 僕は言った。

「うん。私も。あなたにもう一度会いたいって、ずっとそう思っていた」にっこりと笑って君は言った。

 その笑顔は、僕の中にいる君の、あの夏の太陽のような眩しい笑顔と重なった。


 あれから数年。


 僕たちは今も、一番の友達同士だった。

 そして、今、僕たちは、恋人同士でもある。


 そして僕たちは、これから結婚をして家族になる。

 ……もう二度と、お互いが、遠いところに、離れ離れにならないために。


 君とずっと、一生、こうして一緒にいるために。


 友達 ともだち 終わり

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