サプライズプレゼント

 大樹と別れたあと、俺は駅前のショッピングモールへとやってきた。


 なじみへのプレゼントを探しに来たんだが、なにがいいだろうか。


 改めて考えてみると意外と思いつかない。

 なじみが好きなものをあげればいいんだろうけど、真っ先に思いつくのは甘いものばかりだった。

 あとはかわいい物も普通に好きだよな。


 そういえば今日は休み時間に猫の動画を見てたっけ。

 子猫かわいい~と言ってうっとりしながら見てるなじみのほうが百億倍かわいいよって思いながらずっとなじみを見てた。

 そうしたらうっかり声に出してしまって、なじみが真っ赤になりながら慌ててそんなことないって否定してきてさらに百億倍かわいくなったっけ。

 はあ、至福の時間だったなあ。


 当時の様子を思い出しながら歩いていたら、スマホのアクセサリー売場に来ていた。

 色々なスマホケースとかが並んでいる。


 とはいえなじみは今のカバーが気に入っていたから、新しいカバーをあげたところで喜んでもらうの難しい気がする。

 ただ、店内にはアクセサリーとかもある。こういうのは面白そうだ。

 中に入っていくつか見て回っていると、あるものが目に付いた。


 スマホのイヤホンに付けるイヤホンジャックだ。

 猫がスマホにしがみついてるデザインになっていて、いまにもずり落ちそうに焦っているところがかわいい。

「落ち猫」というらしい。ネーミングもそのままでわかりやすいな。


 そういえば子猫の動画でも、必死に手足をバタバタさせてる姿がかわいかったなあ。

 それに、そういえば教室で女子がこれの話をしていたような気がするし……。

 もしかしたら最近流行っているのかもしれない。


 うん、これならよさそうだ。

 なじみもきっと喜んでくれると思う。


「だけど……」


 値札を見て悩んだ。

 高いんじゃない。むしろ安すぎるんだ。


 せっかくのプレゼントがたかだか数百円でいいのだろうか。

 もうちょっといいものをプレゼントした方が……。


 でも、これをもらったなじみがめちゃくちゃ喜ぶ姿が想像できた。

 きっとさっそくスマホにつけて「見てみてこれすっごくかわいい~」って俺に見せびらかしてくるだろう。


「……決めた。これにしよう」


 プレゼントとしては安すぎるかもしれない。

 でも、そういうのとは関係なく、なじみが喜んでるところを見たいから買うんだ。


 数百円のイヤホンジャックだからラッピングもなにもない。

 小さな紙袋に入れてもらっただけだ。


 店を出て、買ったばかりのプレゼントを持ちながら、さてどうしようかと少し考える。

 せっかくだから早く渡したいけど……、わざわざ呼び出してまで渡すようなものでもないよな。

 どうせまた明日も会うんだし、朝にでも渡せばいいか。


 明日の朝が楽しみだな、なんて思っていたら、ちょうどその女の子が現れた。


「あっ、コウ!」


 俺の姿を見つけると、なじみが大きく手を振りながら笑顔で駆け寄ってくる。


「こんなところで会うなんて思わなかったからビックリしたよ」


「俺もだよ。まさかここで会うなんてな」


 プレゼントを買ったあとでよかった。

 買う前だったらサプライズにならないからな。


「それにしても、こんな時間にどうしたんだ」


 今は夕方といってもいい時間だ。

 学校が終わってから結構たっている。

 用がないならとっくに家に帰ってる時間のはずだ。


 なので今までなにをしていたのか不思議だったんだけど、なじみは急に不機嫌そうに頬を膨らませた。


「誰かさんが今日は用事があるからって先に帰っちゃったから、和歌ちゃんとかとおしゃべりしてたらこんな時間になっちゃったんだ。でも、コウがいなくて寂しかったなあ……」


「う、それは悪かったよ……」


「それで帰りにほしい物があったからちょっと寄ってみたんだ。コウの用事も買い物だったの?」


「あ、ああ。まあそんなところだな」


 本当は大樹に会っていたからなんだが、その結果こうしてプレゼントを買うことになったんだから、そんなに間違いってわけでもないだろう。


 俺がうなずくと、なじみが笑みを浮かべる。


「じゃあ同じだね。アタシも買い物しようかと思ってたところだし。それでなに買ったの?」


「そうだ、その件でちょうどなじみを探してたんだ」


 買ったばかりのアクセサリーを取り出す。

 今更になって急に恥ずかしくなってきたが、そのまま勢いで渡すことにした。


「なじみにプレゼントしようと思ってな」


「ぷれぜんと?」


 なじみがきょとんとしながら受け取る。

 その顔がじわじわとうれしそうな笑みに変わっていった。


「えへへへへ~」


 ニッコニコの笑みになって俺を見つめてくる。


「な、なんだよ……」


「別に~? これ開けていい?」


「もちろん。なじみへのプレゼントだからな」


 さっそく開けると、中の物を指先でつまむようにして持ち上げた。


「あー、落ち猫だー!」


「知ってるのか?」


「もちろん! 今クラスで話題なんだよ。ちょうど今日も話してたからアタシもほしいなーと思って見に来たんだし。あ、でもこれストラップじゃなくて、イヤホンの穴に指すやつだ」


「イヤホンジャックな。ストラップのほうが良かったか? どっちにしようか迷ったんだけど、イヤホンジャックのほうが落ちそうなのをこらえてる感が強くてな」


「それちょっとわかるかも。ストラップのほうはひもにしがみついてぶら下がってるんだよね。だからスマホにしがみついてるって感じはないんだ」


 そう言いながら、なじみがさっそく自分のスマホに差し込んだ。


「あはははー! すっごい落っこちそうで必死にしがみついてる! なんでこんなに必死になってるんだろう。かわいいー!」


「なんでこんなに必死になってるのかわからないけど、そこがかわいいよな」


「うんうん、わかる!」


 めちゃくちゃ喜んでいる。

 やっぱり買ってよかったな。

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