らくがき

呉 那須

髪の毛と目玉のはなし

 給食のオニオンスープに髪が5〜6本入っていてスープと一緒に飲み込むと口の中にへばりついた。舌でなんとか取り出そうとする中右隣のらくがきちゃんは髪をラーメンのように啜って食べていた。マジ?という視線を送ったが首を傾けるだけで再び啜り始めた。まぁそんなこともあるかと僕は舌で髪を取り出す作業に戻った。はさみ小学校の5-A級の教室は不眠の春を迎えようとしていた。桜は5分咲きで木々の隙間からも空が見えるほどだった。僕は髪の毛を牛乳で流し込んだ。

 昼休みに僕はぞうきんみたく上履きを脱ぎ捨て校庭でクラスメートと鬼ごっこをしていたがぬかるみで勢いよく転んでしまい結局保健室にいる。養護教諭はいなくてなぜからくがきちゃんが中央の椅子に座って本を読んでいるし。先生どこ?トイレ。あそうと言って体温計やら保健室利用書だの置いてあるテーブルに座った。らくがきちゃん髪バッサリ切ったね。うん。髪って美味しい?まぁ美味しかないけどいけるよ意外に。あはは、僕はもういいかななんて話してたら養護教諭が保健室に入ってきてどうしたのよその怪我!と言って僕をテーブルから引きずり下ろして外にある水道場まで連れて行った。いや、転んで。実際僕の両足は真っ赤な肉と皮と校庭の泥と砂利でぐちゃぐちゃだったり。洗ったら保健室に戻ってこれぐらいのこと自分でやりなさいよと言いつつ消毒をしてくれた。絆創膏はそこの白い棚の上にあるからと言って忙しそうに保健室を出て行った。僕は絆創膏をペタペタと傷を埋めていくように貼った。キンコンと鐘がなった。5時間目が始まったようだ。急ごっか。うんとらくがきちゃんは椅子から立ち上がろうとしたがパタンと静かに倒れてしまった。まぁ息はしてるし大丈夫かな?僕はとりあえずベッドに彼女を置いて教室へ向かった?いや、教室には行けずあるべきはずの廊下は路地裏になっていて僕は保健室の扉を閉じた。どうしたの?と後ろからかすかに聞こえるがやなんでもと答えるのが精一杯だった。もう一度ゆっくりドアノブを引いたが湿気くさい路地裏があるばかりで頭に機械でもあるのかなと耳をかっぽじってもギュムッと指をねじ込む音がしただけで結局ヤバそうだったら保健室に戻ろうと扉の外へ出た。

 そこはなんとか僕一人通れる程度の幅で振り向くと扉はなく薄暗い中に続く裂け目の先に光がさすのみ。路地裏を出ると住宅街が地平線の見えるほどまっすぐ続いていたし色も音も空に浮いている。チャイムを押したが誰も出ない。留守にしているのかと隣の家にもその隣の家を訪ねても返答はなかった。道の真ん中で大の字に寝るとアスファルトがズボンの隙間や首に刺さって痛いが我慢して眠る。

 や、なんで寝てんのよ。という声が顔の前から聞こえて目を開けるとらくがきちゃんが僕の顔を覗いていた。気分とだけ答えた。ここどこなのよ。わかんない。よいしょと体をおこしたら赤い塊が電柱の下に見えたから寄ってみるとそれは担任の中村の顔で目玉はトロトロ頬の近くにぶら下がっていたが持ち上げた拍子にポトリと落ちてしまった。後ろを振り向くとらくがきちゃんの目口鼻耳からなんかでてきた。なめくじだった。彼女か叫ぶにつれ数は増していき気づいたららくがきちゃんは僕と同じくらいの大きさのなめくじになっていた。目玉を投げつけるとぺちょっと音の後ららぁまやかだなあまやあまるさゆねふのあと言って僕にヌルヌルと近寄ってきた。なめくじの触覚をちぎってみるともう近寄ってこなかった。僕もとりあえず僕のヌラッとした目玉を親指をねじ込んでとってみた。プチって音がしたと思う。

 

気づくと教室にいた。  

教室には僕1人だった。

机も椅子も一つしかない。

僕は机に勢いよく目玉を叩きつけた。

今度はコンッと鳴ってホッとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

らくがき 呉 那須 @hagumaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ