僕が居間の扉を開けて中に入ると、そこには家族が揃っていた。僕の両親と妹がいる。

「ねぇ、あなた、あなたは一体何回言ったら分かってくれるの? 私言ったわよね。『絶対に儲かる』なんて美味い話はないって、そういうのは大抵詐欺の類だから載せられちゃいけないしましてやお金を払うなんてもってのほかだって。言ったわよね!」

 なんと父が母に正座させられていました。

 どうやら父がまた詐欺に引っ掛かったようだ。

「またですか……父上」

 僕は父に声をかける。

「よ、よう、シャルル……帰って来ていたのか……」

「何が『よう』ですか。あなたは。何度母に怒られたら分かるんですか? ああ、もう言い訳は聞きませんよ? 今まで散々聞かされてきましたし、今でもメリッサに聞かせているようですからね」

 父の顔がみるみる青ざめていく。

「……シ、シャルル、一体どこでそれを知ったのだね」

「別に文通そのものは禁止されていませんが」

「なっ! そ、そしたら文通禁止だ!」

 父が慌て始めた。冷や汗もかいている。そんな怖いことはやっていないのだが。

「嫌です」

「なっ! は、反抗期かね? え? シャルルには反抗期らしい反抗期が今までなかったが今さらになって反抗期かね? 20代にもなって! は、恥ずかしい!」

「この年になって反抗期なんて言わないで下さいよ。仕事も見つけて自立したんです。自分で生計を立てて生活しているんです」

 その僕の言葉を聞いて父は灰になってしまった。そんなにショックかなぁ、子供が巣立っていくのって。いつかは絶対そうなるに決まってるじゃん。

 母親の方を見ると、母も涙ぐんでしまっている。一体なんなんだこの家族は。

 妹だけが僕に尊敬の眼差しを向けてくれる。

「兄上、すごいです! 自ら生計を立てられていらっしゃるなんて!」

「いや、贅沢とかは全然出来ないからね……?」




 そこから両親が普段の調子を取り戻すまでしばらくかかった。

 因みに父親はどうやら株式がらみの詐欺にあったらしい。魔石の小売会社を新たに設立するのでそれに出資しないかと誘われてよく考えもせずにその場で出資を決めて即座にニコニコ現金払いをしてしまったらしい。それからいつまで待っても株式の証券が届かないので事前に渡されていた連絡先に電話をかけてみるとかかった先は創業100年の老舗のパン屋だったとのことだ。勿論そのパン屋が新たに魔石小売り事業を始めたわけでもなく、その時に初めて騙されていたことに気づいたそうだ。極め付けには2〜3ヶ月ほど父は母に黙っていたというからもうアホにも程がある。株式は時々大暴落して紙屑と化し、なかなかリスクの高い資産であるっていうことは人類が過去に何回か経験した大恐慌で学習しているのだが、父は全く学習していない。だから株式投資で儲かるなんでことがないことも。そんな謳い文句で株式投資を誘われたら疑うのが普通の感覚だと思うのだが。

 我が父は古い人間なのかどうかは知らないがこういうのにホイホイ騙される。数年前には農地開拓請負企業への出資を持ちかけられて、勿論そんなのは詐欺で、結局所有していた農地の一部の売却を余儀なくされていたのだ。

 最早この人の騙され癖のようなものは病的であり、この人が生きている限りついてきてまわる贅沢病のようなものであるのでまず父に株式でも土地でも貴金属でもとにかく何かにをする際にはちゃんと母かウィレム、僕にきちんと相談してから契約なりなんなりする様に強く言っておくことにした。まぁ、父が半泣きするくらいには。


「ところで、シャルルはジャンヌちゃんから聞いているかしら?」

 家族でお茶していると、唐突に母がそんなことを聞いてきた。

 何それ聞いてない。

「先輩が何か?」

「今年もウチに来るそうよ」

 まぢですか……

「あまり嬉しく無さそうですね、兄上。まぁ、変な虫がつかなくて良いのですが」

「いや、先輩がウチに来るのは嫌じゃないんだけどさ、あの人とはいっつも顔を合わせてるんだよ? 職場一緒だし、区憲兵ラ=ブランシュ

 妹の不穏な一言には目を瞑っておこう。きっとそれが僕の精神衛生上最善だし、仮令僕が注意したとしてもきっと治るまい。目を瞑っておくのが最も理想的な妹ブラコン疑惑の解決方法だろう。


 復活した父が何やらニヤニヤしている。

「それでね? 今年は向こうの都合で明日来るんだって! ウチに」

 え? そんなご都合主義ある?

 一番嫌そうな顔をしていたのはメリッサだった。

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