コンテストに100回落ちたワナビ~コンサル・死闘編

naka-motoo

今に見て胃ろう

「ぐわあああああああ!また堕ちたあああ!」

「て、Tてい!落ち着いて!迷惑だよ!」

「そうだよ!それにコンテストなら『堕ちた』じゃなくて『落ちた』だよ!」


 えーい、A子えーこB子びーこ。人の心の中の漢字まで読み取るなああ!


T-婦情ていふじょうさん」


 場末の居酒屋でわたしの落選慰労飲み会をいつものトリオでやっていると後ろの席から声をかけられた。初見の男だ。アラサーか?


「誰だいあんた」

「どうぞ」


 名刺を渡された。


『ワナビ・コンサルタント WB・タカミネ』


「T-婦情さん。あなた、本気で小説家になりたいんでしょう?」

「あ、ああ。もちろんだよ」

「ならば、私と契約なさい」

「ちょっと待って」

「なんですか」

「どうしてわたしの名前を」

「さっきあなたのお友達がそう言ってたから」

「あ、そっか」


 こうしてわたしはワナビを職業作家にするためのコンサルタントが本業だというタカミネと月額3,000円で契約した。


「まず、プロフィールを変える」

「?なんで?」

「アラサー、低所得、過去はいじめられっ子。どうにもならんでしょう」

「まあ、確かに」


 次のとおりにした。


「30という数字に漸近する女子。清貧なほどのストイックさ。過酷な虐待の過去」

「ものは言いようだね」

「それから、ペンネーム」

「うん?」

「『シック・T』となさい」

「ええ?わけわからんよその名前」

「雰囲気でいいんです。そして謎めいていた方が」


 まあまずは外堀からということかな。

 それから相当ハードルの高い指示が出た。


「顔、なんとかなりませんか?」

「は、はあっ!?」

「自覚がないとは言わせませんよ」

「うう・・・」


 メイクした。


「ほう・・・見違えましたよ」

「はははは。どーも」


 別人というよりは別物体と言った方がよいだろう。眼球以外すべて覆われた。

 いや。

 眼球すらカラーコンタクトでカモフラされた。


「いい!いーですよー、シックさん」

「はは。シックって病気って意味じゃなかったっけ」

「いいえ。落ち着いた、って意味ですよ。で、この服」

「えっ」

「これぐらい壊してないと」


 ヘソを出した。


「ごめん・・・ちょっとお腹がゆるいかも」

「あ、ウエストゆるすぎました?」

「そうじゃなくて・・・腹が冷えて、トイレが近くなるかも・・・」


 こうして最初の一か月はひたすら『シック-T』というキャラになり切る特訓をした。


「はい!目線が下がってる!脚をクロスさせてアスファルトの白線上を常に爪先で捉えて歩く感じで!」

「うおおおりゃあああ!」

「その掛け声いらない!」


「そうそう!下から視線を睨め上げるように!もう一度!」

「・・・ところでタカミネ」

「なんだね、T」

「いつになったら小説の書き方教えてもらえるの」

「ふふふ。いいでしょう。そろそろレクチャーの最終段階に入ろう」


 あれ?なに?次がもう最終段階。


「まあいいや。とにかく、教えてよ?」

「ええ・・・では、行きましょう」

「行く?どこへ?」

「強化合宿です。名付けて『小説地獄』」


 地獄だって・・・?

 ふふ。

 大丈夫か?このコンサル。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る