第三王子として平凡に生きるつもりだったが……。

池中 織奈

第三王子として平凡に生きるつもりだったが……。

 俺の名前は、ニーディ・グダーリ。グダーリ王国の第三王子。

 ただいま十歳という年齢だ。見た目は……かっこよくないわけではないんだけど……栗色の髪で、栗色の瞳で、色的にもそこまで目立つわけじゃない。っていうか、俺の上と下の兄弟姉妹が俺より顔面偏差値が高すぎて、俺は中々目立たない方である。


 さて、美男美女に囲まれ、ぶっちゃけ、俺は自分で言うのもなんだが王子とはいえ家族の中では目立たないと思っている。


 ちなみに俺は転生者というやつである。そこまで完全にではないが、異世界である地球の記憶を所持している。なんとなくしか覚えていない俺だが、よっしゃ王子だと俺は大興奮していた。


 そんなわけで俺は他の兄妹よりは全然目立たないし、のんびり過ごしながらいずれ王位継承権を返上してのんびり生活していこうと思っている。


 っていうか、俺の周り目立つ奴らばかりだとびっくりする。


 第一王子である兄上は金髪碧眼のいかにも王子様な美形である。男の俺から見ても凄い美形すぎて、びびる。ちなみにすごく優しくて、有能である。

 見た目だけではなく、中身までイケメンとかなんだそれって気分である。


 第二王子である兄上は金髪に茶色の瞳の王子で、剣の腕が凄まじい。王子でありながら率先して戦いに赴き、国に襲い掛かる脅威を排除している。

 少し脳筋な部分があるようだが、頭が悪いというわけではない。

 ガタイが良くて、男らしくて凄くかっこいい兄上である。


 第一王女である姉上は側妃の娘であるが、とても美しい見た目をしている。

 側妃様譲りの銀色の髪と碧眼を持つ。それはいうならば妖精のようで、幻想的な見た目だ。

 王女としての教養がとても優れていて、何よりも得意なのは歌うことである。その歌声は国外でも有名になっている。

 

 第二王女である姉上は俺と同腹であるが、俺と違って美しい。

 隔世遺伝と言うやつか、先代王妃——要するに祖母に似ていて、美しい赤い髪と碧眼を持つ。この姉上は魔法具作りの天才である。

 魔法を使う才能はないものの、魔法具作りの面で活躍している。


 第四王子である弟は、身分の低い側妃の息子であるものの、絵を描く才能がある。

 絵を描く天才と言うやつで、その描いた絵はものすごい金額でやり取りされている。っていうか、この弟、絵が上手なだけじゃなく見た目も目立つ。兄弟の中でも一番きれいでまるで人形みたいだ。


 第五王子である弟は、王妃の息子であり、その見た目はもちろん美しい。

 金髪の緑の瞳で、瞳の色だけ第一王子と異なる。この弟は魔法の才能が振り切れている。あらゆる魔法を使いこなし、その才能を国のために使っている。


 第三王女である妹は、側妃の娘で見た目は俺よりは当然良いが、兄妹の中では目立たない方だ。

 とはいえ、俺よりは目立つ。この妹は身体強化の魔法が大得意で拳で殴るを地で行く存在だ。よく第二王子と共に魔物退治に向かい、この国で名を馳せている。


 第四王女である妹は、銀髪に黄色の瞳で、兄妹の中で一番美しい。絶世の美少女というのは妹の事を言うだろう。まだ小さいが、これから年頃になれば求婚者が絶えないこと間違いなしだ。

 ちなみにまだ小さいが、おしゃれの革命者とか言われている。俺がポロリと零してしまった現代日本の知識とか、あとは自分で思いついたものとかで今までにないドレスをしあげたりとか、まだ小さいのに社交界のドレスを先導してるとか分けわからない。


 さて、そんな彼らに囲まれている俺だが、見た目は彼らより目立たないし、勉強も第一王子ほどできないし、剣も出来なくはないけど第二王子ほど出来ないし、歌も第一王女ほど国外に響く才能もない、魔法具も作れるけど第二王女ほど良いものが作れるわけでもなく、絵を描くのも出来るけど第四王子ほどではないし、魔法も使えるけど第五王女ほどでもなく、身体強化の魔法も第三王女ほどできず、現代日本の知識があるからおしゃれな方だとは思うけど第四王女ほどでもない。

 うん、しかも俺と第二王女の姉上の母親も特に身分が高くもなく低くもない側妃である。

 真ん中の俺は見るからに目立たねーだろ! って自分で思ってる。



 でも兄妹の中では目立たない俺だけど、兄上も姉上も弟も妹も優しくて、俺とも仲よくしてくれている。


 っていうか、俺、地球に居た頃は王族とかだとぎすぎすしてんじゃねーかとも思っていたけど、うちの家は仲が良い。それも父上と王妃様が側妃やその子供たちとも仲よくしようとしているからだろう。

 側妃である母上も王妃様のことを慕っているし、こういう仲が良い王族に生まれて良かったと思う。兄弟で殺し合いとかシャレにならないし。


 兄妹たちは俺によく話しかけてくる。


「二ーディ、これはどう思う?」

「えーと、その場合は――」


 第一王子である兄上に意見を求められて、地球での知識を踏まえながら答えたり、


「二ーディ!! 一緒に模擬戦やるぞ、こい!! 手加減はしないぞ!!」

「じゃあ俺も手加減しない!!」


 第二王子である兄上に模擬戦を求められて、それに答えたり、


「二ーディ、一緒に歌を教えなさい! 一緒に歌いに行きましょう!!」

「いいよー。足を引っ張らないように俺も頑張る」


 第一王女である姉上に一緒に歌おうと誘われ、地球の歌を教えたり一緒に歌いにいったり、


「二ーディ、魔法具一緒に作りましょう。今度ね、こういう魔法具を作ろうと思っていて――」

「えっと、それなら――」


 第二王女である姉上に魔法具作りに誘われ、地球の知識も踏まえて一緒に作ったり、


「ニーディ兄上!! 一緒に山行こう!! そして一緒に絵を描こう!!」

「いいけど、日帰りでちゃんと父上に報告してから行こうな」


 第四王子である弟に一緒に絵を描きに行こうとさそわ、ともに絵を描きに出かけたり、


「ニーディ兄上!! 魔法の打ち合いしよーぜ!!」

「いいぞ。ただ城を壊さないようにな」


 第五王子である弟に魔法の打ち合いを誘われて、共にやったり、


「ニーディお兄様、戦いましょう!!」

「いいぞ。手加減はしないからな」


 第三王女である妹に戦い――殴り合いに誘われて、殴り合いをしたり、


「ニーディお兄様、新作の意見をくださいませ!!」

「いま、行く。役に立つかは分からないけど」


 第四王女である妹に意見を求められ、意見を言ったり、



 そんなことをしながら俺は日常を過ごしていった。

 兄妹たちはいつも俺を色んなことに誘ってくるので俺は大忙しだった。




 それに俺の婚約者になった公爵家令嬢も規格外というか、驚くほどの本の虫でその知識量は国内一と呼ばれている存在である。っていうか、凄い美少女で俺は一緒にいるだけでドキドキする。

 こんな美少女が俺の嫁になるとか、嘘だろって最初思った。俺なんかが婚約者でいいのだろうかと正直思うが、婚約者は嬉しいことに俺に好意を抱いていてくれているようで、俺は嬉しい。ってか、可愛いし、俺は婚約者のこと大好きだし。

 可愛くて俺のことを好きだといってくれる子を好きにならないわけないだろう。



 その婚約者とはよく読書デートみたいなのをしてる。あとは本に載っていた地域に一緒に行ったり、幸い俺は兄妹たちほどではないけれどそれなりに魔法も剣も使えるし、護衛をほぼつけずにふらふらとどこかに行くのも許されていたりする。もちろん、ゼロではないけれど。


 さて、そんな風に思っていた俺だが、十六歳になった時に青天の霹靂であることを家族に言われることになった。






「ニーディよ、我の後を継ぐのだ」

「は?」

「は? ではない。ニーディが王位を継ぐのが良いだろうと、こちらで決まったのだ」

「……はぁ? 父上寝ぼけているんですか? 俺は第三王子だし、兄上が継げばいいでしょ」


 真面目に何言ってるんだこの人と思った俺。っていうか、この場に兄妹たち全員いるんだけど、第三王子の俺が継ぐとかなったら兄妹たちから恨まれたりするんじゃないか。

 そんな風にはらはらしてしまう。



 そう思って兄上たちを見るけれど、彼らはなぜか総じてにこにこしている。何でだ!? 意味が分からない。



「ニーディ、これは皆が決めたことなのだ」

「えーなんで?」


 にこにこしている兄妹たちのあとに父上を見たら、皆が決めた事とか言われて、敬語も忘れて何でなどと口にしてしまう俺。


 っていうか、何で俺にそんなことをいうのか。

 確かに父上は誰でも王位を継ぐ可能性があるとか言っていたけどさ。でも何で俺。


 意味が分からなすぎる。そんなことをいう俺に、家族は言う。



「いや、ニーディは何でもできるだろう。加えてこの気難しい息子と娘たちの誰とでも仲が良く、皆、ニーディが王になるのが相応しいと決めたのだ」

「えー……いやいや、俺、皆よりは全然なんも出来ないじゃん。っていうか、俺が仲が良いって皆仲良いでしょ?」

「ニーディ……其方、自覚ないのだな。全然出来ないとかいいながら一般的な標準よりは断然出来るだろう。それだけ普通ではない。一つが長けているよりも、王と言うのは何でもできる方が良い。それに皆仲が良いというが、これだけ才能に溢れている我が子達が孤独を感じずに楽しめているのはニーディが共に楽しんでくれるからだと言っていたぞ」


 えーって感じである。そんなことを言われても……って思うけど、兄妹たちはびっくりするぐらいにこにこしている。




「ニーディが王になるなら私は支えるぞ」と第一王子が。

「ニーディなら戦える王だしな、強い奴が王になる方がいいだろう」と第二王子が。

「王になっても一緒に歌いましょうね! ニーディならこの国を歌で有名に出来るわ」と第一王女が。

「ニーディが王になるの、私は賛成よ。お兄様たちじゃ頭が固すぎたり頭が悪すぎたりだもの! ニーディぐらいがちょうどよいわ」と第二王女が。

「ニーディ兄上なら安心するからなぁ」と第四王子が。

「つか、ニーディ兄上は周りをよく見てし、誰とでも仲良くなれるから相応しいだろう」と第五王子が。

「ニーディお兄様が王の方が楽しそうなんだもん」と第三王女が。

「ニーディお兄様なら、きっともっとこの国をおしゃれにするもの!」と第四王女が。



 えー、全員俺が王になっていいと思ってんの? 何で? 誰も反対していないの? マジで?


「王妃様は? いいんですか?」

「構いませんわ。ニーディは良い子ですし、ニーディが王になったらこの国はきっとよくなるでしょう。我が子たちはニーディを王にしたいようですし」


 王妃様! 普通反対しないの?? って思いながら俺は王妃様の話を聞いた。ああ、でも王妃様、普通に俺のこと、息子みたいに可愛がってくれているしなぁ。

 何で皆、そんな俺に王になってほしいんだか。



 でもこんな風に家族全員が俺に王になってほしいって望むのならば……、俺は単純だから俺も王になってもいいかなーって気分になる。

 しかしこんな軽い気持ちで王になっていいものなのだろうか。まぁ、俺も王子としてちゃんと勉強はしてきたけどさ。


 うーん、って思ってたら兄上たちがこっちによってくる。



「ニーディ、私が支えるからな」

「ニーディ、大丈夫だぞ。ニーディが王になったら俺が守ってやろう」

「ニーディ、大丈夫よ。不安なことがあったら私たちが全力を持って助けるから」

「ニーディ、心配なの? とりあえずやってみない? 私はニーディなら助けるわよ」

「ニーディ兄上が王になったら肖像画は俺が描くから」

「ニーディ兄上、魔法で助けるから。王になってよ」

「ニーディお兄様、王になっても私と戦ってね!!」

「ニーディお兄様、私も全力で支えさせていただきますわ! ニーディお兄様

のすばらしさを社交界でお伝えしますわ」


 そんな風にわらわら俺を囲んで、そんなことをいう。



「うーん、じゃあとりあえず王太子やってみるとして無理そうならやめてもオッケー?」

 

 元日本人である俺、ぶっちゃけ王になれるとか考えてなかったのでそんな風に保険を掛けることにした。


 家族がそこまで言うのならば、ひとまずやってみるとして……、無理そうなら兄妹に押し付けようという結論に至ったのだ。

 そんな情けない発言をする俺に家族たちは幻滅することもなく、「それでいい」と答えた。何だか、用心深いのは良いことだとか言っているし。

 それでいいのか? と思うが、家族が良いと言っているのならばよいだろう。



 っていうか、婚約者にも言っとかないとと思っていたら――、どうやら俺の婚約者にももう話は言っているらしい。えー、俺だけ蚊帳の外で決まってたわけ? って驚きだよ。


 まぁ、これだけ期待を向けてくれているなら俺はやれるだけやってみようと思う。




 そんな決意をした俺はそれから、王太子として仕事をすることになるのだった。






 ――で、それから二年後。




「これから、ニーディ・グダーリの即位式を始める」



 何故か引退して俺を支えるとか言い出した父上や、「ニーディにはやく王位を継いでほしい。俺はニーディなら支える」とか言い出している兄妹たちの意見により――、っていうかなぜか重臣たちも賛成していて――それで王位を継ぐことになった。



 第三王子として平凡に生きるつもりだったんだけどなぁ……でもまぁ、家族たちはにこにこしていて、俺を支えると笑っているし、婚約者も王妃になって頑張ると言っているし、俺も王として頑張ろうと決意するのだった。



 ――第三王子として平凡に生きるつもりだったが……。

 (第三王子として転生した俺は、平凡に生きようと思っていたが結果として王となった)



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