第4話 仮

 「我が部(仮)の目的は昨日も言ったと思うが世界を救う為、まずは手始めにこの学校と町を救おうというのが我々の共通目的だ。その為に君の力を借りたい」

 そんな大層なことを言われても困るのだがというより何を言っているのかいまいちピンと来ていないままここにいる誠一郎は返事に詰まる。

 「話は大体聞いていますが具体的に何をするんですか。救うとか楽しくするとかそれだったらボランティア活動するなり軽音部に入って演奏するなりでも何ら支障はないじゃないですか」

 ここの存在理由が知りたい正直それだけが引っかかる。

 「確かに彼の言うことももっともだな」

 ナンバー2の男こと佐竹が理解を示したことで少し安堵する。

 どうやら話を聞いてくれそうだぞ。横にいるエキセントリックな先輩と違って。

 「はっきり言ってしまうと元々はただの趣味なんだよ。道子の」

 何となく察してはいたもののそれだけでは納得いかない。

 「世界を救うのが趣味ですが?」

 あえて取り違えたかのように話を進める。

 「いや、そっちは薄々感じているかもしれないけど後付けに近いかな。町をってものそれに近いかもしれない。始めはただせっかくの高校3年間を面白おかしく過ごす方法は無いかって考えたときに普通なら部活に入って青春の汗を流したり恋に溺れたりするんだけど悲しいことに俺も彼女達もそっち側には踏み込めない。だからせめて逃げ場だけでもってのが始まりかもしれないな」

 わかりやすい。神坂先輩の無駄な電話より簡潔だ。

 要するにあれだ・・・・


 「俺はボッチだからピッタリだと」

 「「「正解」」」

 3人ではもらないで欲しい。

 「君にも悪い話では無いと思うよ。グレーな高校生活にちょっと色が付く。コンビニの桃水ぐらいには」

 それ透明じゃね?

 「とりあえず仮入部ってことでどうかしら。話もその辺にしてお茶でもどう?」

 さっきまで後ろでほとんど聞いているだけだった中山先輩が声を掛けてくる。

 「そうね!私としてはこの同好会に今すぐ入って欲しいところだけど器の大きい私は待ってあげるわ。1週間でどうかしら」

 勝手に決められてしまったがこういうのはダラダラしていてもしょうがない。その話に乗ることにする。

 「分かりました。とりあえず話に乗ります。ただ部を目指す同好会というからには何かちゃんとした活動があるんでしょ?」

 当然だ。いくらこの学校が自由な校風とは言えいくらの予算を割り振る以上は部としての活動報告があるはずだ。まさか1年生をきわどい写真で吊って誘拐しましたなんてことを報告しようものなら部にすらならない。同好会ですら無理だ。

 「勿論だ!この神坂様にかかれば活動のでっち上げのひとつやふたつ・・・」

 「ちゃんと活動してるからね!心配しないで!ね?佐竹君!」

 かぶさるように中山先輩が声を荒げる。

 まぁ想像通りだな・・・大した活動もせずにダラダラしてるのだろう。そう考えれば少しおかしな先輩に目を瞑れば悪い話では無いのかもしれない。

 おっと心が傾き始めている。俺は1人が好きな男のはずだ。少なくとも現在の設定ではそうなっている。

 2人に代わって説明役の佐竹先輩が活動内容を話し始める。

 「まぁ何もないときはこうやって中山みたいに本を読んだり俺みたいに勉強してるかな。君も好きにしていいよ。ただ一応、同好会とはいえ活動報告は必須だからね。部室も予算も与えられている以上は何かしないと桜井先生にも迷惑かかるし」

 太一君の名前が出てきたことに不思議な顔をしたのを読み取ったのかそのことに触れる。

 「桜井先生はこの同好会の顧問なんだ。だから何か問題を起こせば先生の責任問題って訳。すでに起こしてそうってのは禁句。まぁだから君についてある程度知っているってのもあるんだ」

 なるほど太一君から情報が洩れているなら俺のような善良な市民がこんなへんてこな先輩に絡まれたのも納得がいく。

 「で、話を戻すけど活動内容としては学校を楽しくってことでこの学校で学校行事以外に生徒の自主的イベントがあるのは知ってるよね?」

 確かにこの学校の特徴として学校行事以外に様々なイベントが行われている。例えば映画研究会によるオリジナル映画の上映や美術部の校内個展、落研の落語お茶会などだ。中には誰がこんなもの参加するんだというものもあり365日何かしら行われているのではというほど豊富だ。

 「そのイベントなんだけど当然、準備には人手がいる。勿論、足りている部はいいが小規模な部になると開催すら困難なところも多い。小さな部ほど人が増えて欲しいからできるだけ開催しようとするんだけどそれには人がいるっている問題がある」

 大体予想がついた。

 「つまりその雑用係ってことですね」

 「まぁ言い方はそれでいいかどうかだけど合ってるよ」

 「確かに面白くするための手伝いはできますがこの部そのものは結局、主役として何もできてないと思いますがそれでいいんですか?」

 「何を言う!君はただのボランティア部と思っているのか?それは浅はかな考えだぞ。まぁいい哲夫!このぼんくらに真の姿を見せてやるのだ!」

 真の姿も何もない気がするのだが・・・

 「ちょうど依頼が来ててね。一緒にやってみないか?」

 「私も試しに参加をお勧めします。道子の言うように真の姿が見れるかもですよ」

 そこまで言うのなら仮入部の身ではあるが一緒にやってみようではないか。

 「わかりました。とりあえず仮入部したことですし手伝いますよ」

 「本当か!ではこの仮入部届にサインと頼む!」

 名前と日付を書き手渡す。

 「聞いてると結構忙しそうな部活ですけどそういうのは求めてないんですけどね」

 正直な感想を述べる。

 「グレーな男だなぁ。元からなのか高校デビュー失敗がそうさせたのか」

 くっ太一君の奴めそんなことまでこの人達に話したのか。やっぱり違う高校を選ぶべきだったのだ。


 後悔した時には遅い。後悔した時はすでに手遅れ。

 大事なことなので二回言いました。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る