老いたる男は下り続ける

 いつから坂道に差し掛かったのだろう。

 いつから調子が悪くなったのだろう。

 いじめに遭う我が子の、その苦しみよりも、自分が『いじめられる子の親』という辱めを自覚したくなかったから?

 引きこもる我が子を『司法試験の勉強中です』と虚言で固め始めた頃から?

 隠遁するかのごとく生活する我が子とその母親のはざまで、自分は外界の活動に邁進した。

 いくつもの勤めを果たした。常に人々から「あなたは頭がいい」と言われ続ける存在でありそして実際そうだった。


 我が子は、言った。


「お父さん、僕が悪いの?」

「隙があるからだ」

「どうすればいいの?」

「勉強しろ。勉強が凄かったら、みんながひれ伏す」


 そう信じて疑わなかった。

 いや。

 疑っていたが、自分の市場価値を高めるために世間の価値基準をそのように持って行った。


 簡単なことだった。


 私がそう決めれば、世の中が本当にその通りになった。

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