第27話 決戦を遊ぶ(3)

 まず、俺がシルバに仕掛ける。

 アリサやルカは、シルバと一対一では戦えない。「シルバとは、シュウおれが戦う」。合理的で妥当な選択だ。確実に勝つために、俺たちは安定択を選んだ。


 ……と、そう思わせる。

 俺はシルバの間合いに入る直前で真横に飛びのく。


「……何?」


 シルバが目を見張る。さすがに予想できなかっただろ?

 飛びのいた俺の後ろには――笛を咥えたアリサがいる!


「エレナ様を……怒らせましたわね」


 ピ。ピ。ピ。

 笛の音とともに……五本、十本、二十本。モップが増殖していく!


「覚えておきなさい。エレナ様の笑顔を奪う奴は……」


 増え続けたモップは、広いロビーを埋め尽くす大波となり……。


「ブッッッ潰される運命だということを!!」


 一気に、シルバへと襲いかかる!

 アリサ必殺の大技、〈アトミック・スイープ〉!


「しま……ッ」


 シルバがガードする。

 残念ながら、完全に倒せてはいない。前回もそうだった。

 でも。

 敵の中で一番強いシルバは、この技を受けると、しばらく動けない。前回もそうだった!


「か、感謝しますわ……シュウ。こいつには一矢報いたかったんですの」

「うん、ありがとう……今のうちだな」


 俺は後ろを振り返る。シルバ以外の三人が既に動き出している。

 だが問題ない。俺はここでギフトを再び発動する。〈コンセントレイト〉。

 時の流れが鈍化する。

 そしてこの三人の――未来を、視る!


 一人目は槍使いだった。リーチを活かして、俺に向かって連続の突きを繰り出す未来が視える。

 ならば……俺は先手を打ってその槍を蹴る。槍の穂先の向きが変わる。


 次、二人目はこちらに両手を向けたまま狙いを定めている。

 そこから俺は、ビームのようなものが放たれる未来を予測した。そういうギフトは多い。十分ありうる。

 いいだろう。俺は跳びあがってビームの射線をはずれ、ついでにそいつの肩を強く押す。


 そして三人目。剣士……に見えるが、剣を片手で大きく振りかぶる動作をしている。これは……剣を、投げるつもりだ。意表を突いている。

 わかった。俺は剣士の手首を掴み、やはり向きを変えた。

 そして……少し離れて着地! すると。


「――うわあッ!?」

「ぐァッ!」

「ぎゃあ!!」


 重なる三つの悲鳴。

 一人目の槍が二人目を刺し、二人目のビームが三人目を焼き、三人目の投げた剣は一人目を貫いていた。完全な同士討ち! うまくいった!


「お……の……れェ!!」


 が、三人目がこれで終わらなかった。一人目を貫いた剣がそのまま飛行し、ぐるりと向きを変えてこちらに迫る。

 手から離れた剣を操作するギフトか!!

 俺もさすがに、相手のギフトまで完全に予想できるわけじゃない。

 K.T.Oキルタイムにはそれだけ多様なギフトがある。人の数だけスタイルがある。


 ああ、だからこそ、俺は、こんな時でも思うのだ。

 やっぱりこのゲーム、よくできてるなあ!!


「意表を突かれた……でも、見える!」


 まだ『神々の時計クロノスワークス』は動いている。俺は飛んできた剣をつかみ取り、一気に持ち主に接近すると、思い切り刺した。


「嘘だ……速すぎ……る!!」


 そうして三人目も、倒れた。

 作戦通り。シルバの足止めをしている間に、他を片付けた!

 これだけでもぐっと楽になる。後はシルバを――


「待てよ」


 だが。ここで俺は強烈な違和感を感じた。


 矢。

 最初に飛んできたのは矢だ。今、矢を使う敵はいなかった!

 そう思うのと同時だった。また視界の端で、キラリと何かが光る。


「――あぶなっっ」


 猛スピードの矢をギリギリでかわす。射手は……二階か!

 敵はもう一人いたのだ。


「……シルバめ。五人いるじゃないか」


 四対四。その言葉自体が偽りだった。シルバの話術による罠。

 つくづく油断できない男だ。ギフト発動中でなければ、やられていたかもしれない。

 俺は壁を蹴って二階まで跳びあがり、弓矢を構えていた敵を蹴り飛ばして黙らせた。

 そしてすぐさま、一階へ飛び降りる!

 ちょうど、タイムリミットだった。


「……本当に、やるじゃないか」


 モップの大波を捌いたシルバが、自由の身になって動き出していた。


「嘘つきめ」

「策略家と呼んでくれよ」


 そして俺とシルバは、ぶつかり合った。

 やはりシルバの動きは読めない。予兆なく、いきなり繰り出される右ストレート、左中段蹴り、連続して左ローキック。俺はガードするしかない。


 でも……俺だって、『神の眼』を抜きにしても、〈コンセントレイト〉なら二倍の動きができるんだ。

 加えて、二倍の速度が生み出すのは、二倍を超えた破壊力。ほとんどの戦いを俺や、かつてのエレナが一撃で決めていた理由がこれだ。

 俺は左フック、からの、回転して右の裏拳を出す。ヒット!


「どうだ!」

「まったく……強くて……嫌になる」


 ……倒れて、いない。途切れない格闘の応酬。

 強い。本当に強い。シルバ……アリーナ三位、昨日まで雲の上だった戦神ストライカー

 できれば、アリーナで……正々堂々戦いたかった。


「でも」


 今日は、試合ではないから。

 こちらとしても負けるわけにいかない、いわば戦争だから。

 この戦い方を、許してほしい。


 ――バチィッ。


「が……ッ!? これは」


 格闘戦の中、不意に混じった一撃。それはシルバの背後から襲い来た。

 電撃をまとった召喚獣――その名は「ビッちゃん」。


「ルカ……! お前……ッ」


 その少女は、何もしていないわけではなかった。臆病に震えているふりをして、この時を待っていた。

 ルカは強い目でシルバを睨み、言った。


「よ、よくも、今までいいように使ってくれたっすね……」

「ハハハ、まさかの展開だな……!」


「も……もももう、お前たちなんか恐くない……恐くないんだ! 強い味方ができたから」

「おいおい……どうやって、そんな強気になったんだ?」

「シュウさんたちは……お前と違う。あたしを見捨てないで拾ってくれたし……恐怖で従わせようとしない。だから、あたしも恐い時より、強くなるんだ!」


 ルカが叫びながら、ビッちゃんでさらに追撃。

 予想外の攻撃で、シルバの体制が崩れる。隙ができる。

 今なら……俺の、渾身の一撃が入る!


「シルバ。……次は、一対一でやろう。お互い、ウソも騙しも無しでさ」


 俺は全力の拳を、シルバの脇腹に叩き込んだ。

 シルバは……


「……勘弁してくれ。勝てる気がしないよ」


 まだ倒れていなかった。

 今のでも、ダウンまで持っていけなかったっていうのか!?

 自分の拳を見る。確実にボディを狙ったはずなのに、わずかに拳一個ぶん、急所をズラされている。


「だから、もう逃げよう」


 シルバが向きを変えて駆け出す。

 直前まであんなに激しく打ち合っていたのに、もう綺麗さっぱり戦意を失ったかのように。あまりの急な方向転換に、さすがに俺も反応が遅れる。


「ゴルロワさんが怖いからな、俺はしばらく姿をくらます」

「ま……待て!」

「じゃあな、勇敢な少年たち。本当に君らが世界を変えられるのか興味はあるけど……できれば、もう会いたくないな」


 そう言い残すと、シルバは近場の窓を叩き割って、建物の外へ飛び出した。

 本当に――逃げた。


 奴は本気を出していたのか?

 出していなかったのか?

 何を思ってゴルロワに従い、そのうえで、雇い主を捨ててあっさり逃げたのか?

 いったい――何が目的なのか。


 結局何ひとつわからないまま、シルバは俺たちの前から姿を消した。

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