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 鮮やかに覚えている。白。灰。青。身に吹き付ける風の凍り付く寒さ。なめらかな白い稜線に、葉を落としてはだかの木々がまばらに黒く生え、灰色の雲が光を散らしながら走る。一瞬覗く青い空。生ける者の音は絶え、風が雪を巻き上げる音だけが聞こえる。

 北。北辺の、辺境の、あなたのいない地。わたしの生まれた頃に、根こそぎ壊され、深く広かった絆はずたずたに裂かれ、骸と武具の錆、血だまりと恐怖、絶望、非業の敷かれた土地。わたしの故郷。あなたはいない。あなたは来てはいけない。わたしを求めてはいけない。わたしがあなたにあげられるものはなにもない。わたしはなにも持っていない。わたしのなかのものは、すべて壊され奪われた。なにも残っていない。残っていたとしても、いま一緒に暮らす家族のためのものだ。あなたにあげられるものは――……

 風が叫ぶ。カラスがけたたましく鳴く。わたしは走り出す。雪の積もった野を。藁沓を履いて北へ走る。もっと白く、もっと鈍い灰色の雲、もっと眩しい、涙がこぼれるほどの青い空の土地へ。雪が踏まれてきしる。荒く息を吐きながら、わたしは駆ける。見知ったひとはだれもいない土地、わたしのからだにまとわりつく手のない土地、もっと広くつめたく、厳しい風の吹く地へ――……

 逆巻く海、吹雪にこごる海峡。津軽。ヤマトの手の届かぬ場所へ。

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習作 離散 鹿紙 路 @michishikagami

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