複雑な家庭状況

 そして放課後。


「あー、涼しい」

「俺は暑くて死にそうなんだが」


 毎度のごとく屋上にて。


「ノリ悪いなー」


 玲音は頬っぺたを膨らませて俺を睨む。

 ちょっと上目遣いで、なんだか可愛子ぶっている。


「依織くんってそんなノリ悪い感じだったっけ?」

「お前は忘れたかもしれないが、俺は名もしれないキング・オブ・ザ・モブキャラだ」

「oh, king of the mob character!」


 家に居る変態紳士の影響か、何故かここ一ヶ月で急激な外国人化を遂げた我が彼女。

 しかも、ネイティブな発音が地味にウザい。

 忘れてはいけないが、こいつは一応ハーフだった。


「なんかお前って黒髪だし、目も茶色いしハーフって感じしないよな」

「何? お兄ちゃんみたいなのが良かったの?」


 顔を寄せてくる玲音に、俺は考える。

 もし、玲音が晶馬さんみたいだったらどうだろう。

 銀髪碧眼のハーフな美少女転校生かぁ。

 たまに下ネタがえげつないが、基本的には猫かぶってるようなコイツがねぇ……

 うーん、どっかのラノベでそんなキャラ見たような気もするが。


「まぁお前はお前でいいんじゃないか?」

「何それ」

「綺麗な黒髪と茶色の目がチャームポイントじゃないか。それがお前の魅力だろ?」


 そう言うと、玲音は顔を赤くして言った。


「童貞がカッコつけて口説き文句言わないで」

「はぁ!?」

「なんか依織くんそういうの合わないからやめて。鳥肌立ってきちゃった」

「そこまで言うか!?」


 なんだこいつ……!

 人がせっかく慰めてやったのに。

 イラッときた俺は、ここぞとばかりに言ってやる。


「この勘違い変態野郎が! お前なんか顔だけなんだよ! 変態だし、下ネタ多いし!」

「はぁ? 君ちょっと調子乗ってるでしょ。顔だけじゃなくて胸もあるから容姿全体が取り柄なんだけど? しかも下ネタ多いって変態の括りでいいと思うんだけど?」

「……」


 ツッコミどころが多過ぎて、どこから突っ込めばいいのかわからない。

 まぁとりあえず、自分のことを変態と認めているみたいだ。


「君、私のこと勘違いしてるよ」

「はぁ……?」


 すると、玲音は腰に手を当てて威張って言った。


「私は別に変態なんじゃなくて、ただ単に君を見てると下ネタ言いたくなっちゃうだけ」

「余計問題だろうがッ!?」


 なんだこいつ。

 開き直るのかと思ったら、とんでもないこと言いやがった!


「あ、そんなことより」


 相変わらずの切り替え速度にもう驚きもしない。

 玲音はむしゃくしゃしている俺を他所に言った。


「昨日お兄ちゃんがお邪魔したって」

「あ、あぁそうだったな」


 そういえばそんなこともあった。

 たまに、週に一度くらい晶馬さんは顔を見せにうちに来る。

 どうやら、仕事の話をするのとついでに妹と仲良くしようとしているみたいだ。


「なんだか梓ちゃん?に嫌われてるみたいで悲しいって言ってた」

「アイツは嫌ってるんじゃなくて緊張してるだけだと思うぞ」


 そう、梓は晶馬さんと話す時、いつも緊張している。

 表情筋が硬直しているのだ。

 どうやらタイプのどストライクみたいで、どうしていいかわからないらしい。

 最近になってようやく俺は口を聞いてもらえるようになり、そういう会話をたまにする。


「へぇ、じゃあそう伝えとくね」

「おう、あの人喜ぶんじゃないか?」

「うん。でもねー……」


 玲音は何やら不安げに言葉尻を濁す。


「どうかしたのか?」

「お兄ちゃんの元カノって人が週に一度くらい来るのよ。うちに」

「ストーカーじゃん」

「しかも毎週別の人」

「うん。あの人やっぱ凄いな」


 さすが銀髪碧眼美青年。

 基本的に受け答えは紳士的だし、仕事までできてまさに理想的な男なのだろう。

 あくまで表面的には。


「知らない言語で家で痴話喧嘩されると迷惑なんだよねー」

「凄い修羅場だな」

「しかも喧嘩っていうより、お兄ちゃん言い返さないし、サンドバッグに近いけど」

「……」

「そこに新しい婚約者なんて作ったら、もう殺人事件が起きそうだよ」


 晶馬さんは予想より遥かにとんでもない男だった。


「え、何? 女遊びする感じなの?」

「いや、ちょっと話したら堕ちちゃうんだって」

「なんだその能力」


『俺の異能力が周りの女を虜にしてしまうんだが』とかいうタイトルでラノベが作れそうだ。

 何その無敵能力。

 羨ましいこと限りない。

 ただ、親族からしたら危なげに見えるだろうな。

 自分の妹が男を侍らせていたらと考えると、なかなかに思うところがあるのと同じだ。


「お前んちも大変だな」

「そうなんだよねー」


 そして俺はうちに居座り続ける両親について考える。

 毎日家事をしなくていいのは楽になったが、正直他人と暮らすようなものだから、ストレス面での負荷が凄い。

 今まで以上の疲れを感じている。

 俺たちは二人でデカいため息とともに言った。


「アイツら」「あの人」

「「出ていかないかなー」」

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