変人のいる昼休み

「まさかこんな展開になるとはな」

「全くその通り。共感するよ」

「お前が言うなよ……」


 あれから半日が過ぎた昼休みのこと。


 大きなため息をつきながら、権三が項垂れる。

 俺はそれを見ながら弁当の卵焼きを口に入れた。

 噛み締めると、濃い出汁がじゅわぁっと口いっぱいに広がる。

 上出来だ。

 今日の卵焼きも上手くできた。

 俺は卵焼きは出汁巻きにする派だ。

 甘いやつはたまにで良い。


「まぁでも、おめでとう」


 権三はそう言って笑う。

 それにしても、昼休みだと言うのに、教室には人が少ない。

 俺たちの他には数人のグループが一つくらいしかなかった。


「あれ、青波さんと食べなくて良いのか?」

「うーん」


 俺はそう言われて考える。


「青波って昼休みになると弁当も持たずにどっか消えるんだよな」

「誰かと食べてんじゃね?」

「でもさ、青波他クラスに友達とかいんの?」

「お前彼女に酷い言い振りだな」


 そんなこと言われてもしょうがない。

 事実だ。

 彼女がこの地域に来たのって最近だし、まだ学校に通い始めて一週間だ。

 そんな簡単に友達なんてできるもんかね。

 俺にはわからないなぁ。

 あ、今俺のことコミュ障だとか思った奴。

 覚えとけよ?


「それにしても、まさか陰キャでオタクなお前にあんな可愛い彼女ができるなんてなぁ」

「なんか一言余計な気がするけど?」

「いいなぁ、羨ましい」

「無視かよ」


 俺のツッコミに答えることなく、権三は恨めしそうに俺の顔を凝視してくる。


「羨ましいじゃなくて恨めしいになってる」

「実際そうだからな」

「おい」


 短く突っ込むと、権三は急に深刻そうな顔をして、声のトーンを落とした。


「俺にもさ、彼女できるかな?」

「さぁな、努力次第だろ」

「依織もなんか手伝ってくれよ」

「知らんがな」


 なんで俺がお前の恋の応援団長引き受けなければならんのだ。

 こちとら自分のことだけでも手一杯なんだよ。

 どっかのハーフ娘が大暴走してっからな!

 そんなことを思っていると、


「苅田、彼女欲しいんだ?」


 不意に頭上から声が聞こえる。

 上を向くと、そこには隣の席の赤岸が立っていた。

 名前を呼ばれた権三は素っ気なく返す。


「なんだよ赤岸、久しぶりだな」

「久しぶりって、そうだっけ?」

「中学ぶりだろ」

「あー、そうかも」


 赤岸は、そんなことどうでも良さそうにのほほんと笑った。

 そして、俺の方を見る。


「あ、今巷で噂の色男ですか?」

「誰が色男だよ」

「あれ、男じゃなかった……?」

「そこじゃねーよ!」


 なんだこいつ。


「へぇ、海瀬君って結構ツッコミ気質なんだね」

「ツッコミ気質じゃなくて、君自体にツッコミ要素が多いだけだと思うんだ。うん」

「えぇ。でもこの前青波さんにもツッコんでたよね?」

「あいつもツッコミ要素が多いんだ」

「うーん。類は友を呼ぶって知ってる?」

「それは知ってるけど? だから?」

「そう言うボケとか」

「別にボケてねえよ……」


 う、ウゼェ。

 叫びたくなるほど面倒くさい。

 なんだよこいつ。

 本気でヤベェ奴じゃねえーか。

 やはり俺の判断は正しかったのだ。

 こいつとは関わってはいけない。

 今後も要注意だ。

 それに大して話してないのに、なんで俺まで突っ込まれキャラみたいになってんだよ。

 赤岸の中で俺がどんなキャラ設定されてるのか、逆に気になってきた。


「まぁ、依織も少々難ありな性格だし」

「黙れクソコミュ障」

「えぇ!?」


 すまんな権三。

 今の俺は少し虫の居所が悪い。

 すると、そこに。


「お、なんか楽しそうだね」

「あ、青波……」


 ラスボスが降臨した。


「あのさ、その『あ、青波……』ってやつ毎回やるのやめてもらっていいかな?」

「無意識だから気にしないで」


 仕方ないだろ。

 まだ慣れないんだ。

 リアルな女子高生と話をすることに。

 そんなことを考えていると赤岸が青波に言った。


「青波玲音さん」

「はい……?」

「凄く可愛い!」


 そして抱きついた。


「えっ!? 何、何この状況? 依織くん?」

「俺の手にはおえない」

「ええ!」


 ごめんな青波。

 俺もうそのモンスターと関わりたくないんだ。


 しかし青波が驚いている一方、赤岸は嬉しそうな顔で青波を満喫していた。

 二人とも身長が低いと言うこともあり、なんか凄い絵面だ。

 ちっちゃい子が二人で抱き合ってる。


「はぁ、ご馳走さま」

「は、はい」


 解放された青波は髪の毛が乱れて、制服も乱れて、なんだかとても色っぽかった。

 ただ、それにしても。

 どうしてこうなった。

 何故この四人が揃ってしまったんだ。

 しかも昼休みは、残り時間三十分以上ある。


「あぁ。しんど」


 俺は心の声が漏れるのであった。

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