第21話 偽賢者
俺はいつものように監視端末を配置する。
王宮での事件から俺は虫集めに奔走。
大量の虫たちによる監視が可能になった。
壁のダニ一匹に気がつく人間はほとんどいない。
俺は覗き放題である。
ただエロに走る気力は……ない。
実は出し抜かれたのを気にしている。
なので神聖国の使節団を中心に監視している。
なお本体は……。
「うりゃああああああ! ドラ○ブシュート!」
賢者ちゃんがシュート。
ヘロヘロとボールが飛んでいく。
その後ろを神聖国の女官さんが追っていく。
「無理するなって」
「ラルフくん、ラルフくん! スカイラ○ハリケーンやりますよ! はい寝っ転がって!」
「怪我するわボケ!」
サッカー中である。
体を得てハイテンションの賢者ちゃんがドリブルをする。
知識はあるが体力がないので息が上がっている。
俺とルカはそれを見てハラハラしていた。
走り回っていたセイラの動きがゆっくりになる。
「うははははははははは……ぜいぜいぜいぜい……」
やはり電池が切れたか。
セイラこと賢者ちゃんが電池切れしたのを見て、俺はルカと話す。
「ごめんなルカ。セイラ様は友達がいなかったみたいでさ、あんなにはしゃいじゃって……」
するとルカは微笑む。
「ううん。いいよ。少し前のぼくと同じだから」
いいこや。わかる。賢者ちゃん。これがいい子。
賢者ちゃんは悪い子。めっ!
【いろんな子がいるからハーレムに憧れるんでしょ。ご主人様だって喜んでるくせに!】
幼女のハーレム喜ぶやつがいるかー!
バカなの! 本当にバカなの! 賢者ちゃん本当にアデル様に言いつけるからな!
それで、聖女セイラの敵対者をちゃんと調べた?
【はい。敵対者ですが……どうやら聖女はニセ賢者のことを告発しようとしてたようです】
どうやってよ?
だって長い間統治してきた実績があるでしょ?
偽物でも『解釈間違えちゃったてへぺろ』ですむんじゃね?
告発する意味がねえ。
そもそも人間にはなにを言っても無駄だから、アデル様は人間を諦めたわけだろ?
【……うーん。そうですよねえ。意味ないですよねえ。……もしかして! ご主人様、告発しようとしてた先が問題なんじゃ。神聖国に告発するのは同じですが、目的が神様への告発だったら】
どう違うのよ?
【だからー! 亜神です! 敵は亜神なんです! 光の神様に告発して力を封じようとしてたんです!】
……まずい!
光の神様の言ったことがようやくわかった。
光の神様「好きにせよ」は「もう知らねえ!」って意味だ……。
使徒どうしで殺し合いしちゃったんだ。それで光の神様ブチ切れたんだ!
賢者ちゃん! 光の神様に連絡取れる!?
【もう、ずうっとできません!】
ですよね!
もう人間なんて相手にしたくないですよね!
「……破門された」
俺はがくっと崩れ、四つん這いになる。
セイラも同じポーズになる。
「ど、どうしたの!? 二人とも!」
ルカが心配そうな顔をする。
女官さんたちも同じだ。
「すぐに陛下と使節団の責任者の方々を呼んでください。重大な事実がわかりました。おそらく……我々人間は光の神様に破門されました」
俺は泣きそうな声で言った。
本当に泣きたくもなる。
だってさ、リアル神様がいる世界で、どう考えても偉い神様である光の神様に見捨てられたら……死ぬしかない。
だって光の神様だったら、太陽隠すだけで氷河期起こせるもん。
そのヤバさは科学を知ってる勢の方がよりわかるはずだ。
『もういいや人類絶滅させとこ』ができちゃうのだ!
絶望を貼り付けた女官や王国の兵士たちが慌ただしく伝令に走った。
誰だ! 全人類巻き込んで自殺しようとしてるバカは!
偽賢者ってバカなの!?
お前な! 寒いのがどんだけ辛いかわかってんのか!
凍傷がどんだけきついかわかってんのか!
すぐに陛下と使節団の会合が開かれた。
俺は死んだ魚のような目をして言い放った。
「人類……絶滅するかも……です」
賢者ちゃんこと聖女セイラも同じ目をして言った。
「高い確率で光の神様に見捨てられました。使徒による使徒への殺害未遂が原因です」
「ど、どういうことだ! ラルフ!」
「現在、我々は交信すら拒否されてます。光の神様の意図がわかりません。いやもう人類に見切りをつけたのかも」
「……え、本当に?」
「本当に。……幸いにもまだ太陽が隠れてないので、事件を解決すれば許してもらえるかもしれません」
「お待ちくだされ地母神の使徒様! そんな理不尽なことをおっしゃられても、我らにはどうすることもできません!」
「はああああああああ……」
俺はため息をついた。
セイラもため息をつく。
セイラはこめかみを押さえながら言った。
「その頭にはなにが入っているんですか……。今さら取り繕っても遅いですよ。私が賢者を告発しようとした記録が見つかりました。その直後に呪殺されそうになったのですから、犯人は明確でしょ?」
「で、ですが、賢者様は光の神様のもとで森羅万象の管理を……」
「賢者は地母神様の眷属です。もう一度言いましょうか。賢者は地母神様の眷属です」
賢者本人が言うのだから説得力が違う。
「そ、そんな……では賢者とは……」
その瞬間だった。
バリバリバリバリと大きな音がした。
俺達と同じ部屋に男が出現していた。
大男だ。緋色の髪の大男。
若く見えるが見た目通りの年齢じゃないだろう。
俺の脳は全力で男の戦闘力を計測していた。
やつが動く軌道が全く見えなかった。
つまり俺には知覚できないスピードでの移動。
催眠術かもしれない。
時止めって線はないだろう。
それができたら賢者ちゃんはもう死んでる。
「光の使徒……亜神、大きな音。雷かな? 雷そのものの神ではないだろうけど」
男は俺を見下ろしていた。
本人はそれで威圧したつもりだろうが、俺からすれば感じるのは小物臭だ。
六歳児相手に全力で威嚇する。バカを晒すにもほどがあるだろ?
そもそも犯行がバレてからノコノコ出てくる時点で……な。
「お前が地母神の愛子か? どんな困難をも乗り越える英雄と噂の」
「戦場にも行ったことがない俺が英雄とか……笑わせんなって。俺はただ数あるシナリオの中からマシな方をつかんできただけだ」
俺の手からは何度も命がこぼれた。
実の両親に村の連中、それにフェイのおっちゃん。
完全勝利を手にしたことなんかない。
「ふ、生意気な小僧だ。だがよくぞ見破った。亜神どうし決着をつけようぞ!」
それを聞いて、俺は嘲笑った。
「亜神どうし! あははははは! てめえはバカか! なに格好つけてんだよ!」
「なにがおかしい!」
「人類が滅びるかもしれねえのに『勝負しようぜ』かよ。本当に幼稚なやつだ。お前なんざ相手にするのもバカらしいわ」
俺の口から勝手に煽りの言葉が出てくる。
だってさ、こいつバカだもん。
いや本当はバカじゃないのかもしれない。
何年生きてるかわからないが、ずっとそれで許されてきただけだ。
獣としての命をかけた戦い。
復讐者たちの人生の後始末。
そしてとうとう思い上がった亜神を叩きのめして神のケツを拭くってか。
バカじゃねえの?
【確かに相手はポンコツに見えますが、ご主人様が達観しすぎているだけです! それに敵の力は本物です! ご主人様と相性が悪い力です!】
だろうね。
この世界って素早いほうが強いもん。
そもそも俺は戦闘向きじゃねえんだよ!
ただの肉なんだからよ!
【でも勝つんでしょ?】
賢者ちゃんは俺をどこまでも信じている。
ああ、たぶんな。
どんなに強大な敵であろうとも最後に立っているのは俺だ。
それが実の両親や村人たちの肉を使った俺の義務だ。
ミッションはシンプルだ。
目の前のアホをぶん殴る。
だから俺は「あっち行けや」と手をひらひらと振る。挑発マシマシだ。
次の瞬間、やつは俺の胸ぐらをつかんで吊し上げた。
バカが。こんな安い挑発に引っかかりやがって。
俺はニヤリと口角を上げた。
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