第17話 婚約

 騎士団が到着し、俺は捕獲される。主に見た目的な問題で。

 俺も疲れていたのでおとなしく投降。

 事情聴取で皆殺しにしたこと。

 狼藉を働こうとしたものや、ルカを狙ったものは虫けらのように殺害。

 俺に勝負を挑んだものだけは、手を出さずに死ぬまで攻撃させた。

 あとは知らん。

 と、主張したところ俺は父ちゃんのところに配送された。

 どうやら証人として一人だけ生かしておいたのに恐怖で壊れていたらしい。

 父ちゃんは俺を見るやいなや走って抱きしめる。


「よく……よく生き残ってくれた」


 父ちゃん号泣。

 おっさんの本気の涙に心を動かされないものはいない……と思う。

 家に帰ったら母ちゃんに怒られた。そして泣かれた。

 今後気をつけようと思う。

 母ちゃんは俺に過去に父ちゃんに妻と子どもがいた事。

 二人とも内戦中に病気で死んだこと。

 父ちゃんはいまだにそれを後悔してることを教えてくれた。

 俺が養子であることは触れなかった。

 知ってるんだけどね。


 次の日。

 俺は王様に呼び出された。

 今回の件で褒美をくれるらしい。

 父ちゃんに連行されて玉座の間に行くと人払いがされる。

 俺と父ちゃんと王様、それにルカ。おまけでジェイソン所長だけ残された。


「これで今回の件を知る三人だけになったな」


 王様はそう言うとため息をついた。


「ラルフよ。まずは礼を言おう。

ルカと私の命を救い、ルカの呪いを解いたこと。感謝の念しかない。

褒美を取らせようと思う。

地位でも金でも土地でも可能な限り望むものを与えよう」


 俺は考えた。

 いらん。

 金が必要な年齢じゃないし、領地をもらっても管理できない。

 地位には興味ないし、女遊びには年齢が足りない。

 ルカと遊んでたほうが面白い。

 犯人の免罪も皆殺しにしちゃったし、それに王様だったら一族郎党連座で処刑とかはないだろうし。

 欲しいものがなにもない。


「いりません」


「だろうな。……では我が娘をもらってくれぬか?」


「え? ……娘?」


 俺はルカを見た。

 顔を真っ赤にしてもじもじしている。

 おい、ちょっと待て。

 お約束すぎて、逆にその発想はなかった!

 そうか、王様も父ちゃんも、ジェイソン所長もルカの性別すらわからなくなったのか!

 俺は未婚女子と二人きりでいたわけだ。

 なん……だと……。


【おめでとー】


 棒読み、しかし声が冷たい!


【うっさいです!】


 賢者ちゃんが冷たい!

 どうしたの賢者ちゃん!


【がうー! がるるるるる!】


 賢者ちゃんがグレたー!


「スタンリーも異論はないな」


「は! ありがたき幸せ!」


「待って、二人とも待って!

俺が来る前に話まとめてたよね? ねえ、話まとまってたよね!」


 すると王様が俺をじっと見る。


「嫌なのかね? うちの娘に不満があるのかね?」


 やめて真顔で圧力かけるの!

 本気でやめてー!


「不満もなにも! 私は! まだ! 五歳なんですって!」


「五歳なのだから、そろそろ婚約者がいてもおかしくないだろう? なあ、スタンリー」


「ええ、なにもおかしいことはありませんな」


 貴族の常識ッ!

 そういうとこやぞ!

 話にならない親たちから目をそらし、俺はルカを見る。


「うッ!」


 涙目である。うるうるしている。

 ルカは自分が女の子であることを何度も主張したのだろう。

 だけどそのたびに忘れられたに違いない。

 ルカから見れば俺はヒーローなのかもしれない。

 どうすればいい? どうする俺!


【はいはい、ヤレヤレ系主人公。ばーかばーかばーか!】


 ぐッ! あー、そういう態度!

 そういう態度! わかったもんね!

 ハーレム系鬼畜主人公になるもんね!


「婚約します」


【ご主人様のバカーッ!】


 賢者ちゃん相手に小さな勝利を得て、俺はルカの婚約者になった。

 はいはい、どうせ15歳くらいになったら婚約破棄になりますって。

 主に俺の性格上の問題で。

 あとは山に庵でも作って隠居しようっと。


 それからはたいへんだった。

 処刑に次ぐ処刑。

 もう王様に処刑を止める術はない。

 連座での処刑こそなかったが、数多くのクーデターに関わっていた貴族が処刑された。

 処刑を待たずして農民の武装蜂起で殺されたものまでいる。

 いかに徳の高い君主でも、受け取る側の民度が低ければ逆恨みするだろう。

 内戦の処理として大人は処刑して子どもだけを助命するのが正解だったのかもしれない。

 あくまで結果論だけどね。

 結果として王様の派閥は強固な絆を結び、内部に敵はいなくなった。

 事件は表向き、父ちゃんが陰謀を事前に察知し王様とルカを逃したことになっている。

 俺の活躍は表向き闇に葬られた。……人の口に戸は立てられないわけだが。

 噂によると俺は剣の天才ということになっている。持ったこともないのに。

 普通なら婚約の話が舞い込んでくるが、姫さまの婚約者なので貴族たちも遠慮している。

 じゃあ父ちゃんはというと、親戚が増えた。会ったこともない親戚山盛り。

 でも金を貸せとかは言われない。

 むしろ貢がれる側だ。

 毎日のように俺に贈り物が届けられる。イラネ。


【ねえねえご主人さま! この石光るー! かわいいー!】


 はいはい、賢者ちゃんは光るものが好きなのね!

 賢者ちゃんは大喜びだ。

 父ちゃんも贈り物否定派なのだが、受け取らずにはいられない相手もいるのだ。

 二人とも喜んでないが、リディア母ちゃんと賢者ちゃんは大喜びである。


【もっとちゃんと見たいのでポイント使いますねー!】


 はいはい。余ってるんでどうぞ。

 もらった宝石の半分は王様経由でルカにプレゼントするからな。

 残ったのは母ちゃんに渡す。

 ガキが財産持っていてもろくなことがない。

 表に出してしまおう。

 賢者ちゃん、欲しいのを選んでおきなさい。

 あと母ちゃんとルカに似合いそうなの選んでくれるかな?


【うわーい!】


 王様も共犯にしておけばなにかと楽である。

 もちろん純粋にルカへプレゼントをしたい気持ちもある。

 と言ってもルカが今欲しいのは友だちと……将棋仲間だ。

 だって拳くらいの大きさの宝石持っていったときより、近衛騎士団の将棋クラブメンバーを連れて行ったときのほうが喜んでいたもん。

 あと従者を連れてサッカーボール持っていったとき。

 楽しそうに笑うルカを見て王様泣いてたもん。

 人の幸福を全力で邪魔するのがモットーの俺でももらい泣きしたね。


【まーた、そういうこと言ってー。号泣してたくせに!】


 ちょ、おま!

 なんでバラしちゃうの? ねえねえ、ほんと!

 俺のクールなダークヒーローのイメージが台無しよ!


【……え? クール?】


 だーかーらー!

 マジツッコミやめて!

 それと領地だ報奨だと王様に押し付けられたが、幼稚園生のお年玉状態だ。

 父ちゃんががっつり管理している。

 お菓子を買う金もない。

 体に悪そうな屋台のお菓子をルカと食べようと思ったのに。

 ルカに庶民の味を知ってもらいたい!

 駄菓子の味に染めてやりたい!


【まったく、しかたのないひとですね。

それにしても雪山に王宮にとサバイバルしてきましたねえ。

とすると、次は世界……】


 え……やめてくんない。

 賢者ちゃんの予言は的中率高いから。

 いやほんとやめて。


【ですよねー、宝石眺めてゆっくりした日々を過ごしたほうがいいですよねー】


 だよねー……。だよねー……。

 本当に大丈夫だよね?


【不安になるのでやめてください】


 こうして俺は謀略からルカを救い生存したのである。

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