第3話 冬山からの物体X

 差し迫った死を回避した俺。

 だけどそれは一時間が次の日に変わっただけだ。

 足りないもの。それは食料だ。

 離乳食かそれに該当するものを手に入れねばならない。

 これがSFだったら酸素含有液で満たされたカプセルで栄養補給されるのになあ……。

 だがこの世界じゃ赤ん坊は食べさせてもらわなければ死ぬしかない。

 だとしたら発想を変えてみよう。

 栄養補給をSF式にしてしまえばいいのだ!

 管と電気ケーブルに繋がれた孤高の戦士……まさにサイバーパンクである。

 俺は発想でこの悪意しかないクソファンタジーに勝利するのだ!


 ……やるか!


 まずは繭の内側に細い触手を生やす。

 喉と触手を接続。触手を管にする。

 大きな血管は避けなければ……いち、にい、さん!

 ずぶり。

 俺は触手を首に突き刺す。

 痛い……。思わず内股になるくらい痛い。

 傷口はすぐに肉で癒着。

 血は流れなかった。

 意識ははっきり。死ぬ感じはない。

 拒否反応はわからない。

 腐ってきたら考えよう。


 次に内蔵と触手を接続。こちらも管に。

 ずぶり!

 ぎゃー! こっちは背骨の神経がビーンってした! ビーンってした!

 内臓近くの血管に刺したのに背骨がビーンって!

 ……偉いぞ俺。よく痛いの我慢した!

 死ななかった俺えらい。


 排泄用の管も接続。

 こちらの具体的な描写は黙秘する。

 ただ一言。


「くっころ」


 次は呼吸だ。

 空気穴を開けるより溶液で満たしてしまったほうが衝撃や寒さに強いだろう。

 それにコアを液体で満たせば揺れや衝撃にも強くなる。

 今の状態だと段差の衝撃で俺が潰れたりとかがありえる。本当に笑えない。

 液体呼吸っと。作り方も成分もわからんけど。

 そこは魔法で補おう。

 水中で呼吸できる魔法……あるのか?

 はいはい検索検索。


【一件ヒット】


 ……うっわ、……あったわ。

 じゃあ血から溶液作って内部を満たそう。

 雪から精製水作ってミネラルを加えてっと……。

 酸素は肉に呼吸させて循環する感じで。

 よし、やるぞ!


「水の神よ。生命をつなぐ水の中で生きる力を」


 なお他人には「ばぶー、あー、だうー」と聞こえると思う。

 でも呪文は無事発動。

 エラのようなものが俺の首にできる。

 なるほどね。

 俺は触手を外に伸ばし取り込んでいく。

 毒のバッドステータスが出ないので、ばい菌とかは肉が浄化してくれる模様。

 ばい菌とかに繭はがっつり感染してるんだけど、俺には感染しないのだろうか?

 ……まあいいや。

 そのときは死ぬだけだ。

 とりあえず24時間の生存を目指そう。

 繭の空気穴を塞ぎ、俺は中を溶液で満たす。

 ゴボッと口や鼻に溶液が入ってくる。

 鼻が一瞬ツーンとしたが苦しくなかった。

 溶液が肺に入ってもむせることはなかった。

 ちゃんとエラで呼吸できている。

 はい発音テスト。


「ごぼッ……あーうー……ごぼッ……」


 うん、なんとか喋れる。

 溺れる感じもしない。

 魔法すげえ!

 まだ生後半年。ちゃんと喋れないのが辛い。

 喋れるようになったら、ここの振動を拾って外にスピーカーでアウトプットする装置が必要だ。

 俺、完全に人外になる。

 考えたら負けだ。

 次に栄養補給。

 母乳は血から作られてるから当面は血液から栄養補給。

 これで数日は生きられるはずだ。

 根拠はないけどな!

 今後の計画としては肉食獣を取り込んでビタミンを体内で生成できるようにしよう。

 植物を取り込んでミネラルを地中から補給できるようにもしなければ。

 これらのタイムリミットは近い。

 命を繋ぐって本当に大変だ。

 次は襲撃者対策。

 俺は触手で隣家を漁る。

 食料を繭に取り込みながら武器を探す。

 猛獣がいるのだから武器があるはずだ。

 魔法はあるけど、どこまで通じるか未知数。

 肉に取り込むのも……自分より大きない相手を取り込めるか。

 生きてる個体を取り込めるかの実験ができてない。

 やはり武器を持ったほうがいい。

 まず居間で血まみれのナタを見つけた。

 住民がこれで熊と戦ったのだろう。

 10メートルの熊相手じゃ心もとないけどゲット。

 触手で振ってみる。

 ぶんぶん。ゆらゆら。

 あー……骨と肉の構成じゃないだめだ。

 まっすぐ振り下ろせない。力も入らない。

 これじゃ刺すタイプの武器しか使えない。

 人間って武器を使うように設計されてるんだな。すげえぜ人間。

 触手が物置部屋につく。

 槍が置いてあった。

 なるほど、ナタは日常品だからすぐ手に取れるところに置いてあったのだ。

 槍は物置にあったからいざというときに取りにいけなかったわけだ。

 槍はたぶん木製の柄の先に硬い穂先がついている。

 光学センサーがないから、そこまでしかわからないや。

 触手の触覚も当てにならないし。

 石突や胴金みたいな複雑なものはついていない。

 試しに触手で持って突いてみる。

 とすん。

 だめだ筋力が足りない。

 なんでやねーん!

 セルフツッコミ。

 ばきーん!


「おんやー?」


 思わずツッコミで触手を振ってしまったら部屋の壁が壊れた。

 幸い外壁じゃなかったので温度は下がらない。

 よく見ると戸がグチャグチャに壊れている。

 ついでに戸の近くに巻き添えになったネズミの死体発見。

 とりあえず回収。

 なるほどムチみたいに触手を振ればいいのか。

 とりあえず最低限の護身はできそうだ。

 では扉の修理だ。

 寒いもんね。

 触手で完全修理は不可能。

 なので家具やベッドの藁を立てかけてバリケードにする。

 出入りは窓から。

 俺はドアの前にバリケードを作った。

 風が隙間から吹き込んでくる。

 隙間風はあるがだいぶマシだ。

 よし、これで吹雪が止むまでここにいよう。

 吹雪が止んだら外に出て村人の肉を回収しなければ。

 申し訳ないが、救助が来るまで使わせてもらおう。必要な分だけね。

 あとでちゃんと埋葬するから許して。

 俺は一息ついた。

 今度こそ賢者先生のスキルを使うときだ。


 賢者起動。生き残るための最善策を提示しろ!


【森羅万象へようこそ。……検索完了まで八時間】


 ……寝るか。

 ポンコツ賢者ちゃんには俺の寝てる間に動いてもらおう。


 俺は目を閉じる。

 風の音がずっと聞こえている。

 次の熊の襲撃がいつなのか。

 それが気になりすぎて俺の眠りは浅かった。



 名前:なし

 種族:魔人

 LV:3

 HP:3800/9413 MP:10000/10070

 力:31 体力:999 知力:108 魔力:999 器用さ:690 素早さ:5 EXP 1013/65535


 スキル


 魔法 LV:999 苦痛耐性 LV:666 精神耐性 LV:666 低栄養耐性 LV:90 物理耐性 LV:666 寒耐性 LV:90

 賢者 LV:666 スキル割り振り LV:2 毒:LV1 ←


 スキルポイント:9413


 称号:邪神の寵愛、ダークメサイア、死を乗り越えしもの、キメラ



【アップデートします。アップデートします。アップデートします……。

スキルポイント使用します。アップデートします。アップデートします。アップデートします……】

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