第19話 逢はでこの世を 過ぐしてよとや

『先生、おはようございます。』

『あぁ…おはよう。そう言えば、温泉施設の件なんだけど…近所ではやりたくないんだけど、大丈夫かなぁ?寧ろ、取材というより、気楽な方が良いかなぁ?…』

『あぁ、その件はまだ、伝えてませんよぉ…

私も先生が近所のスパよりも、しっかりと温泉でゆっくりしてもらった方が良いかなぁ?と思っていまして…すいません。』

『いやいや、寧ろその方が助かるなぁ…7月の中旬あたりで熱海や伊豆あたりで宿を取ってもらっても良いかなぁ?』

『はい。大丈夫ですよぉ…。』

『ところで、いつもの?』

『はい、ありますよぉ。ルイボスティーとチキンサラダとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチです。』

『あぁ…ありがとう。』

『あぁ…ところで、海外旅行は行かれた事はあるんですか?』

『えぇ?』

『机の上に、航空券のチケットの半券がありましたけど…』

『あぁ…これか、たまたま、大学の後輩がグアムに行ってきて、家に寄っただけだよぉ…その時に忘れていたのかもなぁ…海外には行った事ないなぁ…』

『あぁ…そうでしたねぇ?確か、バイト生活で学費を稼いだんですよねぇ?大変だったんですねぇ?』

『そうだねぇ…大学の単位を取るのも大変だったなぁ…』

『あぁ…ところで、何処の大学だったんですか?』

『えぇ?頭の良い大学ではないから大学名までは…』

『でも、先生が決めた大学ですよねぇ?自信をもって誇りにして欲しいなぁ…』

『そうだねぇ…確かにねぇ。』

『笑わないかなぁ…』

『もう、先生ったら、学歴コンプレックスを持ち過ぎですよぉ?』

『桜宮文化大学って知っている?』

『あぁ…聞いた事ありますよぉ。』

『あぁ…知っているんだぁ…良かった。私の時は、東京都で一番、頭の悪い大学でねぇ?恥ずかしいぐらいだったんだ。東京への憧れもあったけど…』

『でも、先生はその大学のOBとして、今では有名人ですよぉ。最近では、女子の志願者が増えて、女子の割合が8割ですよねぇ?それに、芸能人も多く通っていますねぇ?』

『えぇ?そうなんだぁ…あぁ、ところで、稲村さんは何処の大学なの?』

『あれぇ、伝えてませんでしたか?藤ヶ丘女子大学ですよぉ。』

『あぁ…そうなんだぁ…』

『知らないでしょ?』

『やっぱりねぇ?藤ヶ丘女子大学は中堅の大学ですけど…これといってパッとしない大学ですけど…最近は大学の陸上部が頑張って女子大学の駅伝は毎年、出る常連になってますよぉ?』

『すごいねぇ?』

『でしょ?だから、どの大学を出たとかではなく、その大学で何を学んだかによると思うなぁ…私は、高卒だろうが中卒であろうがその人の中身が重要だと思いますよぉ。』

『でもなぁ…現実は甘くないのが、現実なんだぁ…今でも、友人は人生のレールに乗れなくバイト生活しているんだぁ。』

『えぇ?そうなんですか…すいません。つい、理想論を述べてしまいました。』

『いやいや、稲村さんが悪い訳ではないよぉ。若いうちに人生で躓いても、夢を持って階段を一段、一段登っていく気持ちは大事だねぇ?明日の事がわからないように人生はもっとわからないからなぁ?』

『そうですよぉ…夢は描くモノではなく夢は叶えるモノですよねぇ?』

『そうさぁ!夢を描くなら自分を信じれば『自信』になるのさぁ!あぁ…原稿が出来ているから、持って行ってねぇ?』

『はい。』

『次の原稿が出来たら、連絡するねぇ?』


『あぁ…夢を描くには『自分を信じて『自信』にするねぇ?カッコいいなぁ…成功の裏には努力が必要なんだなぁ。成功したコメントには深みがあるなぁ。それにしても、『東京』への憧れとギャップに苦しんだんだなぁ…キャンパスライフを楽しめなかったからかなぁ?でもなぁ…誇りを持ってもらいたいなぁ…先生に憧れて大学に入学した人も多いからなぁ…』


『あぁ…久しぶりに元気になったなぁ。学歴コンプレックスかぁ…確かになぁ…自分の出た大学を誇りにしていなかったなぁ…情けないないなぁ…それにしても、卒業した後に女子の志願者が増えていたのか…久しぶりに吉村教授に挨拶に行かなければなぁ…ありがたいなぁ…気づかせてくれて…よし、仕事、仕事だなぁ…。』


今日の百人一首は…

『伊勢〜難波潟 みじかき芦の ふしの間も

逢はでこの世を 過ぐしてよとや』


20××年


『先生、ひどい、ひどいよぉ!何で、何でなんですか?先生とお逢いしないで世を過ごせとおっしゃるのですか?明日からニューヨークで講演会で6ヶ月滞在ですって?』

『だからねぇ?久美ちゃん、これは仕事なんだからさぁ…解って欲しいなぁ…』

『私と仕事はどちらが大切ですか?』

『馬鹿だなぁ…どちらか一つ選ぶなら久美しかいないけどなぁ…今は両方だよぉ…解るよねぇ?』

『いやだなぁ…一緒に行きたいなぁ…少しの時間も逢えないって事は一生、1人でいろって事よねぇ?』

『はぁ?何でそうなるんだよぉ。解ったよぉ…助手としてきてくれるかい?でも、仕事は大丈夫なのかい?』

『先生の担当は私ですから、大丈夫ですよぉ…』

『あぁ、そうなんだぁ…少し、離れたいけどなぁ…』

『えぇ?何か言いました?』

『いやいや、何も言ってないけど…』

『ふぅ、夢ならさめてくれないかなぁ…あぁ…逢はでこの世を 過ぐしてよとや…』


『あぁ…夢かぁ…、ふぅ、いったい何があったんだぁ…マンネリ化していたなぁ…久美ちゃんは離れたくない。でも、私が離れたいとは?なぜなんだぁ…それに、ニューヨークで講演?一ヶ月滞在って?あれぇ、ポケットに1ドル紙幣…?』

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