テンプレ……かと思いきや?
「や、野盗だァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「!?」
突如として、前方から悲鳴が上がった。
俺は場違いながらも、またテンプレかと思ってしまった。
でも、仕方ないことだろう。大きな街へと続く、幹線道路はだいたい野盗やら、山賊やらが居る。そして、人目のつかない森林へ連れ込み、襲う。
俺のついた言い訳も、あんなド田舎でさえなければ通じたかもしれないと、少し思った。
__行こう、ベルセルク。
そんな、言葉掛けすらなかった。気づいた時には、ベルセルクは走り出していた。鬱蒼とした深い森林の中へと駆けていく。
ぐんぐんと、悲鳴の根源との距離が縮まっていく。五日間の修行をもってしても、ベルセルクのスピードについていけなかった。
やはり、龍である。身体能力が異常なんだな、これが。
それでも、何とかベルセルクが現場についたのを確認することが、できた。
「た、助けてぇくれぇぇぇぇぇぇぇ……」
「くそっ、間に合わなかったか」
俺が追いついた時には、 野盗に襲われたと見られる商人達は、襲われた後だった。馬車はひっくりかえり、中はもぬけの殻だった。
商人達は、森の中にできた木のないエリア__確かギャップとかいった__にいた。数は、目測で二人。全員が男だ。
「大丈夫ですか?」
俺は歩み寄って声を掛けようとした。
だが俺が近づこうとすると、商人がニヤリとした気がした。足を止めてしまう。
「どうしたの、ライト?」
ベルセルクはまだ気づいていない。いや、俺の方が考えすぎなのかもしれないが。
「ちょっと、怪しい気がする」
俺が正直に言うと、ベルセルクも表情を変える。
「どこが?」
「あいつら、罠かもしれない。近づくと、少し笑った気がしたんだ」
「分かった。警戒しつつ、接近してみよう」
今度は、ゆっくりとにじり寄っていく。そっと、何かをされても対応できるように、歩いていく。
「は、早く助けてぇくれー!」
商人は、助けを求める。声は上擦っている。
「確かに、怪しいね。焦っているように感じるな」
ベルセルクの指摘通り、商人達は、少し焦っているように見える。まるで、このままだと騙せないと言うかのように。
「もっとだぁ、もっと近づいてくれ!」
「決まりだね」
「ああ」
答えは出た。あとは、行くだけだ。
「今から行く!もう少しだけ待っててくれ」
俺が、聞こえるように大きな声を出すと、商人達は安堵する。普通に考えれば、救出されることが分かったからだと思う。
けれど、もう彼らの怪しさは、無視できないほどのものだった。
「今から行っくよっと、
体が消える。一瞬のことなので、彼らはまだ俺が跳んだことに気づかずに、安堵の表情のままだった。
着地。
「ひいいっ!」
商人は理解がようやく追いつき、驚く。
ドスッ。
鈍い音がする。何かが、商人の手から落ちたのだ。
「あっ……」
商人から声が漏れる。いや、落ちたものから判断すると、そんなことも言えないだろう。
それは、小刀だったからだ。
「これは、どうゆうことですかね?」
助けてもらう側が、持つはずのものではなかった。
「………ぐっっ、やれぇ、ビジェス!」
「ようやく化けの皮が剥がれたか」
「ライトの言う通り、か…」
ビジェスと呼ばれた野党の片割れは、口を動かし何かを唱える。
「ま、まずい。魔法だ、ライト!」
「え?」
予想外だった。まさか、こんな野盗が魔法を使えるなどと思わなかった。対応が遅れてしまう。
しかし、
「ふ、ふ
いかにも、下級魔法らしい技名が出てくる。ある意味驚いてしまう。
「こんななのか……?」
赤竜の炎攻撃に比べれば、大きさも速さも低レベルだった。
「ははっ、そのまま燃え尽きろぉぉぉ!」
野盗は、俺の発言を勘違いしていた。 恐怖のあまり体が動かないのだと、判断したのだろう。
ポスゥ…
俺の肌に触れたその炎球とやらは、情けない音を立て消えた。無論痛くも痒くもないし、火傷すらしない。
「嘘、だろ……」
魔法を放ったビジェスだけでなく、俺の目の前の奴まで放心状態だった。
「ふーん、心配する程じゃなかったか」
ベルセルクも、自分の考えが杞憂に終わったことを知り、安心する。
「おいおい。この程度の魔法が効くとでも?雑草ならともかく、このザマじゃ木の一本すら、燃やせねぇぞ?」
「た、助けてぇくれぇぇぇぇぇぇぇ……」
奇しくも、俺たちをおびき寄せる時に使った台詞を吐く。だが、その声音は本当に震えており、恐怖がありありと表れていた。
「どうっすかなぁ。なぁ、ベルセルク?」
俺は、彼女に判断を委ねることにした。
「縛って、ドナセスの役人に提出、かな」
「りょうかーい」
俺たちの会話を聞き、落胆したようで彼らは溜息をついた。
しかし、
「くっくっく、ばぁーか」
「っ?!」
突然、野盗は笑い出す。諦笑ではなく、嘲笑。勝利をまだ信じている。
「ライト、上!」
「!」
今度こそ、焦って上を向く。
そこには、一つの魔法陣が発生していた。色は、毒々しい紫。竜が出したほどの複雑さはないが、文字がびっしりだった。
「こ、これは……」
「ビジェスの得意魔法、
「そうか、ライトを人質にするつもりか!」
ベルセルクは、その魔法の真意にいち早く気づく。毒で身動きの取れない俺を人質にしてしまえば、一気に形勢逆転できる。
「まぁ、魔法が発動すればの話だけどね」
「はあ?」
「
俺は、頭上に発生した魔法陣に右手で触れる。
ゴバァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!
派手なものが割れる音がする。
「な、なにぃ!?」
有り得ないことではない。
魔法を
「だ、だけど魔法陣破壊するなんて、出来んのかよぉっ!」
野盗の言うことは最もだ。
「しっかし、俺のこの技は気を大量に送り込むんだ。いくら、タイプが違うとはいえ、力は力。莫大な量の『気』によって、マナが歪められると思ってな。賭けだけど、上手くいってよかった」
「くそっ」
「終わりだ」
野盗が見せた隙を、俺とベルセルクが見逃すわけがなかった。
ベルセルクは魔法を使うビジェスの方を、俺は足元のやつをそれぞれ処理する。
意識を刈り取られた二人は、地に力なく倒れる。
ようやく、これで戦闘終了だろう。
俺たちは、フゥと安堵の息をついた。
通りすがりの龍喰らい ヨルムンガンド @Jormungand
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